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カンボジアの胡椒の良さを世界に広めたい|倉田浩伸さん

FRESH CHEESE Delivery(オンラインショップ)や& CHEESE STANDで取り扱っているプロダクトの生産者をインスタライブにお招きしプロダクトにこめた想いを語ってもらう「&なCraftsmanとProducts」を9月から毎週配信しています。第2回目のゲストは、カンボジア産の胡椒を販売する「KURATA PEPPER」の倉田浩伸さん。モッツァレラとの相性が抜群の倉田さんの胡椒がどうやってできるのか。胡椒についてのいろいろなことを聞きました。(インスタライブ配信日:2020年9月18日)

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年の2/3はカンボジアに滞在して胡椒を作る

――コロナ禍で僕たちができる労力のなかで新しい商品を購入しようと思ったときに「さけるチーズ」が思い浮かんだんです。それならぜひKURATA PEPPERさんの胡椒を使おうと思ったんです。(藤川、以下同)

いま「さけるモッツァレラ KURATA PEPPERのブラックペッパー味」を食べています。胡椒が多めでおいしいですね。

――手で胡椒を付けているので、どうしてもバラツキが出てしまうんですけどね。最初の頃よりも胡椒を多めにしています。

おいしい、表面の部分はぶわぁっと、胡椒の香りがしますね。これ、オリーブオイルとお醤油で食べてみてもいいですか?

――もちろんです。オリーブオイルとお醤油あいますよね。

これもおいしい、和テイストになりますね。

――モッツァレラは手でちぎって断面に胡椒を振って食べてみてください。

これはいいですね。胡椒の甘味が、モッツァレラの甘味とあわさって、コクがでて相性がわかりやすいですね。

――では、食べながらお話させてもらいますね。カンボジアを拠点にされていますが、どれくらいの頻度で日本を行き来されているんですか?

コロナ前は、1年の1/3の4カ月が日本で、2/3の8カ月をカンボジアにいました。年に3回、家族に会いに帰ってくるというのが基本です。

年末年始と、カンボジアはお釈迦さまが亡くなった日を元日としているので、お正月にあたる4月。それと、秋のカンボジアのお盆にあわせて帰ってきます。ちょうど今頃ですね。

今年は3月に娘の卒業式に参加するつもりで帰ってきて3月27日にカンボジアに帰るつもりだったのですが、僕が帰国する日から飛行機の欠航が続いていて、日本に取り残されています(笑)。

最初は、1週間の滞在のつもりだったので、現地の冷蔵庫の中とかどうなっているのかな(笑)とか、仕事用のハードディスクを置いてきたこともあって、仕事はどうしようと思ったけど、半年なくてもできていますし、カンボジも僕がいなくてもまわっている。いなくてもいいのかな、とか考えたりしますね。

畑に電気がないので明るくなってから作業が始まる

――胡椒の栽培や収穫について教えてください。

毎朝、だいたい6時くらいに起きて仕事が始まります。カンボジアは熱帯雨林なので、とてもじゃないでが、暑くて日中は収穫できないからなんです。

早朝4時とかだと、カンボジアはまだ真っ暗。うちの畑には電気がきてないこともあって、日が上ったら起きて、朝ご飯をサラサラっと食べたあとくらい、6時半くらいから収穫を始めて、10時半くらいで終わります。

収穫は2月から3月くらいで、花の時期は前年の6月、7月くらい。ですので、8カ月くらいかけてゆっくりゆっくり育っていくんです。

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――どんな花がつくんですか?

花は、白い1㎜くらいの長さの花びらが4枚、十字につきます。ひじょうに可憐な花ですよ。胡椒の先のほうにも花びらプチっと尖がった跡が見えると思いますよ。

花の時期に、花をなめにくる3~4㎜くらいのシュモクバエというハエがくる。それが、サソリのようにカッコいい。その花をなめられちゃうと、実がつかなくなるんです。ですから、普通の農家は、そのときに一生懸命殺虫剤をまいて、花をなめられないようにするんです。

うちは殺虫剤をまかず放置しています。とうぜん花がなめられるので、ひと房に半分くらいしか実がつかなくなる。そうすることで粒が大きくなる。あの小さな胡椒を人の手で摘果するのは大変ですから、ちょうど、シュモクバエが摘果のようなことをしてくれるんです。

同じカンボジアの胡椒でもKURATA PEPPERの粒が大きいのはそういうところにあるんです。

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――受粉は自然にするんですか?

受粉は水蒸気によって自然にします。外気の水蒸気が粒になって垂れて、受粉するんですね。カンボジアは熱帯雨林で寒暖差があるので、それによって水滴がついて、それで受粉するんですよ。

――今、KURATA PEPPERでどんな胡椒を作っていますか?

