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ブランディングの続き。中小企業のために

前回、ブランドについての記事を挙げた。これからの企業にとって、「ブランディング」をやらない選択肢はない、と。ただ、やってもなかなかうまくいかない。だから多くの「プロ」が、積極的に啓発している。それがあまりに小難しいので、簡単に示してみた。どうやったら、顧客から指名買いされるようになるか、だ。


ブランディングとは、小さな企業ほど強く意識すべき戦略だと考える。なぜなら、この手法は、「余計なものを捨てる」「何かに特化する」「特定の誰かのために全力で努力する」というものだからだ。みずからの体力に見合ったことに集中する。だから、中小企業に向いている。
※冒頭画像は、中小企業のブランディング模範事例「よなよなエール」、<トラベルJP>からの借用。<よなよなエールの工場見学!軽井沢・ヤッホーブルーイング「大人の醸造所見学ツアー」>に注目。


「ブランド」になるために、小さな「一番」を目指す

まず、「一番手」あるいは「唯一絶対」の商品・サービスを創る。必ず一番手、「二番手ではダメ」だ。なぜなら、富士山はみんな知っているが、二番目の高い山(北岳)の知名度とは圧倒的な開きがある。ニュースでも一番手は取り上げてもらえるが、二位以下はその他扱いだ。「楽天一位」のシールは見たことあっても、「楽天二位」はほぼないだろう。カテゴリーや条件を絞って構わない。とにかく一番手になるべきだ。すべての機会が乗数的に重なっていくと、両者には大きな差が生まれる。


参考図書では、高糖度トマトの事例が挙げられている。ミニサイズで甘いトマトに焦点を当て、競合が少ない中での一番手を目指す。たとえると、ジャナグルの中に何を植えても、永遠に目立つことはない。体力勝負のみ。しかし、砂漠を見つけて植えられれば、遠くから見ても目立つ。その「砂漠」とはオアシスとなるであろう、湧き水の存在する場所だ。

下記画像は、高糖度トマトのブランドとして成功している事例。画像にリンクがある。

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要は、他との逆張りを狙い、そこで一番の支持を得られるように商品・サービスを磨く。商品ができたら、その特徴を尖らせて、潜在ターゲットに効率的に伝える。商品を磨きあげるのと同じくらい、どう伝えるかも重要だ。


「なるほど、確かにすごい」と言わせよう

ブランドである以上、高品質なのは当たり前のことだ。「当社の売りは中品質」とは言いづらいだろう。しかも、今の日本では、品質の悪い商品は非常に珍しくなっている。僕らがよりこだわるべきは、「知覚品質」だ。客観的な基準よりも、消費者の思い込みの中での高品質を実現すること。

【知覚品質の創り方】
1)こだわりを(パッケージやデザインなど見える)形で示す。
2)最高の体験(環境)の中で示す。
3)五感・情緒に訴える。
4)低価格ではない。※価格にはメッセージ性があるため。
5)希少性やオリジナリティ。


安いと訴えて、ブランドになるのは難しい。「お値段以上、ニトリ」も、その値段だったら、品質では負けないと訴えている。

マイナス面も、プラス面に表現し直せるくらいの発想の転換、尺度の変更がしたい。モノは言いようだ。たとえば、トマトの皮が「固い」ことは、「歯ごたえを楽しむ」と言い換えることもできる。古臭い見た目でも、「昭和を噛みしめる」などと、消費者の目線を変えてしまう洗脳作業だ。


知覚品質の代表的なものは一つ目;有形物。たとえば、ロゴ、パッケージ、名称、写真・動画、ウェブサイトなどを含む。インスタ映えも当然、これにあたる。こうした有形物を通して:

【有形物にとことんこだわる】
1)見てもらうこと(露出)。
2)見た者の記憶(印象)に残ること。
3)好感してもらうこと。
4)信用してもらうこと。
5)期待してもらうこと。

