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成長する会社、辛かった経営者としての挫折|C.S. STORY 2017-18

CHEESE STAND STORY」は、2022年のCHEESE STAND創業10周年に向け代表の藤川真至が、創業から1年ずつを振り返っていく連載企画です。第6回は、2017年6月から18年6月までの創業6年目について。

ブッラータが国際コンクールで銀賞受賞

5周年を迎えたばかりの2017年6月12日、フランスからうれしい報せがありました。トゥールで開催されていた国際チーズコンクール「Mondial du Fromage」で東京ブッラータがARGENT(銀賞)を受賞したのです。

前年の「JAPAN CHEESE AWARD」(主催:NPO法人 チーズプロフェッショナル協会)で「出来たてリコッタ」の金賞をはじめ、CHEESE STANDの3つのチーズが受賞。その副賞として、 チーズプロフェッショナル協会が出品の手はずをとってくださり、Mondial du Fromageにブッラータのほか、リコッタとカチョカバロを出品することができました。

普段からCHEESE STANDを応援してくださっている皆さんに心から感謝した喜びの瞬間です。

コンクールには、製造スタッフの井美さんと、オウンドメディア「CHEESE media」編集長で広報もお願いしていた佐野嘉彦さん、店舗スタッフの大石結子さん、妻の千鶴に行ってもらい、僕は東京に残ってチーズの製造のお留守番していました。

長時間の移動もあってベストな製品状態で出品ではなかったと思うのですが、ブッラータは、逆にその時間がちょうどいい熟成になったのかもしれません。オリジナルの食べられる結び紐も評価して金賞に推す審査員の方もいらっしゃったそうです。

国際コンクールで、味わいや創造性の部分で評価をいただけたことは、とても大きな自信になりました。

また、実際に会場に渡ったスタッフは、世界中から集まったチーズの多さを見るだけで、日本におけるチーズの認知度の低さや文化の違いを強く感じたのではないかと思います。もちろん、受賞もうれしかったですが、会社としてスタッフの経験になったことはとても良かったと思っています。

創業前から構想していた「絵本」がついに完成

前年に、CHEESE STANDのフレッシュチーズだけでなくCHEESE STANDにゆかりのある仲間たちのプロダクトを集めて販売する& CHEESE STANDができました。そこには食材や飲み物だけでなく、チーズにまつわるエセトラをたくさん用意したいと思っていました。

絵本『モッツァーマン モッツァーマンはママのあじ?』を6月16日に発売したのは、そのひとつの取り組みです。

ご家族やお子様が集まる場所などに、チーズの本があったらいいのに――。そんなことを起業前の事業計画にすでに書いていたくらい、絵本のアイディアはずっと僕の頭のなかにありました。LINEスタンプの方が先の発売になりましたが(3年前)、ようやく形になったのです。

ちょっとやきもちやきなモッツァーマンを主人公に、恋する乙女ふわふわリコッタのリコちゃんやプリンスブッラータ、カッチョンなどが活躍する物語。お子さまだけでなく、大人が読んでもクスっと笑ってしまうような内容です。

ストーリーは、キャラクターデザインをしてくださったイラストレーター 照喜名隆充さん。ブックデザインや装丁は、CHEESE STANDのロゴなどを作ってくださっていたデザイナーの太田貴子さんです。

絵本の打ち合わせは、2016年の秋くらいから始めていたので半年以上かけて作ったことにます。本づくり自体が初めてでしたので、原案から誌面に落とし込むまでの流れや、表紙や背表紙の決め方など知らないことばかり。本を1冊作る大変さが身に沁みました。

さらに本は作って終わりではなく、出版に必要なISBNコードの取得や、Amazonで販売するための手配方法など販路の確保も必要で、大変な仕事だなとつくづく感じました。

大反響でした! といいたいところですが、じつは残念ながらまだ在庫がある状況です。子どもができた友人などに配ったりしたり、子ど向けのチーズイベントで渡したりしています。児童図書館や保育園、幼稚園、子どもが通う小児科や歯科の待合室などに置かせてもらえたらいいなとも思っていますが、まだ実現できていません。

※どなたか寄贈の方法を知っていらっしゃる方がいれば教えていただきたいです。

発売した翌年の2018年4月27日には「モッツァーマン」が4コマ漫画になって連載スタート。現在も連載中で、チーズと仲間たちのちょっとおかしな日々が描かれ続けています。

第157話 桜の季節

 チーズを広く知ってもらうために

夏には、いつかやりたいと思っていたアイスクリームをベイクルーズさんのデリ&カフェ「PULP Deli&Cafe」で商品開発をすることができたり、秋には起業する前に通い、飲食の経営者の方々とのつながりという財産をいただいた「スクーリング・パッド」に、7年振りくらいにゲストとして登壇して自身の経験をお話しする機会をいただいたりと、チーズをたくさんの方に知ってもらえる取り組みはできたと思ってます。

モッツァレラなどのフレッシュチーズは常温でたべた方が美味しいというセオリーがありますが、ここは食感やクリーム感を重視してのブッラータ(ストラッチャテッラ)。 食感、酸味などを加えておいしく仕上げました。
スクリーングパットの先生であり、CHEESE STANDのメンターであり、同じくエセドラゴンズファンである(今夏10点差をひっくり返された試合を観にいった仲)、飲食業のブレーン・子安大輔さんと一緒に「ONE STORY」さんで素敵な記事にしていただきました。

さらに9月には「Pizza 4P's」の益子陽介にお会いしに、6年振りにベトナムとシンガポールにも行ってきました。

前回お会いしたのは6年前で、ちょうどCHEESE STANDの開業準備中でした。「モッツァレラ 手作り」でGoogle検索をしていたら偶然に益子さんのブログ「まいどおおきにホーチミン」にたどり着き、どうしてもお会いたくてコンタクトをとってホーチミンへ会いに行ったのでした。

