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オリーブの樹を娘のように大切に扱うんだ|ルーチョ・スケンバリさん

FRESH CHEESE Delivery(オンラインショップ)や& CHEESE STANDで取り扱っているプロダクトの生産者をインスタライブにお招きしプロダクトにこめた想いを語ってもらう「&なCraftsmanとProducts」を9月から毎週配信していました。第5回目のゲストは、岡山・蒜山(ひるぜん、真庭市)から、イタリア・ラグーサ産の高品質なオリーブオイルを輸入販売する「Oliva Sicula」のルーチョ・スケンバリさん。CHEESE STAND 代表の藤川真至が、作り方や品質の見分け方など、オリーブオイルの疑問をルーチョさんにお聞きしました!(インスタライブ配信日:2020年10月9日)

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シチリア南端の街ラグーサは食の街

――ルーチョ、今日はよろしくお願いいたします! まずは、自己紹介をお願いします!(藤川、以下同)

チャオ! イタリアの一番南、ブーツの先っぽにあるシチリア島のラグーサという街の出身で、10年前から岡山県真庭市の蒜山という場所に住んでいます。親戚のフランコおじさんがオリーブオイルを作っていて、それを「Oliva Sicula」という名前で日本に輸入して販売しています。

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この上の2枚の写真がおじいさんのオリーブ畑で、200年以上前のオリーブの樹がたくさんあります。

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この写真で帽子被っているのがお父さんです。手前は牛農家さんで、牛乳を絞ってチーズに加工したりしています。ラグーサには、オリーブオイル以外にもおいしい食材がたくさんあります。たとえばチーズ、この写真にも写っている四角いチーズは、カチョカバロです。

――カチョカバロって、ひょうたん型が普通なんだけど、四角いのがシチリアの特徴なの?

四角いのはラグーサの特徴だよ。1つ14㎏あります。シチリアのなかで牛乳の生産量の70%はラグーサで作られているんです。チーズは、300年くらいの歴史があって、作ってから1年くらい熟成させるのが特徴です。保存がきくので、島外や国外に輸出しやすいんです。

ラグーサは、家族経営の小規模な生産者さんが多いので、オリーブオイルもチーズも、大きな企業ではできないこだわりをもったプロダクトがある。だそれに、ラグーサは小さい街なのに、ミシュランガイドに載っている星付きのお店が4店もあるんだよ。

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収穫してから6時間以内に搾油するスピード感

――オリーブの収穫はいつころやるんですか?

シチリアでは、ちょうど10月初旬、今頃が収穫の時期です。いつもならラグーサに帰って、フランコおじさんの手伝いをしているんだけど、今年はコロナで帰れなかったよ。

オリーブオイルを作るなかで、収穫が一番大変なんです。フランコおじさんと、お手伝いの方数人でやっているので、収穫の時に帰って手伝ってる。その時は、日本ではどんなオリーブオイルが好まれるかとか、こういうオリーブオイルを作ってほしいなどを伝えたりもして、そういう情報交換も大事だと思っています。

――テレビで機械を使って収穫している映像を見たけど、ルーチョのおじさんはどうやっているの? 小さいオリーブ園だったら、木の棒みたいので枝を揺らして実を落としているみだいだけど。

枝を揺らしてたらおじさん、めっちゃ怒っちゃうよ(笑)。オリーブの樹を娘みたいに大事に扱ってます。だから枝をゆらして採ると、若い枝が折れてこの先、実をつけなくなってしまうからからね。手で採ったり、プラスチックの熊手のようなもので、一つひとつゆっくり採ってるね。

オリーブオイルはオリーブのジュースだと思ってください。ジュース絞る時に、よくない実が入ってたらおいしくないよね。オリーブオイルも同じで、カビていたり、腐っていたりする実を混ぜないことが大事です。腐敗した臭いが残ったり、傷があれば早く酸化してしまったりするのは良くない。ですので、フランコおじさんは、時間をかけて丁寧にオリーブの実をとっているんです。

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――そうだよね。牛乳も搾乳のときや、牛乳を移すときに泡立つと酸化が進んでしまうから、慎重にしてるもんね。採ったオリーブはどうするんですか? 干したりするの?

