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ブランディングを地頭で考えてみる

ブランドの教科書はたくさんある。しかし、教科書であるがゆえに、理論が登場する。理論とは、専門家同士が議論をして、分析し、正確に定義をしようとするものなので、大変分かりにくい。ブランディングも例外ではない。※このテーマについては三回の連載、本稿はその第一回。


僕がひと言で乱暴に言い表せば、「指名買い」される商品になること。それがブランディングである。洗剤なら「アタック買っといて」とか、クルマなら「いつかレクサスだよね」など。人は面倒なものを簡略化したがる。その心理を利用した商業上のテクニックが、ブランディングだろう。
※冒頭画像は、僕のブランディングの「教科書」的存在でもあるスターバックス・HPの写真から借用。理想的な社員ブランディングをしている。


では、どうやったら「指名買い」される商品になるのか。それが本稿で示したいこと。そして、そもそもなぜブランドなのか、などの理屈も学んでおきたい。それには以下の教科書をお薦めしよう。実務家のための一冊だ。


なぜ、ブランディングが大事なのか

ブランディングがこれだけ注目を集めるのは主に二つの要因がある。ひとつは、それを重要だと語りたがる人がいるから。ブランドの指導をして、ご自身が儲ける。決して悪い意味ではない。もうひとつは、情報過多の時代にあって、消費者はうんざりしている。もっと楽して買い物をしたい。ブランドが目印となって(買い物の)失敗を減らせるなら、そうしたいはずだ。


ひとつ目の点で、自称マーケターは、カタカナ用語を並べたがる。そして、わざわざ複雑な体系を口にする。これは科学的な作業でもあるので(正確性を求めたり細部を詰めたりするのは)やむを得ない。一度難しくしたものを分かりやすく說明できるマーケターは、人気を集める。また、ブランディングすべてをみずから請け負ってしまえば、彼らにとっていい商売である。


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二つ目の、情報過多という時代的背景(上記グラフはブロードバンド契約者の総トラフィック:総務省)。昔、情報とは、わざわざ探し求めたものだ。しかし今は、情報が湯水のように溢れ出ている。いやむしろ、毎日の情報洪水の中から逃げ出したいくらい。ブランディングとは、そんな情報洪水の中で、みずからの商品を埋もれさせないテクニックとも言える。こうしたシーズとニーズが合致したことで、ブランディングの重要性が知れ渡るようになった。


念の為に強調しておくが、ブランディングをしない理由は見当たらない。メリットしかないからだ。しかし、前段のように、わざわざカタカナ英語で面倒なことを言われる。すると、毛嫌いして敬遠してしまう。しかもコストばかりが先に立つ。多くの企業の気持ちが萎えるのも理解できる。より深刻な問題は、口では「ブランド」が重要と言いながら、上手にできていない大多数の企業の存在だ。

【ブランドのメリット】
1)不毛な価格競争をしなくていい:高い価格で売れる。
2)リピーターがつねに指名買いしてくれる:宣伝費が抑制できる。
3)お客さんが勝手に宣伝してくれる:SNS時代は特に顕著。
4)取引先との交渉で有利になる:費用が下がる。
5)従業員も売りたくなる:社員の行動が強みに変わる。
6)採用が有利になる:優秀な人材が集まる好循環。


名前を売るのは、何とも難しい

意外なことだが、ブランディングにはコストを下げる役割もある。たとえば、EC店舗で言えば、リピーターを増やすことでリスティング広告費用を使わずにすむ。また、色々な企業が、有利な条件で提携を申し出てくれる。社員でさえ、お給料以上の働きを見せてくれたりもする。みんながハッピーな仕組みである。ところが、いざやってみると難しい。有名になって、高評価を得て、人々の記憶に残ることがどれだけ難しいか。


ブランドとはたかだか「名前」。しかし、以下のように考えると「されど名前」である。

もしもあなたが、ある商品を示されたとしよう。
1)「あ、カラムーチョね、知っている」
別の競合商品と並べられていたら、
2)「カラムーチョのこのシリーズは、見たことあるよ」
もしも、お菓子というカテゴリーだけを示されたとき、
3)「僕は辛いお菓子、カラムーチョなんか好きだよ」
何にも提示していないのに
4)「今日はカラムーチョ気分だ」
最後のコメントのように言われたら、そのブランドの影響力は、消費者の脳内にまで及んでいると言える。これら消費者の反応の総和が、ブランド力である。商品間におけるブランド浸透度の差は、何倍にもなって、業績の差になる。あなたの商品は今、どれだけたくさんの、消費者の脳裏に存在しているだろうか。


