見出し画像

当ファームの農薬・化学肥料へのスタンス&そばの結実

 以前、そば栽培における農薬や化学肥料の要否について記事を投稿したことがありましたが、そういえば自分たちの考え方やスタンスを明確にしていなかったなと思い至る機会がありました。

 せっかくなので明文化しておこうと思います。あれこれ書き綴っているうちに長い文章となってしまいましたが、お読みくだされば幸いです。

■ テーマは西洋医学と東洋医学の融合

 一体何を言い出したのか、最後には伝わるように書いていこうと思います。ひとまず農薬・化学肥料の使用有無による栽培方法の分類を整理しておきます。

「慣行栽培」:病虫害の駆除・防除及び除草のために農薬を使用し、生育促進及び収量増加のために化学合成肥料を使用する栽培方法

「有機栽培」:化学合成肥料や農薬、遺伝子組換え技術を利用せず、環境への負荷をできるかぎり低減した方法で行われる栽培方法

「特別栽培」:その生産地域の慣行レベルと比較して、節減対象農薬を半分以下の使用回数で、かつ化学肥料の窒素成分量を半分以下にとどめて栽培する方法

 結論から申し上げますと、茶屋ファームでは特別栽培を方針としています。以下に、そばの植物としての特性を考え合わせながら、当ファームの栽培方針を細かくご説明していきます。

◇ そば栽培における農薬の要否

 そばは病気に強いので病気対策の農薬は必要ありません。

今月(令和6年9月)の写真です。

 上の写真の畑は除草剤を全く使っていませんが、そばが畑を完全に支配しています。初期成育がうまくいけば雑草を凌駕してスクスクと成長する上、そばの根っこからは他の植物の発育を阻害する物質が出ることもあって除草剤を使う必要もありません。

 懸念すべきは1点。ヨトウムシ(夜盗虫)です。文字通り夜行性です。昼間は土の中に潜み、夜になると出てきて葉を食べ尽くします。被害にあった植物はほとんど枯れてしまうため、こいつによる被害が確認されたら農薬を使用して対処する予定です。

 ヨトウムシは1匹あたり1,000個以上の卵を産み付けるので、大量に発生してしまいます。成長するにつれて活動範囲を広げていくので、放っておくと被害が限りなく拡大していきます。そうなると農薬を使わざるをえないと考えています。まさか夜中にしらみつぶしに駆除していくわけにはいきません。

『想像しただけで、げんなり』

 ありがたいことに、利賀村において「そばがヨトウムシにやられた。」という話はこれまで聞いたことがありません。結果として農薬を使わずに済んでいます。このまま無農薬を継続したいというのが切なる願いです。

◇ そば栽培における化学肥料の要否

 そばは痩せた土地でも育ちますが、収量を増やそうと思えば肥料は必要です。ただ当ファームでは化学肥料は使わないようにしています。理由のひとつは倒伏防止です。化学肥料が効いて伸びすぎてしまうと倒れやすくなってしまいます。

 そばの茎は細くてヒョロヒョロです。根っこの深さもせいぜい20cmなのにも関わらず、人の背丈くらいまで伸びることもあります。平時であっても「よく自分の身体を支えていられるな。」と不思議に思うことがあるくらいなのに、ましてや強風が吹こうものなら。

 施肥量をコントロールすればいい話ですが、土づくりと食味向上という理由からも化学肥料は使わないつもりでいます。と言っても化学肥料がダメだという話では決してありません。

 化学肥料は、任天堂の大人気ゲーム『マリオカート』におけるクッパみたいなもんです。最速だけど操作しづらい。効きすぎるが故に施肥量のさじ加減が難しくて。要するに当ファームの技術・経験の無さの話です。

◇ 化学肥料が土壌と食味に及ぼす影響

 土づくりと食味向上について、もう少しだけ掘り下げます。化学肥料の過度な使用は土壌の塩分濃度を上げ、根圏環境を悪化させる可能性があります。ついでに農薬についても言えば、土壌中の微生物や昆虫に悪影響を及ぼして土壌の質を下げる原因となります。

 食味に関しては、過剰な窒素肥料は野菜の甘みや香りを減少させることが知られています。あくまで過剰な場合です。そして素直に申し上げますと、そばにおいても同様なのか客観的なデータを持ち合わせてはいません。同じことが当てはまるのではないかという推測に基づきます。

◇ 小まとめ

 慣行栽培と有機栽培の関係は、西洋医学と東洋医学の関係に似ていると考えています。慣行栽培≒西洋医学、有機栽培≒東洋医学って感じです。

西洋医学:悪い部分を手術や薬で除去する事を治療としている。
東洋医学:自然治癒力を高める事や病気の予防が治療のメイン。

ざっくりと分類

 両者は「一方が優れていて、もう一方は劣っている。」というものではなく補完し合える関係にあると思っています。基本として東洋医学的に健康的な土づくりを行い、そばにはスクスクと育ってもらう。とにかく健康でいてもらうこと。

