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制作進行は、一人旅をするな


#忘れられない旅

21歳から映像関係の仕事をしている私は、仕事でたくさんの場所を訪れました。ただ、一人旅は20年前に行った一度だけ。それが忘れられない旅です。

初めて就職してから5年勤めていた東京の小規模な映像制作会社で、私は制作進行兼ADを担当していました。主にイベントの展示映像や企業のプロモーション映像を制作する会社です。その会社は制作進行が人材不足な上、私が入社して2年目で先輩が事故で入院してしまい、経験値の低いまま、いきなり一人で全部やらなければいけない状況でした。ディレクターを目指していたので、ADも自ら進んで兼ねていたこともあり、ほとんど寝られないような多忙な毎日を過ごしていました。おかげで?5年ほどで企業のプロモーション映像をシナリオから演出、編集までできる能力がつきました。2000年代の映像クリエイターは、このタイプの若者が多かったと思います。といってもやはりその代償として、すごいストレスが溜まっていたので、自分のやりたい仕事をしたい!と思い、退社し、フリーとして独立しました。

独立後、自由になった私がまずやりたかったのが、一人旅。
自分のルーツを辿りたいと思いました。岐阜出身の私のルーツは、島根県と広島県にあり、父方の祖父母の住んでいた島根県江津市の家と、母方の祖母の実家である広島県呉市を4日間かけて旅する計画を立てました。

あこがれの一人旅。仕事で地方に行った際に、一人だったらあの名所に行ってみたい!など妄想を膨らませ続けた5年間のリベンジ旅行がついに実現する。あの美味しい料理を食べよう!地元で出会った女性といい感じになってしまうかも・・・その時、彼女はいましたが、夢は自由!とかとか・・・まぁ楽しみな思いだけがとても膨らんでいました。

そして一人旅の準備。青春18きっぷを利用して、電車のスケジュールを事前に検索。ホテルもベストな立地と予算を割り出し、1日でホテル予約もスケジュール制作も実行予算の計算も済ませました。それまで5年間で制作進行としても鍛えられていたおかげか、全ての準備はとてもスムーズに行えました。万が一電車に乗れなかった時のパターンも全て割り出しておき、リスクヘッジも完璧。18歳で上京するまでは電車の乗り方もいまいち分かっていなかった自分にとっては、自身の成長を非常に感じられました。

が、それが大きな間違いでした。

初日に予定通りに広島駅に着いて、予定通りに行くと決めていた原爆ドームを見て、予約していたお店の広島焼きを食べて、時間通りにホテルに戻り、翌日の呉への出発の時間を確認し、携帯とホテルのアラームをセットした時に気づきました。

これ仕事やん!

全て段取り通りにやってしまったのです。
5年間で得たものの代償は、雑な行動ができなくなってしまったことでした。根が臆病なタイプでもあるので、一人だと無茶できない・・・。

それに気づいてからは、なんとかハプニングを起こそう、東京に戻ったらネタになるような出来事を起こさないと・・・必死になっていました。その結果、夏の炎天下の中、あえて電車の予定を1本ずらして、島根の祖父母の墓を3時間磨いてみたり、鳥取砂丘でラクダに乗ってみたり・・・。あぁ一人旅って、こんなにも寂しいものなのか・・と実感せざるおえない状況に陥りました。

この旅の救いは、当時存命だった母方の祖母が、広島の故郷である呉市の写真を見て喜んでくれたこと。それだけです。おばあちゃん子の自分には、とても大きな喜びですが、新幹線と在来線でシンプルにいけたな・・という感情もあり、当時は複雑な心境でした。

いま思えば、島根県のいとこや、祖母の親族に挨拶に行ったり、バーに行って地元の人と仲良くなったりすればよかったのですが、当時の制作進行をやっていた自分の脳みそでは、人と会うと想定外の時間が発生する!という制作進行病にかかっており、予定を完遂して、旅そのものを楽しめなかったと反省しています。”旅”を理解できていなかったんでしょうね。おかげで今でも家族で温泉に行くのも、風呂に入るためになんで長距離を移動しなければいけないのか、と内心思いながら、笑顔で対応しています。仕事ですね。

映像業界で25年働く私から、制作進行をしている若い人たちに伝えたいことを下記に記します。

・旅の目的を決めるな
・予定を組むな
・ホテルを予約するな
・スマホを持っていくな
・なんだったら手ぶらでいけ
・金もぎりぎりか足りないくらいで良い
・地元の人と仲良くなれる場所を探せ
・一人で旅はするな

自分はそこまでではないですが、優秀な制作進行さんほど職業病で旅を楽しめない可能性があります。よく自分探しの旅という言葉を聞きますが、本当の楽しい一人旅は、自分どころか全部探すくらいのほうが、良いかもしれませんね。私の人生で最初で最後であろう一人旅は、ここにこのネタを書くための忘れられない旅だったのかもしれません。全国の制作進行さん、働きすぎに気をつけましょう。

それでも旅をしたいって人は、JTBさんのツアーを利用するのが良いかもですね。・・・これが職業病ですかね。

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