オリーブを収穫してから6時間以内に絞ります。できるだけ早く絞るのがいい。果物のジュースと同じで、樹からとったばかりの果物はおいしいけど、時間が経つと採れたてよりは味が落ちちゃうよね。それと同じで、オリーブも採ってからできるだけ早く絞るのがいいんです。

私たちが使っているオリーブの絞り機は、けっこう大きいので、1000㎏のオリーブオイルの実を絞ることができます。オリーブが1000㎏集まったら絞って、また1000㎏集まったら絞る、というようにしています。だいたい6時間収穫すると、1000㎏集まるので、「収穫してから6時間以内に搾油」とみなさんにお伝えしています。

6時間以内というは、他と比べると早い方ですよ。

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――トンダイブレアの同じ品種でも栽培される地域で味も変わってくるのかな?

ラグーサのイブレイ高原というところでトンダイブレアを育てているんですが、じつは栽培がめんどうなんです。なぜなら、300~600mの高い標高の場所で育てないと、トマトのような特徴的な香りが出せないから。同じトンダイブレアを海の近くに植えると、すごく味が薄くなるんです。

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乾燥していたり、風通しが良かったり、昼夜の温度差も必要なんですね。

ブドウとか果物と同じで、水が少なかったり、温度差で樹に対してストレスがかかることで、それに負けないように実に集中して栄養がたまって味が濃くなる。それと同じで、オリーブも適当なストレスがかかった方が、おいしくなるんです。

――このオリーブの樹1本でどれくらいのオリーブオイルが絞れるの?

オリーブは、2年に一度は剪定するので、剪定の年は量が取れないです。その分、次の年は量が多く採れるんですね。その収穫の多い年でいうと、樹齢200年の樹だったらオリーブの実が80㎏収穫できますね。そこから10%くらいがオイルになるので、8㎏くらい採れるかな。そうすると500ℊのボトルで16本くらいは採れることになりますね。

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――1本の樹から16本しか採れないというのは、ボトル1本1本がほんとうに貴重なものなんだね。

200年以上前の樹からオリーブが採れるのはすごいよね。だけど、よくオリーブの樹のカッティングボードとか売っているけど、そういうのはもっと歳をとった樹だってこと?

それは、ちょっとかなしい話になるんだけど、オリーブオイルで生計をたてるのはとても難しいんです。とくにラグーサのような小規模な農家が多い場所はね。

シチリアのトンダイブレアの単一品種のオリーブオイルは、モンティイブレイD.O.P.という名前で、国の保護制度に認証されています。でも実際は、イタリアのスーパーに行ったら、安いオリーブオイルはいくらでも手に入る。だから、ラグーサでも安いオリーブオイルを作っていた農園の経営は、苦しくて辞めてしまう人もいっぱいいるんです。

D.O.P.認証を受けるためには、作り方の決まりがあったりして、簡単な仕事ではないんですよね。フランコおじさんは、大変だけど認証を受けたうえで、高級なオイルを作ることを続けているけど、グローバルな市場のなかでは小規模農家は本当に大変なんです。

うちのオリーブ畑の隣とかにも、樹齢200年を越えたオリーブの樹も生えているけど、誰も管理していない。そういうのが他にもいっぱいあります。とっても残念ですね。

悪いワインをワインセラーに入れても良くならない

――オリーブオイルの保存はどうしたらいいですか?

最高なのは、ワインセラーに入れておくことですね。でもワインセラーを持っている人は少ないでしょうから(笑)、大切なのは太陽が直接当たらないようなところです。冷蔵庫の野菜室に入れておくといいですね。最低でも、戸棚の中に入れるとか、火の近くの温度が上るような場所に置かないようにしてほしいな。

――ワインセラーみたいに15℃くらいがいいの?

15℃、16℃だと最高です。

だけど保存も大事ですが、買う前に必ず試食をしてください。悪いオイルをいくらワインセラーに入れてもよくならないんです。

ワイングラスでいいので、オイルをゆっくり味見をして、油臭くなくサラッとしていて、フレッシュなオリーブの香りが感じられるか。それが、酸化していないオリーブオイルということです。

――良いオリーブオイルの見分け方ってありますか?

香りが一番わかりやすいです。ワインのグラスとか、普通のグラスでもいいので、オリーブオイルを注いだら、まず片方の手でグラスに蓋をして、もう一方の手でグラスを下から包むようにして、オリーブオイルを温めます。

オリーブオイルは温かくした方が香りが立ち上がるんです。グラスを揺らしながらまんべんなく温めたら、手の蓋を外して香りをかぎます。この時に、搾りたて青いオリーブの香りがないと、そのオリーブオイルはあまりよくない証拠です。

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――青いオリーブオイルの香りってどうな香りなの?

