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ロギワンは絶対ブリュッセルにいる

Netflix韓国映画 ロ・ギワン 
My Name Is Loh Kiwan


ロギワンは絶対ブリュッセルにいる。

ブリュッセルに住んでいる間にこの映画に出会えればよかったと思う。
ブリュッセルらしいブリュッセルは映画の中で映ってなかった、というか、むしろロケ地どこか気づかないレベルだった。ブリュッセルで過ごした6ヶ月、いろいろなことを学び肌で感じた。ロギワンは決して空想上の物語ではなく彼と同じ状況で生きている人は数えられないだけで沢山いると思う。
彼はブリュッセルで難民申請が通らず、社会の底辺でもがき苦しみ、必死に生きているが、ブリュッセルでも同じような状況に生きている人はいる。

映画中でロギワンが職を得ていた食肉工場。市内からは離れていそうだったがブリュッセルにも有名な『屠殺場』がある。Abattoir(仏:屠殺場)という名だけを今は残す、巨大なフォーマルインフォーマルごちゃ混ぜ多様なマーケットだ。治安が悪いので行かないようになどと言われているが実際には、貴重品に気をつけさえすればブリュッセルでも有数の活気のあるスポットで、多様なカルチャーのあらゆるものを買えるとてもいい場所である。まるで国外に旅行に来た気分を味わえる。屠殺場の名残か、市場と周辺にはお肉丸ごと売っているブッチャーも多く存在する。インフォーマル、というのは市場のエリアに沿って外で道端に見たことのないものを広げて商売している人がいたり、フォーマルとインフォーマルの境目がうやむやに共存している。また地域の一大産業が中古車のアフリカの国々への輸出販売なのでそのビジネス柄インフォーマル、なレッテルを貼られやすい。そこでは、いわゆるベルギー人、白人やわたしのような見た目のアジア人はほとんど見ない。足を踏み入れた瞬間にアウェーさが感じられる。
そしてその市場を中心とする一体のエリアは統計的に経済所得が低く、治安が悪く、家賃が安く、国外出身の人が非常に多いエリアである。キャンプ、と呼ばれる難民の滞在場所も多く存在する。そこではドラッグ売買が大きな問題になっていて昼夜問わず普通に売買している。背が高くて英語を話すTHE白人な友達はフィールドワークで訪れた際、あまりにもその地域からはアウェーな見た目からドラッグ買いに来たと思われたのか、売人に実際に話しかけれたそう。
観光地から歩いていける距離のところに、ガイドブックには載らないこんな世界がある。 

留学生として正規のビザでベルギーに渡り、私は実際に難民キャンプを訪れたわけでも友達でロギワンのような生活をしている人がいるわけでは無いが、支援団体の人々や、その地域の人々と話し、たまたま授業の課題でどっぷりそのエリアに浸かることができて一応は氷山の一角を知れた気でいる。

そして、ベルギーに来た当初のロギワンの生活はとてもリアリティがあると思った。ブリュッセルでは瓶を集めるとお金に変えられるため、街中のビンのゴミ箱のところにとどまっている人がいたり、雨風が凌げるところであれば多様な場所で寝泊まりしている人を発見する。ロギワンが言っていた食べ物を集めに行くというマーケットは実際にはAbattoir もしくは南駅のマーケットであろう。北駅には大きなマーケットは存在しない。マーケットの終わりかけには売れ残りを安売りや無料で置いてくことは私も知っているしロギワンも必死のサバイバルの中で、最初は捨てられたカビの生えたパンで飢えを凌ぎながら生きるための術と情報を得ていったのであろう。

大きなスーパーの前には大体物乞いをしている人がいるし、メトロの駅には寝泊まりしている人を多く見かける。彼らが当たり前に存在しすぎて私の中で少しずつインビジブルになっていった。けれど、映画を見て改めて気づく。彼らをインビジブルとしてしまう私の特権性の恐ろしさと、こうして『普通』の生活をしている人からはインビジブルになってしまうパラレルな社会の恐ろしさ。


僕はこの国に住む権利ではなく出る権利が欲しい。

Privileged enoughなわたしと他のコースメイトたちはまさにこの出る権利を有してヨーロッパを回っている。ビザ自体はベルギーの学生ビザで、映画中で出てきたロギワンのと全く同じデザインのブリュッセルのレジデンスパーミットカードを持ちながら、ヨーロッパ他3カ国で学ぶ。

出る権利を持つものと持たざるもの違いはインビジブルだ。前述した、難民が多いエリアでフィールドワークの一環でインタビューを試みた際、フランス語英語を喋らない人が大勢のエリアで、ただの学生だと説明しても話も聞いてもらえず警戒心マックスで断られることが多かった。Police?と聞かれることもあった。
そんな中、一人インタビューに答えてくれた男性は、『自分はこの治安が悪いエリアから今すぐにでも出たい。でも、今の滞在許可では国外に行くことすらできないし妻子もいるからここにとどまるしか無い』と、難民としてブリュッセルに来たリアリティを語ってくれた。
こうして話をしなきゃ、難民か、じゃ無いかなんて全く分からない。みんな普通に生きているように見えるから。でも、実際にはこうした状態で生きている人はかなり多いのだと思う。

だから、ロギワンはいる、と思う。特定の、脱北して中国から身分を偽ってきたロギワンではなくロギワンのような暮らしをしている人はブリュッセルにいる、ということ。

あのソンジュンギがベルギーで撮影していた!?とミーハーな理由でみた映画だったけど、長時間フライトの途中で見たというのもあって余韻で沢山考える、良い映画だった。

ありがとうございます。