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【超短編】脱皮

元カノの方が痩せてたよ、と言われてダイエットを始めた。

心底腹が立った。
あえて自分からその話をする必要などなく、
その発言は徒に関係を悪くする悪手に違いなかった。

しかし、ボールは私の手に渡ってきてしまった。

少し大きくていびつなボールを
無視することも、捨てることも、
優しく投げ返すことも納得のいかなかった私は
何倍もの力で投げ返すことに決めた。

最初の何日間こそ私のダイエットに興味を持っていた彼は
一週間もすれば関心がなくなり、
一か月後には食事の際に付き合いが悪いと不満を口にした。

半年を過ぎたころ。

前に比べて随分と変わったと実感をしていた。

あんなにも敬遠していた友人の美容トークに
少しだけなら耳を貸してもいいと思えていた。

以前より少し疎遠になったダイエットの焚きつけ人と
食事をした。

また痩せた?

ね、ほらやっぱり、俺が言った通り。
痩せた方が綺麗になったね。

自慢げに語っている。

私はナイフとフォークを置いた。

ねえ、もうそういうのやめてくれる?

目の前の男性はきょとんとした。

なんでだよ。お互いにとっていい結果になったじゃないか。

だって、と言って私は席を立つ。

今の彼氏はそんなこと言わないもの。

さよなら、と告げて、私は店を後にした。

確かに良い結果になったわね。
…お互いに、かはわからないけれど。

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