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【ライブレポート】『BloodBagBrainBomb』マナコに押さえろよフィクション #ブバブボ

Zepp Haneda

2024年7月2日(火)Zepp HanedaにてVTuberピーナッツくんのワンマンライブ『BloodBagBrainBomb』が開催された。タイトルの意味は《輸血袋脳爆弾》。ピーナッツくんの滾る感情、観客の燃え上がる想いを血としてこの会場に置いていけよという意味だとか。さて『Walk Through the Stars』に引き続き、ライブに参加してきた。今回は、あえてアルバムの予習を最小限に抑えて行ったのだが、クリエイターとして新しい境地に達したピーナッツくんを目撃することとなる。「Yellow Big Header」にある《カメラに押さえろよフィクション》は我々に突き付けられたのだ。今回は、マナコに押さえたこのフィクションについてレポートしていく。

※ネタバレあり。文章の関係上、セトリが前後している箇所あり。


◾️アクセル全開、爆散する脳内世界

巨大なモニター、暗闇からブランコに乗ったピーナッツくんが現れる。3DCGのピーナッツくんが、ノイズの中でこれから冒険へと導くよと言わんげにこちらを見つめ、「Yellow Big Header」が始まる。モニターでは先日YouTubeにて公開されたMVが表示され、MARK Ⅱの着ぐるみ姿ピーナッツくんが躍る。翳りひとつないセルリアンブルーの陽光差し込むなか、未確認生命体(=フィクション)を現実のものにしようと東奔西走するピーナッツくん、コバルト田中、チャンチョ。冒険の門出を祝福するような傘下に、会場の熱気は高まる。その勢いで、エンジンをかけるように「DUNE!」「Squeeze」となだれ込み、ピーナッツくんが我々に語り掛ける。「血をここZepp Hanedaに置いていけ!おなかはすいたか?」と「グミ超うめぇ」に雪崩れ込む。ここで気づかされるであろう。『Walk Through the Stars』では既存のMVやYouTube動画をベースに背景がコーディネートされていたのだが、基本的に新規のクリエイティブで空間を盛り上げていることに。

中盤の「Gordon Kill the Thomas」では、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を彷彿とさせるクールなMVがあるのだが、それは使用せず、煙の中、巨大なキメラ機関車を提示し、Gordon,Gordon,Gordon,Gordonと皆でバイブスを上げるのである。

◾️世界の「主体」から抜けた時、不安の宙吊りに晒される

「Birthday Party」

ピーナッツくんは「パリピ孔明」におけるKABE太人に近い存在といえる。「ピーナッツくん」として彼自身の世界にいる時には自由自在に言葉の杖を操るのだが、一歩ゾーンから外れるとコミュ障ムーブをかます。そこに人間味が溢れ親近感が沸く。今回は、このゾーンの切り替えを巧みに使いこなしていた。

月ノ美兎さんとグダグダトークをするピーナッツくん

VTuberと活動する中で、コミュ強ぽんぽこさんに振り回される形で7年間、多くの女性VTuberとスリリングな会話を展開し、『Walk Through the Stars』では名取さなさんやおめがシスターズとそつなくライブトークをしていた印象があるのだが、委員長こと月ノ美兎さんと「Birthday Party」を歌った後のトークは、どこかよそよそしい振る舞いをする。動画では両者ともテクニカルトークをかますわけだが、間合いが分からず気まずい空気となるのだ。

ヤギ・ハイレグ&レオタード・ブタ

ただ、これは後の伏線であった。ヴァーチャルな姿としてモニターの中を自由自在に踊りつくしたピーナッツくん。暗転すると、ヤギ・ハイレグ&レオタード・ブタにバトンタッチする。

「Ghost Town」を歌い、トークとなるのだが、一心同体親友関係にもかかわらず2,500人以上が集まる空間にヤギ・ハイレグが狼狽し、「この前、イギリスにサッカー見に行ったよね(ピーナッツくんと行っており、レオタード・ブタとは行っていない)」と誤った発言をしてしまう。それに、グダグダな突っ込みを入れつつ、突然、彼を放置してレオタード・ブタは去って行ってしまう。これは「愛」だったのだ。VTuber界のディズニー・ピクサー、あるいはドリームワークスである兄ぽこは生み出したキャラクターを大切にする男。どんなに「ピーナッツくん」が大物になろうとも、積み上げてきた別の関係性を壊すことはしないのである。つまり、ヤギ・ハイレグに2,500人以上もの観客の前でソロを任せるのである。これには思わず涙をした。皮の中では自由になれるが、その外側では不自由。それを共有してきた友への恩を返す瞬間がそこにあったのである。これは言うまでもなく『BloodBagBrainBomb』最大の観どころであろう。

