またたび日記6「猫と眠る日」
猫の体調が良くなったと思えば、今度は僕が腹を壊してしまった。
下痢気味で、十五分ごとにトイレに立たなければならなかった。
今朝はピンピンしていたのに。
もちとだいふくが元気になった安心感からか、彼らが帰った寂しさからか、とにかくお腹が痛かった。(*またたび日記5参照)
とても座っていられず、座っているとすぐに腹がよじれ、便意を催した。
仕方ないので、僕は居間で寝転んでいることにした。
ほかの家族が皆学校や仕事に行っている間、僕だけ寝ているというのは何となく申し訳ないような気がした。本来やるはずだった大学の課題や、就職先探しも、腹痛により頓挫してしまった。何も出来ていないという状況が、僕を暗い気持ちにさせた。
「にゃあ」
と、透き通るような鳴き声が僕の耳元で響いた。仰向けのまま、視線だけそちらに向けるとリンが寄ってきていた。
「どしたぁ? リン?」
リンは何も言わず、僕の顔の横に座った。そしてごろごろと喉を鳴らした。
そのごろごろ音を耳にして、彼が撫でて欲しがっていることを察した。僕はリンの絨毯のような毛並みを撫でた。すると、リンはさらに気持ちよさげに喉を鳴らした。リンを見ていると自然と頬が緩んだ。
しばらくして今度は足元の方に、もふもふとした感触を感じた。そちらを見遣るとレイがいて、体を僕の足にすり寄せていた。
「ふふん、この甘えん坊め」
僕はレイをリンの隣に座らせ、交互に背中を撫でてやることにした。レイの毛はリンよりもさらさらしていて、コートのファーか薄手の毛布のようだった。レイもリンと同じように喉を鳴らし、そして仰向けになってさらに撫でるよう催促してきた。
その後、僕は他人には聞かせられないような猫なで声をあげながら、彼らを撫で続けた。
*
リンとレイはしばらくすると僕の隣で丸くなって寝た。
上下する二匹の小さなお腹を見ているとなんだか、ふと肩の重荷がとれたような感じがした。
――こんなに気持ちよさそうに寝てる、誰にも悪びれずに――
猫は自分の健康と幸福のために眠る。
それは生きていくうえで必要不可欠なことだし
本来、申し訳ないと思うようなことじゃない。
だから僕だって……
それから一時間後、僕は猫たちと川の字になってお昼寝した。そして目を覚ますとある変化に気づいた。お腹の調子が良くなっていた。もう腸がよじれるような痛みも、便意もなくなっていた。そして気分も明るかった。
また、猫に救われた。
僕は傍らでまだ眠っている猫たちのお腹に顔をうずめた。
「リン、レイ、ほんとにありが……ぐへぇ!」
お礼を言おうとした最中猫ぱんちをくらった。寝ぼけた猫たちに肉球を押し当てられながら僕は幸せな気分だった。
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