彦根城レポート
世界遺産界隈の問題児・彦根城
こんにちは、チェ・ブンブンです。
先日、世界遺産界隈の問題児こと彦根城に行ってきた。なぜ、問題児なのだろうか?理由は簡単、1992年に世界遺産暫定リストに登録されてから30年以上、世界遺産に正式登録されていない遺産だからだ。1993年に世界遺産に登録された姫路城と差別化を図る必要があり、また近年、世界遺産の登録数が増えすぎており、世界遺産委員会で登録推薦できる数が原則1か国1件までとなっている。彦根城を登録するよりも優先すべき日本の遺産があるため、後回しにされていたと考えられるのである。
しかし、ここ最近動きが出てきている。姫路城を拡大登録する形で、彦根城、松本城、犬山城、松江城の国宝5城で世界遺産登録を行おうとしている。世界遺産の中には、元々単独登録だった物件が拡大されるケースがある。有名な例として、シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間の
ロワール渓谷がある。1981~2000年まで、シャンボール城が世界遺産に登録されていたのだが、シュノンソー城やアンボワーズ城などといったほかのロワール古城を含める形で2000年に拡大登録され、シャンボール城は吸収された。近年、世界遺産を点から面の観点から保護・評価していく動きがある。
一方で、彦根市側としては単独で登録したいと考えておりハードルを抱えている状態である。確かに、彦根城や姫路城としては「国宝5城」でまとめられてしまうと観光ブランドとして薄まってしまう問題はある。実際に、そういった問題を抱えているためか、イギリスのバース市街(1987年登録)は2021年の世界遺産委員会でヨーロッパの大温泉保養都市群の構成遺産に選定された際に、本世界遺産に取り込まれるのではなく、別々の世界遺産として重複登録された。
世界遺産検定マイスターを取得した者として、実際に足を運んで彦根城が今どうなっているのかを確認したいと思い、ビワイチをするついでに立ち寄ってみた。
気合の入った博物館
彦根城の入り口近くに博物館がある。ここでは彦根城の歴史や文化について学ぶことができる。博物館のいたるところに持ち帰り可能な資料がある。彦根駅に行くと、世界遺産登録を目指す強い意気込みがスローガンとして掲げられていることもあり、京都へ行った時よりも資料が充実していた。
彦根藩主の井伊家は近江国を治めていた大名であり、一度も国替えをせずにこの地を支配していた。井伊直政の死後、井伊直継が領土を相続し、彦根山に新城を建てることが決まる。1607年に天守が完成する。1622年頃、井伊直孝が藩主を務める時代になると城郭の改造および城下町の整備が終わる。
井伊家は甲冑にはじまり旗指物などを朱色に統一する「赤備え」で知られており、実際に博物館では甲冑を見ることができる。あわせて紙の資料では、具足の着用方法について詳細に図解されている。
また、井伊家では文化的活動が盛んに行われ、茶器や掛軸、遊具が現在にいたるまで大切に保存されている。中でも、能文化には力が入っており、博物館には能面のほか、実際に能が鑑賞できる舞台も整備されている。
耐震工事中の彦根城
ちょうど、私が訪れた時に彦根城は耐震工事を行っていた。
不易流行によると、2020年の段階で耐震に関して以下の問題を抱えていた。
世界遺産の観点でいうと、真正性が重要視される。修復工事をする際、伝統的な素材や工法を順守することが求められる。ただし、その素材や工法が技術的に誤っていた場合には近代的技術を用いることが可能である。実際に姫路城は「昭和の大修理」の際に鉄筋コンクリート製の基礎構造物に取り換えられた。
また、修復の興味深い例として百済歴史地域・益山の弥勒寺址石塔がある。韓国併合時代に石材の崩壊した部分をコンクリートで固め応急処置し、80年近く経ったこの遺跡は構造が不安定であることが指摘されていた。20年かけて補修工事を行い2019年に完了した。この遺跡の補修の手法として、コンクリートを取り除き、古い石材の81%を再利用し、残りをこの地で採取できる花崗岩で補う方法を採用した。2015年に世界遺産に登録され、2019年に補修工事を終えたこの構成遺産は真正性を維持した例として注目すべきものがある。
閑話休題、彦根城が耐震工事するにあたって、世界遺産登録をめざすからには真正性を意識した工事をアピールしているものかと思ったのだが、プレスリリースや各種ニュース媒体では特に明示されていなかった。
実際に中を見ると、鉄骨が組まれ、まるで撮影所のセットのような空気感が漂っていた。個人的に、どこまで真正性を意識しているのかを確認したかったのだが、特にわかるようなものもなく残念といった印象を受けた。
天守は想像以上に急な階段となっている。攻められたとしても、一気に最上階まで攻められないような工夫が凝らされているように思える。それにしても、あまりにも急なので高所恐怖症の人は降りる時に恐怖するだろう。私も狼狽えながら、一歩ずつ降りて行った。
最後に
実際に行ってみると、世界遺産との距離感がよくわかる。彦根市としては世界遺産登録に前向きであり、博物館は完全性を満たすように資料が揃っている印象を受けた。一方で、耐震工事に関しては具体的な修復方法について誰でもアクセスしやすいように情報開示した方が世界遺産登録に近づけるのではないかと思った。また、国際的に世界遺産が増えすぎてしまい、世界遺産の信頼性が低下している中で、彦根城を登録するには、やはりシュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷のように国宝5城で拡大登録していく方が現実的であるかなと感じたのであった。
いまのところ、佐渡金山、阿蘇、武家の古都・鎌倉とライバルが多いので、先は長いような気がする。
参考資料
・すべてがわかる世界遺産大事典<上>
・世界遺産の審査数、上限35件に削減 ユネスコ(日本経済新聞、2016/10/27)
・国宝5城で世界文化遺産登録へ 松本、犬山、松江市が「連携」も…「単独」の姫路、彦根市とは温度差(東京新聞、2021/11/26)
・彦根城天守 耐震補強工事へ(不易流行、2020/5/25)
・彦根城天守の耐震工事 2月〜3月と夏 一時的に公開停止へ(NHK、2024/1/10)
・韓国・益山の弥勒寺址石塔 20年にわたる補修工事終え完工(YONHAP NEWS AGENCY、2019/4/30)
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