見出し画像

空飛ぶスパイス【前編】

フランス生活は世界中の様々なスパイスと出会う機会に恵まれる。

それは何も私が料理人でレストランで働いてるからと言う理由だけではなく普段の買い物に行くスーパーやマルシェで常日頃から様々な国のスパイスを目にし、手軽に購入することが可能であるからだ。

画像3

初めて見たり気になるスパイスは迷わず購入するので、自宅のキッチン棚は様々なスパイスで溢れている

料理全般に使用している白胡椒を始め、黒胡椒は香り、辛味がそれぞれ異なる4種類。カレーを作る時に欠かせないターメリック、クミン、レッドチリ、カルダモン、コリアンドル、メース。

これらを調合したミックススパイスのガラム・マサラは私のお気に入りのレシピで作ったもの。

画像6

サフランや燻製香のチリペッパーはあまり使用しないが、風味のアクセントにいつでも使えるように常備している。

これだけのスパイスが自宅に揃っているのは、手軽に購入できる環境に加えて、私と妻が和食やフランス料理のみならず、様々な国の料理や食材に興味があり自宅で料理をする機会がたくさんあるから。

【即席ガラム・マサラを使って作る白インゲン豆料理の動画はこちら👇】

フランスにおける現代フランス料理の特徴や歴史の背景を知れば知るほど、世界中のスパイスが身近な存在であることは不思議でない事は過去の記事の【現代フランス料理の魅力とは?】で語らせてもらった。

私が日本で働いていた15年前に比べれば、日本でもインターネットの発達から世界各国の料理のレシピや食材の情報を手軽に、且つすばやく入手しやすい時代になってきた。

当時はフランス料理のレシピも含めて、自分の知らない世界各国の料理や食材の情報を得るためには、わざわざ1時間以上もかけて料理書の充実している書店まで行き購入するのが当たり前の時代

自宅でカレースパイスを調合して作るにも、スパイス類は都内のデパ地下にある食品売り場に行かなければ見つけることも購入する事さえ困難な時代であった。

今では実際に足を運ばなくとも自宅にいながら世界中の料理書や食材を購入することは容易になり、レシピや食材の情報はインターネットやYoutubeの料理動画で検索すれば一瞬で知りたい情報を入手できるとっても便利な時代である。

またSNSを覗けば自宅で調合したスパイスを使いカレーを作っている人や、様々なスパイスを駆使して自宅で料理する様子を見ることができる。

こうして自宅にいながらも遥か遠い国のスパイスたちは空を飛び、海を渡って日本の家庭料理にも影響を及ばすようになってきたのだ。

ただどんなに身近な存在になったとしても、世界中から集まってくる様々なスパイスは日本人にとって扱い慣れないと感じるのは私だけなのだろうか?

ナイフは右手?フォークは左手?

多くの日本人は利き手で箸を持ち慣れ親しんで食事を楽しむ。

西洋化が進むにつれて家庭内の食事もナイフ・フォークを使って食事することはそれほど珍しいことではなくなってきた。

画像1

決して裕福な家庭で育ったわけではない私も幼少期に母親からナイフ・フォークの使い方を学んだ記憶は残っている。しかし普段の食事で和食や中華ならともかく、洋食であったとしてもほとんど箸を使って食事を済ませていた。使ってもスプーンもしくはフォークを利き手に持って使うくらい。

それもカレーライスやシチューのようなお皿も大きくてソースのような液体がお皿の大半を占める料理に限ってのこと。(そのような料理であっても、私は少しひねくれた性格なので箸を使って食べていたような・・・)

それは自宅の食事に限って言えば、今でも料理のジャンルに関係なく箸を使って食べるほうが自分にとって美味しく、楽に味わうことに適した食事のスタイルであると感じている。

箸は無意識でも利き手で持ち難なく使いこなすことができるのは、幼少時からの家庭内の食習慣により自然と身につけることができた。

体に染み付いているように自然にできる動作は実にストレスなく何よりも自分自身が楽しめる一番の要素である。

私は在仏10年の料理人。フランス国内のレストランで食事をする機会は割と多い。もちろんその際にはナイフ・フォークを使って食事を楽しむ。

星付きレストランなどでは既に利き手の方にナイフ・フォークは料理が提供される前にセッティングされているので難なく手にとることができる。

画像4

ただカジュアルなレストランになってくると、一箇所にナイフ・フォークはまとめてセッティングされていることもある。

その際に無意識にナイフ・フォークを手に取ると、利き手とは逆の手で持ってしまう事がしばしある。それはレストランでの食事に限ったことではなく、自宅でフォーク・ナイフを同時に使って食事をする時でさえそれぞれの持つ手を一瞬考えてしまう。

