小説「燃えつきた地図」安部公房 感想


著者 安部公房

 端的にいうと、探偵小説だといえます。しかし、その探偵も失踪するのだから世話がないわけです。探偵がどうしても彼を追うならば、やはり自らをその都市の中に見失っていくしかなかったのでしょう。自分が交換可能な彼でもあるということを理解したときに、意図的に探偵は自分を都市に埋没したのです。彼の失踪した理由が問題なのではなく、いつでも彼は自分なのだという、認めがたいが自分は十分彼であり得たということに、この「燃えつきた地図」の答えがひそんでいるのです。
 彼の道筋をたどっているつもりが、いつのまにか自分の道程をそっくりそのままたどっているのです。他人との通路を回復する、しかし、それはずいぶん贅沢な要求だと思うのです。現代人の誰もが明日には自分を都市に見失う、もしくは都市での自分を見失うのです。では逆に問いますが、どうして私はなんの保証もなしに、私が明日も私が失踪せずにあるといえるのでしょうか。その保証というものがないかぎり、人間の生きるということにいつまでも不安が拭えないのです。

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