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メンバーインタビューVol.9 Mr. CHEESECAKE 田村 浩二

「シェフ側の視点も、事務局側の視点も理解できる。メンバーの中で異質な存在だからこそChefs for the Blueの運営を支え、この活動を広げていく上で役に立てることがあるような気がしています」

C-BlueインタビューVol.9は、オンラインを中心にケーキを販売する「Mr. CHEESECAKE」の田村浩二さんです。料理人でありながら実業家でもある田村さんは今、どのような思いでChefs for the Blueの活動に関わっているのか聞きました。

田村シェフは、次世代のフランス料理を担う若手シェフとして注目を集めながら、2018年に突然、レストランのシェフという立場から離れます。同時にチーズケーキのオンラインストアを立ち上げ、当初から注文の絶えない人気ブランドに。その傍ら、生産者支援を目的とするブランド開発やプロデュースを手掛ける事業の運営、ハイブランドのイベントでの料理提供など、経験や技術を生かし幅広く活動を続けています。

「食の未来を守りたい」――独立から半年ほどたった2019年5月、田村さんはそんな想いをSNSにつづっていました。

僕は、このままでは「遠い未来」ではなく10年後、20年後に途絶えてしまう食文化がたくさんあると強い危機感を持っている。そんな未来を料理の力で変えることが、ひとつの指針だ。(note)”

キーワードとして掲げていたのが、「生産者支援」と「サステナビリティ」。そこから5年。今どんな風にこの言葉と向き合っているのでしょう。

生産者支援にはビジネスを通じて取り組んでいます。魚の干物をフレンチの技とアイデアで現代のライフスタイルに合うようアップデートした「アタラシイヒモノ」プロジェクトや、サステナブルな方法で栽培したエディブルフラワーを販売する「エディブルガーデン」です。「ものづくりをしている人って、発信することが苦手な人が多いんですよ。語ることがカッコ悪いみたいな節もどこかにあって。だからこそ第三者がその魅力を伝えていかないといけない」。

サステナビリティについても思いは変わりません。しかし今の事業の中で形にしていくのは簡単ではないと言います。サステナブルなものを使いたい、でも量が確保できない。伝えたい、けれどお客様の関心とは必ずしもマッチしない……。「魚も同じだと思いますが、ある人から見たらサステナブルでも、別の立場から見たらそうではないこともある。明確な定義があるわけではないし、僕自身もまだまだ勉強不足。本当に、難しいです」。

そんな田村さんもChefs for the Blueの活動には2017年の発足当初から参加しています。生まれは漁業が盛んな神奈川県三浦市。幼い頃から漁港にもよく連れていかれ、魚はずっと身近な存在でした。フランスでは魚介料理で名を馳せる海辺の三つ星店、『ミラズール』を修業先に選び、帰国後も魚介類を好んで料理に使っていました。
「海の現状を知ったのは、初めて参加した勉強会でした。以来、自分に少しでもできることがあればという思いで続けています」。

昨年10月に新江ノ島水族館で開催されたイベント「Bistroえのすい」では、目の前の片瀬江ノ島漁港で揚がった魚をラビオリに仕立てて提供しました。使ったのは、シイラとアイゴ。いずれも本来は南方の海に生息する魚ですが、温暖化の影響で北上し、ここ数年、相模湾で数を増やしています。特にアイゴは海藻を好むため、藻場が急速に失われています。
「どちらも触るのは初めてでした。しかもアイゴは背びれに毒があり、臭みもあって扱いづらい。でもそれをおいしくできたら未利用魚の可能性が広がるんじゃないかと思ったんです」。

とはいえ場所は水族館。小さなIHコンロ1つでの調理は、想像以上に大変だったと振り返ります。「火力が弱すぎて、お湯が全然沸かないんですよ(笑)。とても100点の料理が作れる環境ではありません。お店の看板を背負っているシェフにとっては厳しい条件だと思います。その点、僕はレストランをやっているわけじゃない。現場に合わせて自分自身をチューニングすることが性に合っているし、成長も感じられます」。

経営者として、あるいは性格的に、集団の中での自分の役割や、どうしたら人が得意を生かして活躍できるかをいつも考えているという田村さん。

「海の現状について語るなら、普段から魚を扱っているシェフたちの方が説得力も発信力もあるはずです。僕の役割はそこではないだろうと。与えられた制約の中で、伝えるべきメッセージをおいしさに落とし込むこと。“自分の料理”ではなく、“場にふさわしい料理”を作ることで価値を発揮できる気がしています。
トップレストランのシェフたちが名を連ねる中で、僕は少し異質な存在です。それがサステナビリティを深く理解し、自分の言葉で語るのを難しくしていると感じることもあります。でも事務局側とシェフ側、双方の視点から運営を考えられるのは強みだと思っています。ほぼ最年少ですが、自由にものを言いやすい立場でもある。シェフたちが活発にアイデアを出し合い、アクションにつなげていけるよう、僕なりの関わり方をしていきたいですね」。

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