画像2

意識して手に取らないと正しい利き手で持てないナイフ・フォークは今でも私には使いこなせない食事の道具であると痛感させられたのだ。

『それはあなたが不器用だからなのでは?』

と言われてしまえば確かにそうなので致し方ない。

ただその私の不器用さは、これだけ日本人にも身近になってきたスパイスの存在を照らし合わせて考えるきっかけになった。

例えば我々日本人はたいていの料理に醤油を使って味つけをする。

それは今も昔もそうたいして変わっていない。

肉じゃが、鶏の照り焼き、魚の煮付け、野菜のおひたし、炊き込みご飯、和風ドレッシング。

ちょっと味を足したいときなどは、目玉焼きや白米に直接かけて食べる人もいれば、スパイスをふんだんに用いたカレーにさえ隠し味として醤油を使う人がいるくらいである。

数え上げたら切りのないほど日本の家庭料理で活躍してくれる優秀な調味料である。醤油に限らず、味噌や塩麹、味醂にわさびも同じようなことが言えると思う。

これは料理が得意、不得意、できる、できないに限らず醤油を入れて完成する料理の味や風味をある程度、各々でイメージできるからどんな料理でもためらわずに目分量で醤油を使用できるのだと思う。

対してスパイスは普段の食事の中で使用されている回数はそれほど多くはない。

スパイスを使うときは大抵の場合、参考にする料理やレシピをもとに計量してから使うことが多いのではないだろうか?

ちょっぴり風味を強くしたいからとそれぞれ異なる2種類、もしくは3種類のスパイスを目分量で調合して普段の料理に積極的に使用する機会は少ない

日本人の大好きなカレーライスを作る時の市販のルーやカレー粉でさえ使いやすいように調合されて売られている。プロの料理人でない限りスパイスは我々日本人には扱いづらく、慣れ親しむ事が難しいと物語っているも同然である。

『左手にフォーク、右手にナイフ』

と確認してから手に取り優雅に食事を演出するかのように

『クミン大さじ2:ターメリック大さじ1:チリペッパー小さじ1』

と確認しながら使用しないと理想の香り、好みの味わいを生み出す事は難しい、それがスパイスなのだ

それだけスパイスを使用した料理に対して各々が感じる好みの味わい・風味というのは、どんなに身近な存在になったとしても我々日本人からは遠い場所に存在している。

だからプロの料理人によるレシピや調理工程の書かれた料理本が【美味しいの道標】になるようにある。

世界各地から空を飛ぶようにして日本に入ってくるスパイスの数々。

私は何も

【スパイスは日本人には使いこなせない】

と言いたいわけではない。

もっと本質的で日本人の内側にある美しさや本来の自分自身にしか表現できない魅力の輝かせかた・・・

スパイスや料理に限らず、日本の外からは毎日のように空を飛んで沢山の技術・知識・物が入ってくる。人の人生、心を豊かにする術として大いに役立ってくれる。

ただそれらは決まってものすごいスピードで目の前に現れて、私達の時間と余裕も一緒に消費して嘘のように消え去っていく。

スパイスの魅力的な香りを発揮するのが一瞬であるかように。

遠い国からやって来る未知な物はいつだって魅力的に見えるし刺激的だ。

画像5

だが自分自身で自分を豊かにできる【材料やレシピ】は、箸を持つ動作や、料理に醤油を一滴だけ垂らすような、自然と私に染み付いている自分の内側から湧き出てくるものであるはず。

何故ならばその動作一つには両親や家族、友人に親しい仲間からの優しい言葉や愛情あふれる眼差しが数え切れないほど詰まっているから。

これらは目には見えないし、スパイスのように刺激的でも他人から見て魅力的でもない。

それでも私をほんとうの意味で豊かにしてくれるのは、外からやって来るスパイスのように魅力的で刺激的なものでも何者でもなく、私が愛すべき内側からあふれる心地よさにフォーカスした時に目の前にあるものからなのだ。

私はこれを本気で信じている。

信じているから誠実に、正直に、そして情熱を持って向き合える。

そこに全力で向き合えた時、自然と自分に必要な【材料やレシピ】は、自然と目の前に現れ見えてくる。

そんな誰かの豊かになるための、生き抜くためのヒントになると願って、私は今日も空を飛ぶように自分の内側にしかない愛すべき言葉や時間に向き合っていく。

【空飛ぶスパイス後半】へ続く

Youtubeでは私の料理を紹介しております。

🔽チャンネル登録はこちら
https://youtube.com/c/ChatelCuisineChefIchi

🔽SNSではYouTubeで公開していない写真をアップしているので、フォローして頂けると嬉しいです

【Instagram】
https://www.instagram.com/chef_ichi/
【Twitter】
https://twitter.com/chef_ichi
【Facebook】
https://www.facebook.com/shoichi.onose

【linkedIn】
https://www.linkedin.com/in/shoichi-onose-5b55961ba/

Chef ichi


最後まで読んでいただきどうもありがとうございます。 感謝です!! Youtube撮影用の食材代として使わせていただきます。サポートしていただけると非常に助かります!