映画「東京暮色」小津安二郎 感想


監督 小津安二郎
主演 有馬稲子
1957年 日本作品

 この映画が好きです。しかし、好きというと語弊があるかもしれません。この映画はたしかに暗いし、救いがありません。でも、人間の孤独というものを、これほど痛切に描いたものがあるでしょうか。だから私は、この映画を好きといいます。
 明子の自身の存在の疑わせるものが、母親の不在と恋人の不実が、若い彼女に大きくのしかかります。でも、誰も彼らを責められません。どうして責められましょうか。誰だって人間は本来的に孤独なのです。子どもを堕ろした彼女が姉の幼い子どもを見て、思わず涙を流します。姉は夫との不仲をどうしようもなく嘆くだけ。父親はそうした娘たちを無力にもため息をつくだけ。母親は、明子を救えない。救いたくても救えないのです。人間は決定的に孤独だからです。いったい、血のつながりを以てしても人間を決して救うことはできないのです。誰でも人間は孤独なのです。明子がそれに気がついたときに、やはり彼女はその自身の命を捨てなければなりませんでした。人間が孤独であるということは、どうしても耐えられない。彼女は、人間の孤独というものに我慢がならなかったのです。どうしてその彼女を、そしてそうした人間たちを、我々は許されないと言えるのでしょうか。
 私も、救ってほしいのです。彼女が死を選んだことを。生きるということに、どうしても人間の孤独は拭えないのですから。

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