今は、3種類の胡椒を販売しています。

1つは胡椒の実(下の写真)を天日で干したのが「黒胡椒(ブラックペッパー)」(50ℊ、853円、税込)です。

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熟しかけの黄色い実をとってから追熟させてから、水につけて1カ月間発酵

させます。それを皮を剥いて選別したのが「白胡椒(ホワイトペッパー)」(20ℊ、853円、税込)です。

房のなかで真っ赤に木熟された実をひとつづつ外して乾燥させたのが「完熟胡椒(ライプペッパー)®」(20ℊ、972円、税込)です。果肉に旨味があるので、辛さと香りだけではない、旨味のある胡椒です。

じつは、ほかにも胡椒の花が咲いて2カ月くらいの若いものは、生で食べれて「グリーンペッパー」とよばれています。これは鮮度がひじょうに重要でして、3日から5日が一番おいしい時期。一週間経ってしまうと黒くなってエグミが出てしまっておいしくないですね。ですので、直行便があるときは空輸で届けていました。 しかし、コロナで直行便が飛んでいないので、いまは「グリーンペッパー」は届けられない状態なのです。

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――コロナでカンボジアに行けないとなると、現地での生産体制に影響がでませんか?

そうですね。たとえば、白胡椒は、カンボジアの農園の裏山に湧く水で漬けて発酵させます。発酵は、温度と水温と、外気、水流などによって漬ける時間が変わってくるんです。ですので、1カ月ほど漬けたら味見をしながらやるんですが、その塩梅がわかるのは今は僕しかいないんです。

今年は現地のスタッフだけでなんとかしてみるといって、8月に試作したのを送ってくれたんです。微妙にライトな感じですが、ほかのメーカーさんのものに比べたら充分コクがあるので、「KURATA PEPPER ライト」という感じでいけるかなと思っています。

――今僕は、去年の白胡椒を大事に使っているのですが、2020年のものはいつ頃発売になりそうですか?

白胡椒は、9月くらいに漬けこみがおわるので、10月中旬位に出荷するので、11月頭くらいには販売開始になるかな、と思っています。

注:11月1日から販売開始しましたが、即日完売。次回は12月中旬を予定しているとのこと。

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生産者が「ほしい」という価格で買うこと

――胡椒にもFLO(国際フェアトレードラベル機構)のようなフェアトレードの認証はあるのでしょうか。

ありますよ。ただ、胡椒ではフェアトレードの認証を得ている工場は少ないと思います。

KURATA PEPPERでは、認証を得てはおらず、フェアトレードを目指して、生産農家の人たち、作ってくれている人たちの給料を安定せて、売りたいという金額、欲しいという給料を払えることを目標にしています。

胡椒はひじょうにアップダウンが激しい食材です。1㎏が1000円くらい。農家の価格なので、末端ではもっと高くなると思うのですけど、この2、3年でひじょうに暴落していて、1㎏で220円くらい。

だいたい1haの畑を切り盛りしていくのに必要な金額は、1㎏で500円から600円くらいかかるので、いまは採算割れしている状況です。それでも誰も保障してくれませんから、胡椒の農家の人たちは苦しい思いをしています。

そういうことがないようにということで、ウチは生産者の生活が守れる金額、プラスアルファで、完熟胡椒などは、その3倍くらいの値段で買い付けています。

――今は、自分たちの畑以外から胡椒を買っているんですね。

最初始めたころは、誰もうちのやり方をやってくれなかったんですよ。今では、KURATA PEPPERのやり方をすれば高く買ってもらえるということで、みんなちゃんとうちのやり方でやってくれるようになったので、そういった人たちから買っています。そっちの方が最近は多いでね。

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――倉田さんの胡椒の値段は安いという意見もありますが、今の価格は適正だと思いますか?

モノにもよるのですが、白胡椒はとくに、半熟の胡椒を天日で干して、水に漬けて、皮を剥いて、また天日に干して選別してやっていると、黒胡椒の倍以上の手間がかかっているのに、黒胡椒と同じ値段だったんですね。いまは少し上げさせてもらいましたが、それでも完熟よりも安いんです。値段の付け方がおかしいんじゃないかと、最近よくスタッフにも言われます。

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でも、始めたころはこの金額ですら「高い」といわれまくったんで、ギリギリの価格で始めたたんです。そこから、手間のかかる作業工程を話し続けて「こんなに大変なんです」と理解してくださる方もいらっしゃるようになりました。

