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私の物語はいつだって憧れから8話

私は好き嫌いなく何でも美味しく食べられることが唯一の自慢であるが、良くも悪くも適量を超えて食べ過ぎてしまう過去があった。

しかし今現在は、数年前の自分からしたら考えられないほど普段の食事や食べる量に神経を使っている。

美味しいから食べたいからという理由だけでは例え私の好きな料理やお菓子であっても、その日の予定や行動によっては食べないことは珍しくない。

特に砂糖を使用したお菓子や料理、またグルテンを含む食品や食材にまで気をつけるようになったのは数年前に謎の体調不良に陥ったのがきっかけ。

妻のアドバイスや協力もあり、今現在は食事内容から食べる量を大幅に改善でき肉体的にも精神的にも20代の頃よりも健康的になっていると自負している。

甘いお菓子やグルテン食品をビールやワイン同様に嗜好品と位置付けし、外食時や気になる商品を試すときのみ口にする。

料理や食品に気を使うようになってきた私だが、それでもフランスの伝統的なお菓子や地方の特色ある郷土菓子がとても好きなことには代わりはない。

幼い頃から甘い物が好きという理由と、もともと日本で働いていた時はレストランデザートをメインに仕事を覚えてきた経緯もあるからだ。

実家には料理本よりもお菓子作りに関するレシピ本や情報誌のほうが圧倒的に多い。

お菓子作りで技術や知識を高めることでしか自分をアピールできなかったから、当時の私は休日は都内のパティスリー研修や、話題のパティスリーに足を運んぶことを欠かさなかったのは当然の成り行き。

そして今でも好んで定期的にパリや近隣の街のパティスリーに足を運ぶのも、フランス菓子の魅力と味わう楽しさを知っているからだ。

最近はめっきりお菓子を作ることも食べる機会も減ってしまったが、時々味わうフランス菓子の甘い香りと味わいは、奮闘していた当時の自分を思い出させてくれる。

フランスの料理人


今から20年以上前の日本のフランス料理店では働き始めると、一番始めに覚える仕事はレストランデザートのお菓子作りから始めたという私世代のフレンチ料理人は少なくないはず。

基本的な焼き菓子にシャーベット・アイス、フルーツのシロップ煮などを作る技術や知識、味わいの美味しい基準を理解しているだろう

だから日本人のフレンチ料理人は基本的なレストランデザートを作れる人が多いと思う。

だがフランスではこれが異なってくる。

星付きレストランではもちろんのことだが、フランスではある程度大きい規模のレストランになってくると調理場にパティシエが必ずいる。

フランスでパティシエのいない調理場は珍しいくらい。

サービスも同様にオーダーを受ける人、料理を配膳する人、ワインはソムリエが担当して料理と楽しめるようにアドバイスや希望に寄り添えるようにワインを提案して楽しませてくれる。

サービスがワインを提案することはないし、ソムリエが料理の注文を受けて配膳することだってない。

もちろん例外もあるだろうが調理場も同様に当然といえば当然なのだが料理人は料理、パティシエはデザートのみを担当する。

このようにフランスのレストランで働くと各個人の希望の役割や能力によって役割分担され、しっかりと職場で希望にあった職やポジションにつくことができるのが一般的。

パティシエがレストランで料理を作ることがないように、基本的に料理人がデザートを作ったり担当することはない。

だからフランスのレストランでは料理人がお菓子やレストランのデセールを作ることも学ぶ機会もないのだ。

良くも悪くもこれが分業制スタイルのフランスのレストランでの働き方。

しかし当時私が働いていたオーベルジュは珍しいパターンの職場。

デザートを担当するのはガルドマンジェの仕事であった。


オーベルジュ デザート

作るデザートはシンプルなものばかり。計量と作る手順、焼き時間、保存状態だけしっかり守り仕込んでおけば営業中に何の苦労もなくスムーズに提供できるデザートばかりである。

シェフがデザートの仕込みや盛り付けを自分の仕事をしながらガルドマンジェのポジションを往復していたのが働き始めた当初は不思議に見ていたが、しばらくしてその意味も理解できてくる。

若く経験の浅い料理人がデザートを担当すると、お菓子づくりの経験や知識の乏しさからどうしても毎回出来上がりや盛り付けにムラができてしまうことが多く、その度にシェフが仕込や盛り付けでサポートに入ることが頻繁にあった。

レストランでデザート経験のある私にとってみれば朝飯前の仕込にシンプルな盛り付けで済むデザートのみ。だから働き始めて一週間もすると基本的にデザートの仕込み・盛り付けは最終的に私が担うことになっていった。

日本でデザートを作っていた時は毎朝7種類のソルベ(シャーベット)にグラス(アイスクリーム)を3時間ほどかけてアイスクリームマシーンで作っていた。

フレンチ・イタリアンの料理人とパティシエ視点からそれぞれ異なるグラス・シャーベットのレシピ本を参考にして当時はいろいろと試していた。

しかし流石にオーベルジュではアイスクリームマシーンもなく仕込みが不可能であるため、向かいのガストロまで営業前に取りに行くのが決まり。

ガストロの見習いのパティシエが午前中4〜5時間以上かけて他の作業と並行しながらガストロとオーベルジュの分のグラス・ソルベ類を作っている。

午後は翌日分の計量など下準備に時間を割くぐらい作る量は非常に多い。

そんなグラス・ソルベ類を味見を兼ねてガストロまで受け取りに行くのは、ちょっとした楽しみであったがここで一つ問題を知ることになる。

そのアイスの保管場所はガルドマンジェのポジションにある小さな家庭用の冷凍庫のみなのだ。

熱気のある調理場で何度も開閉させている小さな家庭用冷凍庫では、営業も後半に差し掛かると冷凍庫の機能を果さなくなってくる。

ソルベ・グラス類は出来上がったあと冷凍庫内での保存状態や保存時間によって状態が著しく変化して味わいにも大きく影響する。

ソルベ・グラス類は週末の忙しい営業日は良い状態を保つのが非常に困難で、営業中常に頭の片隅で気がかりな存在であった。

ガルドマンジェでの前菜の仕込みと並行しながら、簡単なデザートの仕込みや盛り付けではあったが、フランス人が好む甘さの加減や美味しいの基準は今まで自分で学んできたお菓子作りとの距離を感じさせなかった。

特に私にとっては印象的なのは、一部の高級店などを除くと毎回微妙に形や味わいが異なり、不揃いなところもフランスのパティスリーやレストランデザートの魅力と楽しみ方だということ。

田舎の小さな村にある三ツ星レストランの姉妹店であっても、毎日多くのお客を相手に毎日営業、毎日違うメンバーの調理場、毎日違う状態の食材を使い、同じモチベーション、同じ味、同じ盛り付けをしている事自体、フランス人にとっては異常なことなのかもしれないと。

料理やお菓子に限らずフランス人はどこかしらに【楽しい】を探し出して、それぞれの生き方の中にワクワクするようなニュアンスを生み出している。

仕事は全てではなく、楽しいを生み出すためのただのツールにすぎない。

そんな彼らと日本人の私とのアイデンティティーの違いを知り、少しずつ受け入れていくと新しい発見や知恵に恵まれると気づくきっかけになれると、
オーベルジュで作っていたデザート経験を、今では懐かしく思い返すときもある。

それでは今日はここまで❗

続きは次回の【私の物語はいつだって憧れから⑨】にて、当時作っていたお気に入りのデザートや、そのレシピの解説を載せたいと思います。

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