おじいさんの畑では、トンダイブレア品種しか育てていないので、単一品種のオリーブオイルです。じつは、このトンダイブレアという品種は、トマトの分子構造と似ているんですね。だから、酸化しないように収穫してすぐに絞ったオイルは、青いトマトの香りがすると思います。

妻と「この人たちすぐに有名になるね」って話してた

藤川さんに、私からも質問してもいいですか?

――もちろんだよ。

8年前にCHEESE STANDをオープンして、フレッシュチーズか出来たてというのは、すごい変わっていたと思うんですよ。いままで日本でのチーズの食べ方も、買い方もちがうでしょ。そういう毎日のことに対して、人の考え方を変えていくというのは、一番難しいことだと思います。

CHEESE STANDがオープンしたことによって、毎日チーズの食べ方とか、関わり方が変わったと思うんです。チーズの普通が、バーンと変わった。都会のなかにチーズ作れるなんて、誰も考えなたことなかったこと。オープンした当時のインパクトはどうだったの?

――うわー、うれしい、ありがとう。

当時は、珍しいお店だったので、テレビや雑誌に取り上げてもらって。その頃Facebookも流行っていて、そこで拡散してもらったりして、ありがたかったですよ。8年経ったけど、まだまだ知らない人もいるし、これからだと思っていますよ。今も食べ方の提案は続けているし、2カ月に1度レシピカードを作っています。

SNSとかオウンドメディアによって、自分たちから発信したりとか、そういう地道な積み重ねなのかなと思っています。

藤川さんが頭にあった新しい食べ方は、うまく提案できてるの?

――そうだね。出来たてのチーズを食べてほしいということは、少しはできたかなと思っています。

8年前にオープンした頃に、NHKでCHEESE STANDをやっているのを奥さんが観ていて、「ルーチョ、ルーチョ、来て来て」って、別のところにいた私を呼んできたんですよ。

この人たち、東京の真ん中で、フレッシュなモッツァレラやリコッタを作っているよ!」って、知らせてくれたんです。「この人たち、すぐに有名になるね」って話したのをよく覚えているんですよ。

その時からすごいなと思ってるんです。東京のフードの世界にも、CHEESE STANDの前と後があると思うんです。とてもインパクトが大きくて、私は藤川さんと友だちだから強く思うというのはあるかもしれないけど、一般のフードが好きな人にとっても、すごく大きな出来事だったと思いますよ。

私は、友だちになれてすごくラッキーだと思ってる。とてもおもしろいし、勉強になっています。

――ありがとう。最後に、オリーブオイルと和食のおいしい食べ方があったら、教えてください!

湯葉にかけるといいよ、蕎麦にもいいし。魚と合わせてもいいよね。日本の魚は最高においしいよね。果物と野菜は、シチリアの方が最高だけどね!

オリーブオイルと納豆とか、醤油と混ぜてお刺身と食べるとかですかね。レモンとオリーブオイル、塩、パセリもいいですよ。

オリーブオイルは、2000年前から使ってい続けている理由は、どの食材も邪魔しないので、合わせやすいからなんですよ。だから、和食にも相性がいいとおもう。

でもね、使い方を覚えるよりも、あなたがなぜオリーブオイルを使うのか?というモチベーションが大事。なぜオリーブオイル使うの? フライパンが焦げないようにするんだったら、他の油でいいんです。健康のか、味なのか? そのモチベーションを大事にしてほしいです。

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CHEESE STANDのwebストアでもルーチョさんの故郷のオリーブオイルを販売中です。モッツァレラや東京ブッラータとの相性抜群ですので、チーズの購入の際にはぜひ、併せてご注文下さい!

ルーチョさんのショップ「Oliva Sicula」では、オリーブオイルの他、シチリア産のピスタチオやアーモンド、ハチミツなども販売していますよ!

文・構成=江六前一郎

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次回の「&なCraftsmanとProducts」は、いつも美味しい生乳を届けていただいている清瀬市の増田牧場の増田徳子さんをお招きします。CHEESE STANDのnoteをフォローしていただいて、次回もお見逃しないようにしてくださいね!

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