見出し画像

「故郷の味」が世界に飛び出した結果・・・

国は、令和12年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円とする目標を設定しました。

日本では消費が減少している「リンゴ」などは、中国では味色ともに評価が高く、高値で取引がされ始めたという報道を見たことがあります。

リンゴ農家としては、自分たちが作った商品が高評価で高く売れることは喜ばしいことです。

皆様は、「水なす」という茄子をご存じでしょうか?

私の生まれ育った大阪泉州地域で栽培されています。
室町時代の文献にも登場するほどの歴史があるようです。

皮が薄く、水分を10%以上も含み、灰汁も少ないため、生食できる大変美味しい茄子です。

子供の頃は、夏になると「水なす」の糠漬けをどの家庭でも作っていました。

包丁で切ると、その断面から黒くなるので、ヘタを切り落とし、十字に切れ目を入れて、その切れ目に指を入れて、割きます。

まずは、そのままを口に入れて、甘さとジューシーさを楽しみます。
私の好みは浅漬けで、まるでフルーツのようでした。
家人は古漬けの酸味の強いものの方が好みのようです。

お店で食べるものではなく、八百屋で安価で売られていた記憶があります。

皮が薄い為に、傷がつきやすく、色も悪くなりやすいという理由で、商品価値としては低かったようで、地元での消費がほとんどでした。

生産者達は、なんとか高く売りたい、地元だけでなく日本全国に販売したいという強い思いがあったと聞いています。

品種改良により、傷がつきづらい品種を生み出しました。
また、冷蔵輸送技術の進歩により、全国に出荷することが可能となりました。

余談ですが、入社1年目の夏に、おふくろが糠漬けをインスタントラーメンなどと一緒に宅配便で送ってきて、段ボール中で腐敗していたことがありました(苦笑)。

九州に赴任していた頃、行きつけの小料理屋さんに「水なすの刺身」と書かれた短冊が上がっているのを見て、誇らしげに思ったものです。

最近では、JETROの輸出プロジェクトにも「水なす」が加わっているようです。上海でテスト販売したところ、1個530円で完売したとのこと。

茄子1個が530円とは驚きの価格です。

これほど有名になり、高値で取引され生産者は誇りとやりがいをもって従事されているようで、農家にありがちな後継者問題もなくなりつつあるとのことです。

しかし、地元の八百屋での「水なす」の価格が高騰し、今となっては超高級品となっています。
日によっては入荷できないことがあるようです。

子供のころ、おやつのように一人で5個ぐらい食べいたものが、二人で1個感覚の価格にまで上がっています。
実家に連絡したところ、高すぎて、もう何年も食べていないとのことでした。

嬉しいことなのか悲しいことなのか…

需要と供給で、価格が決定する典型的なお話です。

ほんの少し前までは、「地産地消」が叫ばれていました。
今となっては、地元では高級すぎて居酒屋などでは絶対に使えない食材となっているようです。

今後、農産物の輸出が盛んになると、日本で生産されるものが、日本で消費されることなく、海外でのみ消費されるという摩訶不思議な現象が加速しそうな気がします。

日本で消費されなくなったものを輸出することで、産業が活発になるのは大変良いことです。その為に国も動いているのだと思います。

一方、国内販売よりも稼げるという理由で輸出を促進した結果、国内価格が高騰するという流れは、なんだか寂しい気がします。

世界を見れば、外貨獲得の為、このようなことが日常茶飯事的に起こっているのかもしれません。

キャッサバが、世界的にバイオプラスチック原料として注目され、国際価格が高騰しています。
ある国ではキャッサバは主食です。
主食を他の作物に変えてまで、輸出するような事態が起きようとしています。
外貨獲得の為といえ、自分たちの文化を売り渡して本当に幸せになれるのでしょうか…

また、ひとつ故郷の味が消えていきそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?