 それでも伝染・拡散してしまうような病虫害に遭えば、被害を最小限に抑えるために慣行栽培≒西洋医学による治療を施すつもりでいます。

 繰り返しになりますが、当ファームは現状では無農薬・無化学肥料でそばを栽培しています。ただ必要に応じて農薬を使う想定でいる以上、とても厳格な基準の有機JASの認定は目指さずに、特別栽培を方針としている状況です。

■ 消費者目線-美味しさと安心・安全-

 これまでは生産者目線で語ってきました。これから目線を切り替えます。

目線を切り替えているポーズ

 さきほどチラッと食味向上という言葉を使いました。やっぱり消費者としては美味しくて安心・安全なものを食べたいですよね。

 残留農薬を気にされる方は多いと思います。それでも必要とあらば迷わず農薬を使用するつもりでいるのは、基準がしっかりしているからです。農薬の残留基準は、人がその物質を一生毎日食べ続けても健康への悪影響がない量を元に定められています。1つの農薬を複数の農産物から取り込むことも想定されています。

 農薬の使用方法として例えば「最終散布日から45日空けないと収穫してはならない。」といった収穫前日数の規定があります。使用量、希釈倍率、使用回数も定められています。もしホームセンターへ行くことがありましたら、農薬のラベルを是非ご覧になってみてください。当ファームは『農薬は正しく使えば安全。』という見解です。

 生産者として当然ながら「安心して美味しく召し上がっていただきたい。」と考えています。とてもセンシティブな問題ですので、情報をしっかりとお伝えして信頼感を醸成していくことも大切にしていきたいです。

■ 経営者目線-コストと供給の安定性-

 まだ続きます。考えないといけないことは幾らでもあります。

向きを変えて、再び目線を切り替えるポーズ。

 日本は肥料の原料のほとんどを輸入に頼っています。そして世界の主たる原料生産国はロシアと中国なのですが、諸事情から安定供給が滞る懸念が生じてしまって肥料の国際相場が跳ね上がりました。一時、日本国内においても50~70%ほど肥料価格が高騰したのを覚えています。

 この記事では、価格は2期連続で下がったものの今後大幅に落ちる見込みは薄そうで、化学肥料の代わりに国内でまかなうことのできる堆肥の活用が重要となると指摘しています。農林水産省も食料の生産力向上と持続性の両立を目指した「みどりの食料システム戦略」で、化学肥料の使用量を50年までに30%削減する目標を掲げています。

 こういった流れもあり、当ファームでは化学肥料ではなく鶏ふんや緑肥を中心に施肥計画を立てようと考えています。零細規模なので、そこまで大げさに構える必要はないかもしれませんけどね。

■ そばが実をつけました。

播種から42日ほど経過

 話題が飛び過ぎて、混乱された方がいらっしゃるかもしれません。陳謝します。 

 育てているそばが、ついに結実しました。白くてフチが緑色ですね。これが熟すと黒い粒になります。高温のせいで実付きが悪くなるのではと心配していましたが、まずまずだと思います。

 別の記事にしてもよかったのですが、これまで書いてきた栽培方針で今年も結実まで辿り着けたことをお伝えしたかったので1つの記事にまとめました。

■ 最後に

 本稿を書くうえで参考にさせていただいたタカミハルカさんのマガジンとしおさいさんの記事のリンクを貼らせていただきます。興味・関心のある方はぜひお読みください。そして、おふたりの記事をご紹介していただき、本稿のきっかけを与えて下さったEijyoさんも本当にありがとうございました。

 さて、文字数が4,000字近くとなり、過去最長の長さとなりました。ここまで読んで下さった皆様も本当にありがとうございました。基本的には1,000字くらいに収めようと思っていますが、たまにこんなのもあります。これに懲りず今後もお付き合いくだされば幸いです。

おしまい。


 私ども茶屋ファームは富山県南砺市利賀村で主にソバの栽培をしている農業法人です。日頃の農作業や六次産業化の過程、そばを使った料理、蕎麦についての豆知識など色々と発信していこうと思っています。
 ご興味を持っていただけましたら「スキ」や「フォロー」もよろしくお願いします。「コメント」もお待ちしております。お気軽にどうぞ。
 X(twitter)もやっていますので、こちらも是非お願いします。⇒  https://twitter.com/chaya_farm
文中の画像は「ぱくたそ」さんのフリー画像を使用しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?