見出し画像

#4 アートな医療的ケアの拠点とは? ゲスト:西出真悟さん

 第4回チア!ゼミのテーマは「アートな医療的ケアの拠点とは?」です 。本レポートでは、オレンジホームケアクリニック副院長の西出真悟さんによる新しい建物がオープンしたばかりのオレンジキッズケアラボの取り組みから、アートな医療的ケアの拠点について考えたいと思います。

チア!ゼミとは?
 チア!ゼミは、医療福祉従事者、クリエーター、地域の人々、患者さんやその家族、学生など様々な背景を持つ人たちが集まり、参加者同士の対話によって、医療や福祉におけるアート・デザインの考えを深めるプラットフォームです。実践者や当事者の方に話題提供していただいた後、参加者同士で対話しながら、異なる視点や考えを共有します。多職種の方が集まって話し合うことで生まれた発想や新しい視点を、参加者のみなさんがそれぞれのフィールドに持ち帰ることで、医療や福祉環境を変えていく社会的なアクションへ繋がることを期待しています。

地域のハッピーを考えるオレンジキッズケアラボ

西出 真悟/オレンジホームケアクリニック副院長

スクリーンショット 2020-11-24 22.11.03

ユニークなスタッフで支える在宅医療
 オレンジキッズケアラボは、重度の障害を抱える子どもたちが、住み慣れた地域で、家族と共に「成長」や「生活」を楽しみながら暮らしていくことができることを目指した場所です。2020年7月、福井県福井市に新しい建物が完成し、新たなスタートを迎えました。

 母体であるオレンジホームケアクリニックは、在宅医療を専門に行う診療所です。「あなたの『生きる』に寄り添う 」を理念に、医療を通した地域づくりに取り組んできました。いわゆる病院の医療は、医師がトップに立ち、効率的に動いています。一方、在宅医療では、医療がうまくいっていれば、療養生活もうまくいくかというと、決してそうではありません。医療の専門家である医師だけではなく、さまざまな職種、世代のスタッフがいることが、とても重要になります。例えば、10代だからこそ分かることや、海外経験があるから分かることなど、さまざまな経験をフラットに並べて、スタッフ間で話し合いを繰り返しながら、療養生活をケアしています。スタッフには、臨床宗教師というお坊さんやミュージシャンといったアーティストもいます。彼らの意見を聞くことも、よくありますね。 

スクリーンショット 2020-11-24 21.52.29

医療的ケア児の在宅医療
 オレンジホームケアクリニックでは、医療的ケア児と呼ばれる子どもたちも診ています。日本における子どもの数は、年々下がっていますが、医療的ケア児の出生数は、増えているといわれ、赤ちゃんの命が助かる確率も、年々高くなっています。一方で、そうやって救えた命が、地域に帰っていくときに、その地域のケア体制が万全かというと、まだまだそういうわけでもありません。

 私たちが医療的ケア児へのサポートを始めた頃は、まだまだやっている人は少なかったです。むしろ止められたり、やるべきじゃないといったご意見もたくさん頂きました。それは、医療的ケア児に対する制度が整っていなかったり、リスクが高かったりするからです。それでも、現場を見ていくなかで、医療的ケア児のお子さんやそのご家族が、かなり手助けを必要としていることが分かっていたので、それにチャレンジしてみようというのが始まりです。私たちは、まず在宅医療の分野から医療的ケア児と関わり始めました。在宅医療を利用することで、ICUやNICUなどで過ごしていた子どもたちが、おうちに帰ってくることができるようになりました。

みんなにとって、はじめての体験を
 こうして非日常の病院から、日常の生活に戻ってきて、次は「日常生活の非日常を楽しもう」という発想になりました。 私たちは、毎年夏休みに、医療的ケア児の子どもたちと一緒に、軽井沢への旅行や滞在を楽しんでいます。この旅行では、ただ軽井沢に行って楽しむだけでなく、「新しいチャレンジをすること」を目標にしています。例えば、この旅行中に、気球を飛ばします。みなさんも、気球に乗って空を飛んだことって、あまりないですよね?これまで、障がい児の新しいチャレンジというと、どうしても、健常児と同じことをしようってなりがちだなと感じていました。そうではなく、健常の子たちもあまりやったことないことにチャレンジして、みんなで一緒にはじめての経験をすることで、「怖かったね」「楽しかったね」といった体験を、フラットに共有できるんじゃないかと思っています。