ちなみに、前回の記事でお薦めした教科書でも、知覚品質は登場する。

【Mission Driven Brandブログ|「ブランディングの教科書」】
(知覚品質とは)企業側が考える「事実としての品質」や「客観的に測定できる品質」とは異なり「顧客が主観的に(つまり勝手に)認識している品質」のことを指す。・・・メルセデスベンツの具体的な品質については、ひとつも答えることができない。しかし「品質が高そうだ」という認識は持っている。これが「品質」と「知覚品質」の違い。・・・経営学者のR・バゼルとB・ゲイルらによる研究によれば、知覚品質で下位20%に属するビジネスは平均して約17%のROIしかないのに比べて、知覚品質が上位20%に属するビジネスでは、ほぼ2倍のROIが得られているという。この研究結果は、ブランドの知覚品質が高いほど収益率が良くなることを示している。
(下記画像も、こちらのサイトより引用。ぜひ全文参照)

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ブランディングとは、効率的にファンをつくる作業

よく、ブランドでは一貫性が大切だという。なぜだろうか。実は、それは簡単な理屈に基づく。色々な形態や場所で、潜在顧客と4回接点をもったとする。すべてが統一されたデザインやコンセプトであれば、発見してもらい、記憶に残る確率が(乗数的に)高くなる。特に重要だと言われるのは「色」だ。スタバは緑、コカコーラは赤というイメージが、僕らの脳裏に強烈な印象を残す。それが企業側の無形資産となる。この理屈は、「名前」、いわゆるネーミングも同じだ。


もちろん、宣伝も重要だが、宣伝・広告予算はとかくムダになりやすい。中小企業は、その使い方に注意してほしい。むしろ、マスへの予算をかけず、口コミをどう喚起するか。そこに注目したい。たとえ少なくてもいい、強いファンをつくる。これを優先しよう。

【強いファンをつくるための口コミ喚起策】
1)話題をつくる ※ブランドストーリーを掲げる。
2)商品の良さをしっかり説明する。 ※すべてにウンチク。
3)潜在ファンに特別な体験機会を設ける。
4)パブリシティを充実させる。
5)店頭などのコンタクトポイントを豪華に(見栄えよく)する。


差別化こそ、ブランドの最大の大義

では、ここから二冊目の参考図書へ移ろう。どちらかと言えば、用語解説中心の小難しい教科書ではあるが、レイアウトや解説が非常に親切だ。ブランディングについて、ひと通り、地頭で学んでもらった後、復習用に同書を活用してほしい。かなり読みやすく感じるはずだ。

同書には、ブランディングを指して、「高くても売れる」仕組み、とある。誤解してほしくないが、千円のものを一万円で売る話ではない。たとえ一万円を出してでも、「これが欲しかったんだ」とか、「よくぞこれを創ってくれた」と消費者に本音を言わせる商品を創ること。その本音とは「インサイト」と呼ばれる。ここに刺さるような商品開発ができると、様々な人から注目され、圧倒的なブランドになることができる。


さて、もう少し(中小企業でもできそうな)現実的なところに話を戻そう。

誰かにとって一万円の価値がある商品なら、他の誰かに一蹴されようとも平気だ。ゆえに前回の記事ではそれを「宗教ビジネス」と呼んだ。極論すれば、価格を二倍に釣り上げれば、潜在顧客の数が半分以下に減っても採算は合う。中小企業の方々にはここを目指してほしい。

【クラフトビール「ヤッホーブルーイング」の挑戦】
ヤッホーブルーイングの扱う商品は「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「東京ブラック」「僕ビール、君ビール。」など、個性的なネーミングとパッケージのクラフトビールたち。上位メーカーに比べて少し高価格な設定でありながら、「価格差分を払ってでも飲みたい」という熱の高い消費者・・・(中略)・・・(一時は)地ビールの流行に乗って順調に売上を伸ばすも、ブームの終焉とともに売上が落ち続ける状況に直面します。2000年頃は在庫があふれ・・・「“夜な夜な”楽しんでもらうためのクラフトビール」へとブランドを再定義。コミュニケーション施策もそのブランド体験の場を重視した、“夜な夜な”楽しむ濃いファンづくりへと方向転換。
(下記リンクの記事より引用)