2011年11月に初めて益子さんにお会いしました。その時の写真。

益子さん率いる「Pizza 4P's」は、今では世界的に有名なお店になられて、スピード感や規模感にいつも学ばせてもらっていま。

ホーチミンで益子さんとお話しし、ダラットにある工房にも翌日行かせてもらいチーズづくりも見学。ベトナム人が真面目に働く姿を見て、スタッフのマネジメントも考えることが多くありました。

そんな益子さんと、今度は5年ぶりにフードカルチャー誌「RiCE」のピザ特集号(2022年4月6日発売)誌面でご一緒できたのは嬉しかったです。

RiCEさんとのご縁もこの年で、2018年4月からRiCEさんのWeb「RiCE press」で、チーズの連載も始めました。チーズについて、チーズの作り手から見るチーズのこと、などを4回にわたって書いています。

経営者として未熟さを痛感した1年でもあった

フランスで、ブッラータが賞を受賞したり、さまざまな取り組みもしていましたが、6年目の後半は苦しい状況が続いていました。

前回もお話ししたとおり、CHEESE STANDとして3店舗目の渋谷ヒカリエ店は半年で撤退。渋谷店と& CHEESE STANDは変わらずお客様に来ていただいていのですが、店が2つになったことで製造場所と小売り、カフェが別々の場所で働くようになり、それまでのようにコミュニケーションなどがうまく取り合うことができずらくなっていました。そのため、チームとしてのまとまりがとれなくなってしまったのです。

製造スタッフも1人、2人と辞めていき、僕が朝から& CHEESE STANDにある工房に入ることになりました。そうすると、渋谷店としっかりと関わることができず、さらに連携が悪くなりSHIBUYA店をやめるスタッフが出てくるといった悪循環が起きていました。

会社の規模が大きくなっていくなかで、その歪が目に見えて現れてきたわけです。しかしそれが商品のクオリティにも影響が出てしまっては、お客様の信頼を裏切ることになってしまう。製造については、高い意識をもってもらいたいと思い、スタッフに対して注意をすることもありました。

なかには、それが辛くて辞めてしまった子もいました。厳しく注意をしたりすること自体は、間違ったことではないと今でも思っているのですが、一方で注意をするタイミングであったり、注意する以外の場面でフォローできるような信頼関係、普段のコミュニケーションやスタッフ同士の交流ができていなかったことは、経営者として考え直す必要があることを痛感しました。

さらに、少ない人数で店舗をしっかり守ってくれた卜部さんをはじめとする当時のスタッフには、大きな負担がかかってしまい、今でも申し訳ない気持ちでいっぱいです。

周りにとっても、自分にとっても辛い経験を繰り返さないようにしよう。そのためには、自分自身も変わって、再出発の気持ちでスタートをする。経営者としてのターニングポイントになった1年でした。

妻の病でワーク・ライフ・バランスを
考えるようになった

少し話は戻って、5周年を迎えたばかりの6月。コンクールから帰国した井美さんと入れ替わるようにして、今度は僕がイタリアに渡りました。

トゥールの「Mondial du Fromage」から、友人に会うためイタリアに入っていた妻の千鶴とヴェネツィアで合流して、ヴェローナへ移動。ヴェローナから電車で1時間くらいにあるソアヴェ村の生産者「コルテ・モスキーナ」を訪ねました。景色がとてもきれいば場所で、地元の料理を食べたりして、2泊ほどしてきました。


ソアヴェ村ではチーズ工房も見学。モンテ ヴェロネーゼを造る生産者。奥が工房、手前に販売所。

この年から毎年のようにイタリアを訪れるようになるのは、千鶴のためでした。

前年の2016年5月に千鶴の脳腫瘍が再発。ステージ3で、余命も1年から2年といわれていました。

脳の腫瘍なので、すべてをとることはできません。ただ治療をしていけば、希望はあったので、主治医の先生を信じて5月に手術。夏には、放射線治療を開始しました。

千鶴は、手術後、自分で文献を読んだりして自分の状況をある程度理解したなかでも、「がんになってよかった。命の大切さや時間の大切さを考えることができるようになった」ということを言っていて、千鶴らしいポジティブさに僕はとても救われていました(僕だけは、余命を知っていたので泣いてばかりでしたが)。

千鶴が大好きだったイタリアにできるだけ連れていこうと考えたのは、旅の予定が日々の生活の糧になればという思いからでした。

2人の時間を作ろうとするようになったこともあり、仕事に対してとにかくがむしゃらに働いてきたこれまでを振り返って、ワーク・ライフ・バランスを考えるようになったのもこの頃です。

愛犬のボネちゃんも、2人にとって大切な存在でした。

子どもが欲しかったのですが、治療のこともあるのであきらめ、犬を飼おうと話していました。2017年1月、熊本県の友人で同じくフレッシュチーズを作る「イルフォルノドーロ」の原田将和さんから子犬を譲り受けることになり、はるばる車で熊本まで引き取りにいってきました。

トリノの名物で、チョコの濃厚プリン「Bonet」の色に毛色がそっくりだったことから「ボネ」と名付けました。

朝は千鶴、夕方は僕が富ヶ谷から神山町を散歩して一緒に歩く。& CHEESE STANDの牛のオブジェの前でお行儀よく座って待つボネちゃんは、商店街のアイドルで、地域の富谷新聞で取材を受けたこともあるんですよ。

今も毎日の散歩はかかしていません。お会いになりたい方は夕方にお店の前で。道行く人たちを楽しそうに眺めています。

藤川家に来たばかりのボネちゃん。
すぐに看板犬に。

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語り=藤川真至
文・構成=江六前一郎

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