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「名前を売れ」と聞けば、それを連呼したくなる。テレビCMが手っ取り早い。が、バカ高い費用を避けて、Youtubeでの宣伝を増やすのもいいだろう。このように、ブランディングとはついつい、宣伝の話だと考えてしまう(上記画像のリンク参照:株式会社イマジナ)。実はそうではない。その先にあるものを見据えての、施策が重要になる。一方通行の宣伝ではなく、どうやったらユーザーに「あれはいいよ」と言ってもらえるかだ。確かに、ある言葉を何度も聞かされれば、それがたとえ記号でも親近感をもつ。肥沃な大地に水を撒き続ければ、草のひとつでも生えてこよう。しかしそれは、大地が「肥沃」であれば、の話だ。世の中には、砂漠に水を撒いているような広告もたくさんある。むしろ、無意味な広告投資の方が多いのでは、と感じてしまう。肥沃な大地にする工夫こそ、ブランディングの第一歩である。


ブランディング上手な企業は「宣伝」に頼らない。

ブランディングの模範とされるスターバックスコーヒー。テレビCMを打たないことでも知られる。過去に、経営危機的な状況が何度もあった。また競争相手が無限に広がっていく中で、今もなお、圧倒的なブランド力と成長力を伴っている。結論から言うと、彼らはひたすら真面目に店舗ビジネスをやっているだけ。そこで何を強調しているかが、顧客のイメージ調査(下記画像にリンク)にもはっきり表れている。

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日本のスタバは必ず、いい場所に、見た目のいい店舗を出す。商品には豊富なカスタマイズ・オプションを設けて、顧客との対話機会を増やしている。Wifiや電源、決済手段なども多岐にそろえながら、お店の利便性を高めている。顧客もしっかり選ぶ。品のない、忙しない客が入店してくるようなお店にはしない。従業員やアルバイトには最大級の手当を出し、マニュアルではなく、人としての接客を教える。それらすべてを愚直に追求し、快適なお店を各地に増やしている。自分たちの顧客とつながるSNSは積極的に行い、そうではない施策には興味を示さない。まさにそれがスタバ式ブランディング術だ。


皆さんの中には、自社商品が高級品でないからブランドを考えないとか、お金がかかるからブランディングをやりたくないとか、そんなことを言い訳に、いまだ無策の方がいらっしゃるだろうか。そんな理由はありえない。B2Bであれ、B2Cであれ、企業のブランディングは必要。なぜなら、それは言い換えれば、信用と期待を創造することだからだ。


昔も今も、企業の(あるいは商品の)信用は大切。他方、期待については、今日、もっと重要になっている。尖った企画で情報発信したり、イベントで顧客との接点を広げたり、商品の体験プロモーションを通して潜在ユーザーを増やしたり。名前を連呼するだけの宣伝はすでに時代遅れだ。常に、進歩したやり方が生まれ、僕らはそれを学ばなければならない。商品を真面目に作り込む以外に、情報の発信方法に工夫を加え、より多くの消費者に接点をもつ。興味をもち楽しんでもらう。そんなサービス精神が、企業側に求められている。


誰でもできる「ブランディング」とは

スタバの例で言えば、社員教育からブランディングが始まっている。アルバイトも含めて、十分な時間を設けた教育がなされるため、それを聞いたバイトや社員の子たちはコーヒーへの知識や造詣が深まる。しかも店舗がそれをお客様に届けようと熱心かつ真摯な姿勢で取り組んでいることを知る。実はこれ、ブランディングなどと格好をつけて言う、はるか前から、重要なことだ。


新鮮な野菜を仕入、きれいに並べて、常連客に正しく案内をする。人気の八百屋はいつもそうだ。その道のプロが専門性をもってやっているように見えるから、みんな信用する。また、常連客はみな顔なじみだったりするから、親しげな声掛けや、りんご一個おまけなどのVIP待遇も臨機応変に行う。この人材スキルを多店舗経営で行おうとするから、スタバのような仕組み化が必要になる。また、八百屋とのさらなる違いは、イノベーションでもって驚きや快感を定期的に提供しようとする点。期待を醸成し、ファン層を広げ、財布の紐をさらに緩めてもらう、これがブランド企業の強みであろう。現にスタバのコーヒーでは価格優位(高く売れる)が実現できている。

ブランディングが9割


ちなみに、ブランドのスローガンを「品質第一」と掲げているようでは、かなりズレていると言わざるを得ない。ブランドとはそもそも品質における約束である。当たり前のことを「やります」と宣言されても、受け手は何も感じない。スタバだったら、たとえば「細かくカスタマイズできる」とか、「Wifiや決済が便利」とか、「格好いい、気持ちがいい空間」とか、「店員さんのレベルが高い」など、実際の企業努力を、ユーザーが自分なりにイメージできている。ここが、ブランディングの上手さを示す。またユーザーは、次のスタバの限定商品を楽しみにしているのだから、信用と期待をベースにしたブランド・ロイヤリティは見事に形成されていると言える。