 このほかにも、旅行中は、いろんなところに出掛けます。みんなで同じTシャツを着て、街を歩き回るので、地域の人々も、少しずつ医療的ケア児を受け入れてくれるようになりました。例えば、福井から軽井沢まで、北陸新幹線を利用するのですが、この期間中は、やたらバギーや呼吸器を付けた子どもたちが往復するので、JRのスタッフさんの対応が、かなりレベルアップしていきました。ほかにも、「うちのカフェ寄ってって。段差はあるけど、みんなで抱えれば入れるでしょう」と声を掛けてもらったこともあります。こうやって医療的ケア児が、地域にどんどん出ていくことで、社会全体もどんどん変わっていくということも、あるんじゃないかなと思っています。

スクリーンショット 2020-11-24 21.50.29

医療的ケア児が、地域でハッピーに過ごせるように
 ある医療的ケア児の子の話ですが、その子が高校を卒業する歳になり、私は、お母さんに「今後の進路は、どうされるんですか?」と聞いたことがありました。すると、お母さんは、「私と2人でずっと家にこもっているか、離れ離れになって、この子がずっと入院できる施設に行くか、どちらが良いのか悩んでいます」と答えたんです。私たちは、医療的ケア児に関わっている人も、地域も、どちらもハッピーになればいいなと思いながら、在宅医療をやっているわけですが、その両方にとってハッピーな選択肢に思えなかったんですよね。そこで、「医療的ケア児が、地域でハッピーに過ごすためには、どうすればいいのか研究しよう」という意味を込めて立ち上げたのが、オレンジキッズケアラボです。

施設らしくない施設
  オレンジキッズケアラボは、「施設らしくない施設」をコンセプトにしています。「あそこにレールが欲しい」「あそこにフックが欲しい」など、スタッフにとって便利なものを作ってしまうと、施設っぽくなってしまって、面白くないんです。私たちは、どんな場所でも、何か問題があっても、ある程度ソフト面で解決できるだろうと考えています。なので、ハード部分に関しては、居心地のいい空間を目指しました。

 森をテーマにしたデザインで、横にはカフェも併設しています。例えば、ウッドデッキでプール遊びをしている医療的ケア児の子どもたちと、カフェのお客さんとして来た子どもたちが、一緒になって遊んじゃうなど。そういったインクルーシブな場が生まれてくることも、期待しています。

スクリーンショット 2020-11-24 21.53.19

0→1のサポートを
 私たちが「0→1体験」と呼んでいるものがあります。気球の話もそうですが、初めての体験にチャレンジするときが、やっぱり一番ハードルが高くて、険しいです。親御さん達も「何かあったらどうしよう」とリスクのことを考えて、かなり慎重になります。なので、この1歩目を、どう専門家と一緒に乗り越えるのかが、とても重要だと考えています。私たち専門家は、0→1の体験をサポートし、あとの2→100は、親御さん達だけで進めていっている気がしています。

新しい制度をつくるのは、現場から
 行政に対して、「医療的ケア児の制度を何とかしてよ!」と訴えても、行政側も、何をしていいのか分からないんですよね。なので、「僕たちは、こういう課題に対して、こういったアプローチで、こんなことをしたら、こんな結果が生まれました。ただ、ここが赤字で、この制度の、ここが問題なので、ちょっとやりにくいです」といったことをお伝えするようにしています。こうすることで、「じゃあ、補助金付けますよ」「じゃあ、この制度の、ここを変えますよ」と、行政が動いてくれる確率が上がるなと実感しています。そうやって制度が変わっていけば、私たちだけじゃなく、「その制度ができたのなら、私たちもやってみよう」と、他の事業所も取り組み始めて、「この補助金が付くなら、経営できそう」となれば、さらにほかの事業所も加わり、輪が広がっていきます。

 私たちが、新しいチャレンジをして、それが地域の前例となり、みんなができるようになっていけば、地域全体が変わっていくんじゃないかなと思っています。

西出 真悟/オレンジホームケアクリニック副院長
オレンジホームケアクリニック副院長(https://www.orangeclinic.jp/)。社会福祉士・在宅医療プランナー。オレンジキッズケアラボの活動を通して社会を変革していくことを目指して活動中。

——————
第4回チア!ゼミ「アートな医療的ケアの拠点とは?」
日程:2020年7月26日(日)14:00-16:30
場所:オンライン開催
主催:特定非営利活動法人チア・アート https://www.cheerart.jp/
共催:一般社団法人 Orange Kids’ Care Lab. http://carelab.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?