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料理業界の人が減るのは必ずしもネガティブなことだとは思わない|CHOMPOO 森枝 幹さん

緊急事態宣言が発令され、外出自粛が呼びかけられた5月。STAY HOMEでおうち時間を過ごす方々に、少しでもCHEESE STANDらしいメッセージを届けできないかと考えて、私たちのチーズを使ってくださっているシェフの方々をお招きしたインスタライブを企画しました。テーマは「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」。手前味噌ながら、自由な感性で料理を創造するシェフにご愛用いただいていることもあり、コロナ禍でもしっかりとしたビジョンで、芯のある内容になったと思っています。
 全7回のシリーズの最終回は、渋谷・Parcoにあるタイ料理店「CHOMPOO」(チョンプー)のシェフだけでなく、たくさんのレストランやイベントをプロデュースするニュータイプ料理人の森枝幹さんです。コロナで何が変わって何が変わらないのか、などをCHEESE STAND代表藤川真至が聞きました。(インタビュー:2020年5月29日)

外出自粛期間では新しい自分の習慣を作ろうとした

――CHEESE STANDのインスタライブ「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」の最終回は、ぜひ森枝さんをお願いしたいと思ったんです!(藤川、以下同)

ありがとうございます。何回やったんですか?

――7回目です。すごいシェフたちが参加してくださったんで、いつか全員でイベントできたらいいなぁなんて思っています。

本当ですね、やりましょう。

――森枝さんと最初に会ったのは、奥渋のカフェ「フグレン」だったと思うんです。森枝さんが「昔、エスプーマを246 common(表参道のフードトラックが集まった施設)で使ってたんですよ」って言ってたのをよく覚えてます。CHEESE STANDのチーズをその後オープンさせたサモトラ(サーモン&トラウト)でも使ってくれましたよね。

いつも出勤前にお店に寄らせてもらってました。

――野菜をいっぱい積んだ自転車に乗って寄ってくれてね! 懐かしい。

そうそう。僕が仕事終わって奥渋で少し飲んでたら、藤川さんの出勤のタイミングで会うっていう、なんか申し訳ない気持ちになったのを覚えてます(笑)。

――あの頃だったら朝4時くらいですよ。今はさらに1時間早くなってます(笑)。今は、早朝の製造をまかせられるようになったので、そんなに早くはないですけどね。

さっそく話に入ろうと思うんですが、外出自粛期間でどんな動きをされてますか?

かなりの数の仕事がなくなったり延期したりして「これはちょっとまずいな」と思って、いままで一緒にお仕事をしてきた人にこういうこととかできないですかとか、以前から決まっていたことをちょっと形をかえてできることはないですかみたいな話をお願いして仕事を作ってました。そこから、レストランのプロデュースとか、動画の編集とかを新しい仕事も生まれましたよ。

――森枝さんでも営業したんですね。すごい。

もちろんですよ。コロナ期間だからこそ、こういうことをしたら面白いんじゃないんですかねー、とかっていう話をしてました。

そこから、シャンパンブランドの「ヴーヴ・クリコ」とコラボした動画だったり、サステナブル・シーフードの取り組みで以前から仕事をしていた関係で、Tポイントと長崎県五島市のコラボ企画「うんまかTV」などが始まりました。

昨日は、ちょうど「うんまかTV」があって。五島からサメが届いて、それを使って伝統料理や郷土料理僕が教えてもらいながらその通りに料理を作ってくみたいなことをやったんです。サメの鱗をとって、を捌くところから始まって湯引きを作るという行程を1時間で収めるという番組です。メチャメチャおもしろかったですよ。

サメとかエイって、血がアンモニアの匂いがしたりするんですけど、血抜きをちゃんとしてあげるとぜんぜん臭みがなくなるんです。

皮の部分をはがさないで「サメ肌」っていわれるざらざらした鱗を包丁でこそげ落とすんです。さらにサメは、軟骨魚類なので骨がやわらかいんです。1㎝くらいの分厚さに切ると、それこそ動物の皮みたいにコラーゲン質でプルプルしていて、身はふっくらして鶏肉みたいな食感でメチャメチャおいしいんです。

皮の感じは豚足に似てるので、現地では麦味噌で食べたり、甘酢で食べるのを、僕は豚足みたいにコチュジャンを使ったタレを作って韓国風にして食べたらメチャメチャおいしかったです。

――以前からブラックバスを使った料理をやってましたもんね。そういう調理法はどうやって知るんですか?