◾️熱かった楽曲

ピーナッツくん登場

ここからはいくつか楽曲にフォーカスして語っていきたい。

①Liminal Shit▶SuperChat

SF映画のように緑の交差、いくつかのモニターが提示する中披露される新曲「Liminal Shit」はピーナッツくんの内なる葛藤が吐露された楽曲である。ピーナッツくんは、「ワークソング」などを歌っていた時代の星野源に近く、ポップな音楽の中にヒリついた葛藤を忍ばせる傾向がある。「Liminal Shit」では、YouTuber界隈における企画パクリ問題にムカつきつつも、音楽創作は他人の曲の引用から免れられず結局「人の歌で稼ぐ数字じゃん」と結論付け、確かに国内最大級のヒップホップイベントPOPYOURSに参加しているけれど謙虚にならないといけないと自分に言い聞かせているような歌詞となっている。「SuperChat」では攻撃的なぐらい、YouTuber文化を批判していたのだが、そこからの成長をこの2曲連続で魅せる。「SuperChat」は今まで、後半に入る楽曲のイメージが強かったので印象深いセトリであった。

②Interne Mode

「Gordon Kill the Thomas」における機関車のガッタンゴットンといった音を「Gordon,Gordon」で表現しており、感心していたのだがもうひとつ着目する世界を音に置換した作品がある。それが「Internet Mode」であり、これは今回初めて聴いて感銘を受けた。インターネットにおけるデジタルな側面を、エレクトロの中でも離散的さを強調した音で描く。SNSの混沌を歌う本楽曲だが、ヒップホップとして面白い韻踏みを見出している。それが《インターネット》と《銀河鉄道》である。おそらく、《銀河鉄道》は「銀河鉄道999」のようなものを想定しているのだろう。旅の中で出会う、さまざまな人種に混沌、危険。それをインターネットにおける、ヴァーチャルな世界の広がりと結びつける。ここにユニークさを感じた。

③Dreamworks

「Dreamworks」

本公演においてもうひとつ「エモい」場面がある。それが新曲「Dreamworks」である。背景に、ぽんぽこチャンネルやピーナッツくん!オシャレになりたい!で生み出してきた無数の動画が並列に配置され、カメラは引いていくのだ。ピーナッツくんないしぽんぽこさんは混沌過激な配信者が少なくないVTuber界隈において、まさしく全年齢対象の《ドリームワークス》であり、アニメーション、そして世界観によってコンテンツを作り続けてきた。ブラック企業の時代からコンテンツを作り続けてきた、表にはでない孤独な戦いがリリックで語られ、その背には結果が提示される。あまりにも感傷的な瞬間で、ぽこピーを追いかけてきた人ほど泣ける場面ではないだろうか。

◾️ぽんぽこさんからのサプライズ

ぽんぽこさん登場
2万円する巨大クラッカーを発砲できず困惑するぽんぽこさん

アンコールで満を期してのぽんぽこさんが登場する。サプライズの鬼である彼女は、2万円するクラッカーを持ってきて盛り上げようとする。アクシデントもつきものな彼女、いざ撃とうとするのだが、持ち手からクラッカーを落とすわ、握力が足りずナードウィッチ小麦ちゃんに介抱されるわで注目をかっさらっていく。一気にライブが『BloodBagBrainBomb』から《ぽんぽこチャンネル》に変わるのである。

そして、サプライズはこれだけではない。この1年、動画を作りながらもこのライブのために楽曲を作ったり調整したりと大忙しだったピーナッツくんにルーレットで海外旅行をプレゼントすることになるのである。ピーナッツくんがポロリ「行きたい」と言っていた、ニューヨーク、クロアチア、香港、エジプトの中からルーレットで当たった場所に行く。動画は撮らなくて良い。実にぽんぽこさんらしいサプライズだ。ルーレットが回る。会場からは「エジプト、エジプト」と連呼される中、彼はニューヨークを引き当てるのである。ライブ中、水分補給の空気感から命削ってこのイベントを作っている、まさしく《輸血袋脳爆弾》な状態で駆け抜けていく、燃えて燃えて燃え尽きる夜を彩る花火のようなピーナッツくんの姿を突き付けられていただけに、良い休暇を送ってほしいと思ったのであった。

◾️最後に

1時間近くスタンドアップで待ち続けた甲斐があった

数週間前からずっと楽しみにし、当日もライブの数時間前から現地入りして首を長くして待っていたのだが、気が付けば終わっていた。X(旧:Twitter)で色んな人の滾る感情を摂取しながら翌日を迎え、この記事を書いた。数年前にVTuber文化と出会い、初めて行ったVTuberのライブがピーナッツくんだった。家族に布教し、妹が沼にはまり、彼女もまたピーナッツくんの世界を目の当たりにした。これからもピーナッツくん、もとい《ぽこピー》の疾風怒濤な活躍を応援したい所存である。


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