今のところは、従業員のお給料を払っていけているので、この価格でいいかなと思っています。

もうちょっとしたら、カンボジアの人の生活費があがってきて、これでは生活ができないとなったら、値上がりしていくのかな、と思っています。

――今、ベトナムが成長していますからね。お隣のカンボジアもそれにつられて物価があがっていくかもしれませんね。

そうですね。じっさい、いまはベトナムよりもカンボジアの方が給料や物価が高いこともありますよ。それなのに産業が遅れているんですよね。

なぜかというと、国内の産業がないので輸入に頼ってしまっている。ですから、牛乳もそうですけど、インスタントラーメンとかはタイやベトナムの輸入品なんですよ。なのに給料は一緒、だから生活がしにくいことになっているんです。

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10年後は「何もしていない」のが理想です

――チーズ職人として気になることなのですが、カンボジアにチーズはありますか?

最近、カンボジアの工業団地のなかに牛を飼っている人でてきました。ほんの少しカンボジア産の牛乳が出回りだして、ヨーグルトとかチーズが出回りはじめました。それまでカンボジアには、まったく乳製品がなかったですよ。

――ベトナムのホーチミンで日本人の益子陽介さんがやっていらっしゃる「ピザフォーピース(Pizza 4P’s)」さんなんかは有名ですよね。ベトナムとカンボジアは近いけど酪農はできないんですかね。

ベトナムは高原ですよね。カンボジアにも高原はあるのですが、そこには電気が通っていないんですね。酪農は電気が通ってないと厳しいじゃないですか。作った牛乳の処理についても電気がないと厳しい。

だから電気が安くならないと、カンボジアで酪農は厳しいかなと思います。

――そうですね。さらにフレッシュチーズを作るには大量に水を使うんですよね。カンボジアの浄水設備はどうですか?

プノンペンは日本の北九州市が指導して作った浄水処理場があるので、水道水を飲むことができます。クオリティは日本と同じですね。

ほかの街にもできはじめました。

――僕も2002年くらいに友だちと一緒に行ったんですよね。タイから乗合バスみたいのに乗って。その頃はまだ水は飲めなかったですね。

そうですね、2003年にプノンペンの浄水場ができていますからね。その頃は、まだ飲める状況じゃないですよね。

――話がかわってしまうんですが、今も「マイ・ミル」を持っていますか?

もちろんですよ。いつもどこでも誰にでも「胡椒、ひとついかがですか?」って勧められるようにね。

――マイ・ミルの中には、どんな種類の胡椒が入ってるんですか?

何にでも合うように完熟胡椒を入れていますね。ホットワインを飲むときとか、ワインに振りかけると、コクがでるんですよ。

――完熟胡椒は、沖縄のピパーチのような甘い香りがしますよね。

そうですね。フレーバーは似ていますが、味はぜんぜん違ってきますね。

あとは、桃とかパイナップルにかけると、コクが出て酸味がまろやかになるんですよ。

――いいなぁ、胡椒だからできますよね。フレッシュチーズはちょっとできない(笑)。倉田さんの10年後の目標はどんなことですか?

10年後、何をやってるんだろう。僕はもう60歳を超えてますからね。

今、カンボジアの若い人たちに技術指導をしたり、商品開発をしたりしたりしているんです。どんどん地元の若い人たちにハンドオーバーしていこうと考えていて。5年後くらいには、地元の人たちだけでやっていけるようになってるんじゃないかなぁと思っているので、10年後は何もやってないのが理想です。

日本やヨーロッパでは知られていますが、北米やオセアニアなどではまだ知られていないところもあります。カンボジアの胡椒をもっと世界の人に知ってもらいたいというのが強いので、私の役目としては、そういうところに広げていくのが仕事かなと思っています。

胡椒は一人あたりの消費量は少ないので、裾野を広げていかないと、価格が暴落したりすると影響を受けてしまうので、いろんな食材に合わせていけることを提案していかないといけないので、マイ・ミルをもって世界中を旅していたらいいですね。

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CHEESE STANDとKURATA PEPPERさんとのコラボ商品は、「さけるモッツァレラ KURATA PEPPERのブラックペッパー味」のほか4種類ある「カチョッタ / スパイス・ハーブ」のブラックペッパータイプもKURATA PEPPERさんの黒胡椒です。KURATA PEPPERさんの黒胡椒とともに「& CHEESE STAND」やオンラインショップでご購入できます。倉田さんの胡椒の魅力を堪能してみたください!

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https://fcd.cheese-stand.com?pid=150987485

文・構成=江六前一郎

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次回の「&なCraftsmanとProducts」は、「MY BEST GRANOLA」の市川広樹さんです。CHEESE STANDのnoteをフォローしていただいて、次回もお見逃しないようにしてくださいね!

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