自分で文献を探したりとか、本を読んだり、ネット読んだり、英語の本も見ますね。その国でどんな調理法をしているのか、または「してたのか」を調べてみて。ブラックバスは、こういう魚に似てそうとか、獲れる場所もこういう場所なら食べられるんじゃないかって考えて、そういうところで獲っている人を探して繋がったり。

いまは海のギャング、ウツボに挑戦しています。サメもウツボもブラックバスも、ちゃんと処理をすれば、僕はおいしいと思っています。これからどんどん使われていくんじゃないかな。

――そういえば、コロナ禍で森枝さんは、あまりレシピをSNSとかにアップしなかったですよね。

そうですね。レシピを無料でアップする意味がないと思ったんですね。もちろん、お家で作れるレシピって貴重だと思いますよ。

ただ僕は、コロナだから何かしようとはあまり思っていなくて、コロナのあと、これから長く続けていけることや、この先必要になるもの。今後長く自分の利益になったり、習慣にするための体力を付ける準備期間だと思って活動してました。

前から動画を自分たちでできるようにしたいと機材を揃えて準備をしていたので、それをやったり。いまは、けっこうな数のYouTube用の動画を撮りためています。ちょっとした動画なら、朝みんなで集まって2、3時間で動画を収録して、一人がもって帰って編集

するくらいはできるようになりました。会社のなかで部活をやってるみたいな感じで、無理がなくできるようになるようにするのがいいと思っていて、それが形になってきたので、これから楽しみになってきたなと思っています。

そもそも何が好きで飲食業に入ったのかを見直すべき

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――森枝さんにとってコロナってどんな存在ですか? 憎たらしいとか?

多くの経営者にとっては、もう本当に最悪だったと思うし、売上だったりとかいろんな意味で苦しい状況になったりしているから、簡単にいうのは難しいんですけども、いろんなことを落ち着いて考えたりとかできたのかなと思っています。何かここまで色んなことが止るって普通にありえなかったわけですよね。

多動性をもった働き方やいろいろな仕組みが変わってくなんてコロナになって言われてますが、それはコロナの前からあった話ですよね。5年とか10年のスパンで見たら、大きな変化はないんじゃないかと思います。

ニューヨークのレストランが閉店したという話でも、ここ数年でニューヨークはものすごい物価や家賃、食材費があがっていてレストランをやるのはしんどいという話になっていたんですよね。飲食業を続けるのが辛い人がいっぱいたわけです。

コロナになって、最後のひと押しになってしまったのかもしれないし、やっぱりそういうことになる可能性があることを考えた上で動いてなきゃいけなかったのかもしれないし。リスクを考えて、別に収入を得ようとする活動なのか、郊外に出ることなのか、スタッフを少なくしてできることなのか。自分にあったことを見つけていく作業が必要になったということを気付かせてくれたのは、コロナなのかもしれないですね。

あとは、そもそも何が好きで飲食業に入ったのかを見直すべきなんじゃないのかな。

僕がカウンターで料理を作っていたのもお客さんの反応を直に感じたいというのがあったんですよね。お客さんの顔はSNSで見ればいいじゃんというのもありますが、僕はそうじゃない。

――そうですよね。お店で出来たてのおいしい状態で食べてもらうことを大事にする人もいれば、できたてとはまた違いますがお弁当にしておいしさを届けようとする人もいて。みなさん、いろいろ考えて行動をされていましたよね。

たとえば僕にとっては、いちばんおいしいものをおいしい瞬間に食べるということ、飲食をやっている目的ではないんですよね。そういうのは手段であって、RiCEやYouTubeとか、新宿のゴールデン街で手伝った小さなお店「The OPEN BOOK」だったりとか、それと同じ「手段」であって、目的ではないんです。

僕の目的は、人が生きていくことにおいて、多様性を表現することがしたいっていうこと。コロナになって「生きている」とか「文化」「日本」とかみんながいうようになったけど、文化は生活が積み重なってきたものだし、 その生活というのは、調理器具であったり流通であったり、いろんなことが複合した生活があって、それが文化になるわけです。そういうことを考えてもらうきっかけになることをしたいんです。

――多くの人にとって見直す時間になりましたよね。

僕も去年あたりから、梅干しを自分で漬けたり、発酵食品を作ったりして、そういうのがおもしろいなって思っていたけど、もっと今回は時間もあるので、眠っていたスキレット磨いたり、胴の鍋を磨いたり、いろんな道具手入れしたり。そういう基盤のうえにおもしろいことがあるから、それを見直せるタイミングになった。そこを大切にしないとリエイティブなものは生まれないと思うんです。

あとは、そもそも「なんで働かなきゃいけないんだっけ?」みたいなね。お金を含めて、ほどほどでいいんじゃないかなって思うようになりました。

――僕もそう思います。前の6割くらいでいいんじゃないかなってね。

幸せになることを一人ひとりが考えて見直さないと、もったいないなぁと思います。生活がじつはメチャメチャ楽しい。パン焼くのも楽しいかもしれないし、モッツァレラをチーズねってもいいかもしれないし。今食べてるものってどうやって作っているんだろうって思ったら、じっさいに自分で作ってみたりすることができたこの2カ月とかで、いろいろな意味で生きる力がついたんじゃないかなぁ。

AIとかに代替される料理人は以前から求められていた

――2011年の東日本大震災がきっかけで、森枝さんは自分の働き方を変えて、今のような自分で稼げるシェフになったわけですが、今回のコロナ禍によってもいろいろなことを考える人が出たと思うんです。そういう人たちになにか言えることはありますか?