ブランディングが言葉を大事にする理由

八百屋のように、黙々と、いいサービスやいい商品を提供できていれば、ブランドになれるわけではない。一部の顧客にとっては確かに「指定買い」をするお店だが、何かを新しく期待する相手ではない。また、その八百屋を崇拝し、他人に薦めることもほぼないだろう。消費者にとってのブランドになるためには、それが宗教ビジネスに近いところまで昇華されなければ難しい。


宗教的ビジネスにするためには、次の条件があてはまる。
1)商品が「No.1」になれる領域・市場・条件を設定する。
2)商品が「No.1」になったことの意義(イデオロギー等)を語る。
3)ブランドに共鳴したユーザー自身がいかに誇らしいかを明示する。
4)ブランドとユーザーが一体であることを確認する。
5)ブランドがミッションを背負い、努力している様を共有する。


つまり、どうせやるなら、一番にならなくてはならない。たとえば、化粧品で言えば、シアバターを用いたクリーム類の「トップ」を目指す。含有量最大でもいい、足専用でもいい、とにかく一番手(No.1)。日本が難しければ、海外のどこかを開拓して、販売量一位を狙う。あるいはパッケージを一番豪華にする、などなど。ブランディングの第一歩は、何かでまずは「一番」目立つこと。そうすればおのずと、ターゲット(販売対象)が決まってくる。


宗教であれば教義がある。教義に学び、信者同士で語らう。教義に従い、何かを実践する。ここで言葉が必要になる。行為を通して「帰属意識」も培われる。これが精神的な満足感になるのだ。信者にとっての宗教は、単にお布施を払えばいい対象ではない。布教のお手伝いも、自分の満足になる。ブランドもこれと同じような理屈だろう。ユーザーがそのブランドを選択していることに、理由を与えてあげなくてはならない。それは、すべての人を納得させる理屈でなくてもいい。まずは自分を言葉で説得し、分からない連中には逆に教えてあげたくなるようなマインドをもたせる。アンチがいればこそ、ブランドへのロイヤリティは高くなる。帰属意識(ロイヤリティ)とは、ときに敵(アンチ)も必要なのだ。


したがって、スタバの例に戻るなら、一杯のコーヒーを舌で味わってもらうだけでは、その「おいしさ」は不十分だろう。コーヒーの文化の深みに、また店舗の努力や今後の取り組みに、言葉を用いて表現する。それがコーヒーの味わいに、「愛着」を与える。ウンチクのある料理が、もっとおいしくなる、あの理屈のことだ。言葉を得ることで、スターバックスのユーザーはファン(信者)になり、双方向のコミュニケーションを増やすことで、スタバの業績に貢献していく。


かしこまりすぎな「ブランド戦略」に要注意

最後に一点。いわゆるブランドの指南書には、ブランド理念の構築について、多くの說明を割いている。また成功事例では、アップルやディズニーなどの圧倒的な成功事例でもって、後付けのもっともらしい解説をしている。ロゴの制作を、プロに依頼すべきとやたらに煽られ、商標やら、教育やら、キャッチコピーやらと、お金のかかりそうな話ばかりが続く。これでは、(中小企業でなくても)ブランディングに対して嫌なイメージばかりがつく。


この際、ブランド戦略とは、費用削減・効率改善だと考えて直してみよう。ブランディングを意識するから、ターゲットが決めやすくなる。自分たち企業が、誰のために存在したいかを明確にしよう。その人たちのためだけに努力をする。その中で、当然、一位を目指す。ゆえに、支持される特徴を絞るべきだ。あれもこれもと欲張っていては、資金が足りなくなるからだ。こうした試行錯誤の過程で、社員の気持ちもひとつにしていく。そのプロセスこそが、ブランディングである。ものづくり、サービス提案、社員教育などからブランディングはすでに始まっているのだ。


そして、誕生した商品・サービスを、どのように効率的(鋭利)に伝えていくか。そこからが、マーケティング領域でのブランディング活動にあたる。世の中に出回る書籍や情報の大半は、大手企業が、格好よく推進するためのブランド教本だ。それらをにわか勉強した社員が、社内で、年齢がひと回り上の上司たちに提案するための材料を提供しているにすぎない。だからやたらとカタカナだらけになる。


地頭で考えてみよう。多くの識者が言っていることは間違えていない。ただし、あそこまでややこしく言う必要はない。高度経済成長が終わり、インターネットでの大競争時代が始まり、一番のブランドしか生き残れない状況にある。その中で、モノ・カネ・ヒトを集中投下するためには何をすべきか。尖らせて、深みを与えて、効率を上げる。ブランディングを意識しない選択肢はないと思われる。


第二回(続き)は、こちらへ。よろしければ、どうぞ。


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