何で差別化させるか、そこにこだわれ

差別化について一点、要注意。品質と価格という単純な地図で自社のポジショニングを作っても無意味だ。これは二軸に見えて、実際には一軸だ。顧客の思い込みは恐ろしい。低価格で高品質なものは存在しないし、高価格で低品質なものは論外だ。高品質で勝負するか、低価格で勝負することになる。その真ん中は、レッド・オーシャン、つまり相当な価格競争を覚悟しなければならない。


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価格と価値についての基本は、次のサイト(消費者における価値と価格:上田隆穂氏)で学んでもいい。


差別化とは二軸以上で考えること。そこで独自のポジションを見出すことだ。たとえば、マスク。昨今、高機能競争が盛んで、フィルター機能やリユースの可否ばかりでなく、香りや見た目(デザイン)、肌荒れ、そして口臭やムレ対策まで、様々な「軸」が登場している。個々には素晴らしい工夫なのだが、特徴をたくさん並べるだけでは、他社と似たりよったりで覚えてもらえない。(多)機能や単純な品質軸で勝負しない。ブランディングの第一歩はこれに尽きる。


感情に訴えるとは何か。ブランディングの根幹!

二番手商法が通用した時代。二番手以下の会社は、一番手を模倣すれば良かった。機能を寄せ、デザインを似せ、価格を少し安めに設定する。この方法は今でも有効だ。しかし、この商法は、(模倣するため)開発費がかからない代わりに、粗利が少ない。訴訟されるリスクも高い。何より、長続きしない。店舗はこの二番手商品を粗雑に扱うし、社員も自分の会社に誇りが持てなくなる。


そこで、みずからブランドを立ち上げようとなるわけだ。しかし始めてみて気づく。出ていくお金ばかりが増える。手間がかかり、社内での空虚な議論が続く。アップル社のようなコンセプトを一ヶ月かかって作っても、そこから先に進めなかったりもする。数ヶ月経ってみると、お金はなくなり、商品はまだできず、パワーポイントの資料ばかりが厚みを増す。いわゆる「ブランドごっこ」の罠にはまってしまう。本稿での締めとして提案したいのは次の三点だ。

1)商品は、対象顧客を絞って、彼らに「最高」の商品をつくる。
2)他社との差別化となる「軸」を見出し、競争環境からちょっと離れたポジションを目指す。
3)何が「最高」なのかを感覚で分かるように、商品の仕様を設計し、使用・感動に至るまでの物語(具体的なシーン)を作ってみる。


たとえ、ほんのわずかな差異であってもいい。対象顧客が商品を手にし、使って、感動する、その「物語」の中で、本当に良かったと感じるシーンを創ることができたなら、その商品には十分な希望がある。

この続きは、次回にしよう。


【ポカリスエットのロングセラー物語:NIKKEI STYLE】

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【思い出と一緒に体と心が満たされるドリンク:クラシコムジャーナル】
(インタビュー記事より、大塚製薬側からの回答一部)もともと当社は点滴液で高く評価を得ている会社なので、長時間にわたりオペをする医師が手術中や終了後に、点滴液を口から補給している姿を目にしていました。これらの体験から、日常生活の中でスムーズに水分補給ができる健康飲料があったら、という発想のもとポカリスエットの開発はスタートしました。・・・「飲む点滴」というアイデア・・・「こんな薄いものが飲めるか」とか「これでお金をとるの?」など、散々な感想をいただきました。ただ、汗をかくシーンで飲んでいただければポカリスエットのおいしさを実感していただける自信はありました。



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