そうですね……。若い子に対してなのか、同い年ぐらいでこれから独立しようとしてる人なのか、ステージが皆さん違うんで一つのことで何かいうことですが難しいんですけど、何かに対してスペシャルになることなのかなって思います。

僕がこういうような話ができるのは、父が飲食のジャーナリストで、小さい時から観察してきたから、今のような行動だったり話ができるんだと思うので、それが僕にしかできないこと。他業種から入ってきた人だったら、他業種の経験が役立つことがあると思うし。その人の強みをできるだけ使って、差別化していくことですかね。

これからレシピとか食材の組み合わせとかは、それこそコロナの前からあったAIとかに代替されるというのが話題になってましたから。それでも必要とされる人間になることは考えなきゃいけないと思いますね。

それこそ、アマゾンカカオの太田(哲雄)くんなんて、とてもスペシャルな人ですよね。僕が彼と会ったのはアマゾン行く前。その時からしたら、チョコレートとかカカオを売っているなんて思いもしなかったですからね。

でもそれってすごく前のことではないので、そういうことを考えると、何かの縁があれば、スペシャルな存在になることはあるんじゃないかな。

だから、みんなと同じところをみないで、着目することを変えて、そこをひたすら掘り下げれば、みんなおもしろくなるんじゃないかと。それこそ足元に転がっているかもしれないですよね。

――おもしろいイベントがあると必ず森枝さんが出て、センスのいい料理を出してるイメージがあって、そいう料理人ってこれまでいなかったですからね。

父(森枝卓士氏)が文章を書いていたから、小さい頃から家に編集のとか出版社の人がよく出入りていたこともあって、なんとなく今の世の中がどういう物を欲しているのかを考えるようになったかもしれません。この人はなぜ僕に仕事を頼んでるんだろう、どんなレシピ作って欲しいんだろうみたいな、他の人が何を考えているのかっていうのをちょっと俯瞰してみたりする癖があるから、それに答えられるような頭のトレーニングをしてるというのはあると思います。

――料理業界から離れる人も増えそうですよね。

それはしょうがないんじゃないんですか。料理業界の人が減ることは必ずしもネガティブなことだと、僕は強くは思わない。

それを担っていく人が減って伝統技術が失われていくみたいなことっていう文化的な損失みたいなことはあるかもしれないですけど、これまでの文化的損失というのは僕たちがこれまで取捨選択してきたことの結果だと思うんです。

たとえば、今は京料理が伝統的な料理として残っていますけど、江戸時代の料理をやっているのはすごく少ないですよね。それを考えるときに、経済的なブランディングがあって、それを利用するメディアとかそこで修業をする料理人とかがいる。それって、それぞれの取捨選択があっていまのようになった思うんです。

それを考えると、料理をする人が減ったことで文化的損失が生まれるとはあまり思わないし、AIによって人間がそもそも働かなくていい世の中になるとも言われていますから、楽しいことに忠実に生きるスキルのようなものが求められるんじゃないかと思いますね。

自分がやりたいことをやればいい。そう思います。チーズ作るのも楽しいですよね?

――楽しいですよ。僕が山奥でチーズを作っていないのは、都会でチーズを作るっていう新しい価値を作って広げたいと思っているからなんですよね、それがいちばん楽しいんですよね。

CHEESE STANDのチーズには甘いフルーツに合わせたい

――最後にチーズスタンドのチーズを使って家で出来るおいしい食べ方おしえてください。できたらモッツァレラで(笑)。

フルーツと合わせたいですね。モッツァレラのような乳製品は、甘いものと一緒に食べるのが好きで、シロップ煮にしたものにヨーグルトのかわりのようにして使うのが、すごい個人的には好きですね。

果肉の感じが強いものにシロップと一緒に煮たりして。そこに香りのあるものシナモンとかピンクペッパーのようなものに、Ome Farmのハチミツをかけたりするとかもシンプルでいいですね。

お酒を合わせるならもともとのチーズの役割として、料理とデザートの間に出てくるように、シェリーに氷入れて飲んだりするのもいいですよ。

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Kan Morieda
シドニー「Tetsuya’s」で修行後、帰国。ミシュラン二ツ星の日本料理店「湖月」にて和食の技術を学んだ後、マンダリン オリエンタル 東京の「タパスモラキュラーバー」で、化学を応用した調理技術を習得。その後「omotesando sakaba」「Salmon & Trout(サーモン・アンド・トラウト)」を経て、2019年11月から「chompoo」のシェフに。

文・構成=江六前一郎

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