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『性の劇薬』凹と凸が□となる時

こんばんは、チェ・ブンブンです。

先日、池袋シネマ・ロサで城定秀夫監督の『性の劇薬』を観てきました。

城定秀夫監督作品は、B級、Z級のピンク映画の体裁をしながら毎回凄い世界を魅せてくれるということで数年前からシネフィルの間で注目されている監督です。ブンブンも長年観ず嫌いしていたのですが、映画仲間から「絶対に観てくれよな!」と圧をかけられ、先日『覗かれる人妻 シュレーディンガーの女』を観て城定秀夫映画童貞を卒業しました。

さて、そんな城定秀夫監督の新作は水田ゆきの同名BL漫画の映画化で、BL漫画の出版社であるフューチャーコミックスが「日本初のBL漫画18禁実写化」を謳い企画されたようです。

そんな企画に白羽の矢が立ったのが城定秀夫監督。早撮り超絶技巧で非常に味わい深い作品に仕上がっていました。

連日満席だということで、しかも上映館である池袋シネマ・ロサはネット予約ができないということで、朝の9時から並び、連休最終日2/24(月)17:45の回を観てきました。ってわけで感想を書いていきます。尚、R-18作品のレビューなので要注意です。

『性の劇薬』スタッフ

監督:城定秀夫
出演:北代高士、渡邊将、長野こうへい、階戸瑠李etc

『性の劇薬』あらすじ

男同士の過激な監禁・SM・調教を描き、累計100万ダウンロードを突破した電子BLコミックを、R18+指定で実写映画化。一度は命を捨てようとした男が監禁・SM・調教を通して再生していく姿を、男同士でひかれ合っていく心情や濃厚で過激なベッドシーン、SMシーンを交えながら描いていく。それまで歩んできた完璧な人生から滑り落ちたエリートサラリーマンの桂木は絶望し、酔った勢いで飛び降り自殺をはかる。そこへ現れた謎の男・余田に「捨てるならば、その命を俺に寄こせ」と言われて助けられた桂木だったが、それが恐ろしい監禁調教生活の始まりとなる。「悦楽交差点」や「私の奴隷になりなさい」(第2章&第3章)ほか、数々の劇場映画やVシネマを手がける城定秀夫がメガホンをとった。
映画.comより引用


凹と凸が□となる時


ツォン、、、ぴちゃん、、、

雫が滴る。

朽ちたビルの金属にあたり錆びた振動が木霊する。カメラは男に迫る。男は「うぇ、、、うぇえ、、、」と呻き、やがて起き上がると、全身拘束されていることに気づく。パニックになり、暴れる彼の前に、カツン、、、カツン、、、と謎の男が現れる。

そして、ローションのねっとりした音を響かせながら、男の乳首を刺激し、激痛と快楽の深淵に引き摺り込む。

果たして、彼の目的はなんだろうか?

日本初のBL実写化に白羽の矢が立った城定秀夫監督は、石井隆なら俗で始まりアートで終わるところを、俗で始まり俗で終わらせる一貫した姿勢で我々を異次元へと連れて行く。

まさしく《ジョジョの奇妙な冒険》である。

性の拷問は、心身共に苦痛を伴う。屈辱的な拷問は、忘却への渇望を呼び覚ます。彼はプロジェクトリーダーとして、必死に働きようやく認められた。そして、家族に沖縄旅行をプレゼントする。拷問はただの夢だったのか、、、しかし、今置かれている危機は紛れもない現実である。どうして、この拷問を受けなければならないのか?忘却への渇望がじっくりと、彼に降りかかった悲劇を紐解いていく。彼の飢え、もがきは残酷な音色を放ち錆びた金属に当たり、虚しく反響する。サイコパスな男は、彼が自殺も他殺もできないことを見透かして見守る。屈辱の底で彼はもがくのだ。

しかし、段々とこのサイコパスな男に輪郭が縁取られ、《攻め》と《受け》がニコイチの関係になっていく。凸と凹が合体し□となる様は、まさしくイングマール・ベルイマンの『仮面/ペルソナ』における自問自答の末に二人が一人になるあの内なる世界であります。

これは、単に特殊な性癖を消費するだけの映画ではない。拭い去ることのできぬ過去の苦しみを性欲レベルにまで因数分解し、ひたすら自分とは何かを問うことで克己するセラピーの映画として一流である。

しかも、城定監督はBLファンを第一に考えており、下手に監督色やアート色に染めることはしない。蛇足に見えるクライマックスの長い長い合体シーンは、ファンサービスとして贅沢に配置する。

これはトンデモナイ傑作でした。

舞台挨拶リポート

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上映後の舞台挨拶には、渡邊将、長野こうへい、そして飛び入りで城定監督が登壇し、沢田国大プロデューサー司会のもと、Twitterで寄せられた質疑に応答していました。

非常に好感がもてたのは、ハラスメントや役者の心情に配慮して制作されていたことです。日本の超インディーズ映画では割とパワハラ、セクハラが生じ、それを力で隠し通そうとするケースが散見される。それこそ松江哲明が『童貞。をプロデュース』において、出演者である加賀賢三からセクハラを訴えられたケースが挙げられる。

特に、本作はBL、それもハードコアなBL漫画の映画化である。一歩間違えれば悪ふざけに陥ったり、役者を傷つける恐れがある。城定監督は役者の精神的ケアを行い、彼らのキャリア形成に悪影響が出ないよう配慮していることがこのトークショーで伺えた。実際に、トークの盛り上がりなんかからも監督と役者との関係が良好なんだろうなと感じた。

R-18なので、高校生以下のシネフィルには我慢していただきたいのですが、お時間ある方は是非池袋シネマ・ロサで、この内なる世界をお楽しみください。

おまけ:入場者特典

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入場者特典でカードをいただきました。

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