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メンバーインタビューVol.10 ラぺ 松本 一平

「漁師さんや流通事業者さんと共に、手間暇かけて魚の価値を高めていきたい」
C-BlueインタビューVol.10は、「ラペ」の松本一平さんです。全国の生産者から直接仕入れた食材を使い、日本の四季や風土を感じさせるフランス料理を提供しています。「これほど多くの魚種が揃うのは日本だけ」と、コースのメインには魚料理を据えてきました。そんな松本さんは海の問題にどう向き合ってきたのでしょう。お店の歩みと共に話を聞きました。

10周年という節目に合わせ、最近、店をリニューアルしたという「ラペ」の松本一平さん。コックコートからエプロン姿に。店内も器も、より「和」を感じさせる装いに一新しました。

「今まで以上に“日本ならではのフランス料理”を前面に出していこうと。レストランを続けていくには、攻めの姿勢が大事だと思っているんです。お客様に愛され続けるために、またスタッフのモチベーションを維持するためにも、常に進化し、アクションをおこしていかなければなりません」。

おだやかな物腰の奥に垣間見えた情熱は、自身の店の成長にとどまらず、広く海の課題解決にも注がれてきました。
以前から生産者とのつながりを大切にしてきた松本さん。しかし魚は市場で仕入れることが多く、漁師との接点はありませんでした。
そんな中、Chefs for the Blueの勉強会で出会ったのが、千葉県船橋市でサステナブルなスズキ漁をおこなう大野和彦さんでした。勉強会だけでは飽き足らず、翌週にはスタッフを引き連れて船橋の港まで大野さんを訪ねていきました。

大野さんの代名詞といえるのが「瞬〆」。獲れたばかりのスズキを活〆(放血)した後、エアガンで神経を抜き取り鮮度を維持する技術で、「江戸前船橋瞬〆すずき」の名でブランド化にも成功しています。また、「江戸前漁業を次世代に継承する」という信念のもと、抱卵前で脂がのった5~10月しか漁を行わず、小さな個体や禁漁期に混獲された個体はリリースするなど、資源管理にも一早く取り組んできました。

海の資源を守りながら、丁寧な処置によって魚の価値を高め、漁師の収入も確保していく。人にも地球にも「持続可能」であり「三方良し」な漁の在り方に、松本さんは深く共感したと言います。
以来、神経〆や適切な処置で未利用魚の価値を高める「さかな人」長谷川大樹さんや、日本で初めてMSC・ASCのCoC認証(水産物の水揚げ以降のサプライチェーンに対する加工・流通の管理認証)を取得した豊洲の仲卸「亀和商店」の和田一彦さんなど、海の未来を考え奮闘する日本各地の水産事業者たちと新たに関係を築いていきました。

2021年にはフレンチの技法を生かしたおでんのフルコースを提供する「おでん屋 平ちゃん」をオープン。立ち上げに当たりCoC認証を取得し、MSC認証やASC認証の水産物を使っていることをメニューに記してきました。「和食店でサステナブルな取り組みをしているところはまだ少ないので、広がるきっかけになればいいなと思ったんです。どんな魚を扱っているのか興味もありました」。

実際に使い始めてみると、見えてきた課題がありました。「仕入れが不安定で、使いたい魚が手に入らない時期があったんです。認証を取得している飲食店がまだ少ないので、ロットが小さすぎて仲買さんも買い付けが難しいのだと思います。街場のレストランに普及を進めるよう、認証を付与している団体に働きかけたりもしましたが、もう少し時間がかかりそうです」。

日本各地の旬の魚を使って季節感を出していきたいという思いもあり、来期はCoC認証を更新しないと決めた松本さん。「メニューでMSCやASCのロゴを表示することはできなくなりますが、良いものが入荷された時には今後も認証魚を使っていく予定です」。

一方、大手企業とのタイアップや商品開発にあたっては、積極的に認証魚の活用を提案してきました。「大きなロットで加工や製造するのには向いていると思います。一般の方たちに認証について知っていただくのにも効果的ですよね。最近は、サステナブルな食材を使いたいという企業からのオファーも増えています。社会の意識が少しずつ変わってきているのかもしれません」。

23年には、フレンチと和のエッセンスを織り交ぜたイノベーティブイタリアン「ピース」をオープンしました。「ピースも平ちゃんも、ラペから歩いて1~2分の距離にあるんです。頭やアラなど1店舗ですべて使い切れなくても、別の店舗で出汁をとったり、煮込んだりほぐしたりして使うことができる。ロスを減らしていくのも大切なことですよね」。

思いを一つひとつ行動で示していく松本さん。

「手間暇をかけて魚の価値を高めていきたい」。パートナーである漁業者や流通事業者たちと、心は一つです。

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