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【南大沢土木構造物めぐり】No.8 大きな谷を一気に渡るダイナミックな歩道橋 ~南大沢であい橋~

南大沢の土木構造物を紹介し始めて8回目になります。紹介したいところは、まだまだ沢山あり、どれから紹介しようか悩むくらい、見所満載と個人的には思っています。新しくできた町なので、あまり古いものは多くありませんが、深い歴史を学べる場所も実は少なくありません、そういう構造物もまた改めて紹介します。

今回紹介するのは、南大沢駅から別所地区のほうに歩く遊歩道が、比較的開けた谷を一気に横断する、規模の大きな歩道橋です。地図で見ると、「南大沢であい橋」と記載されているので、この橋の名前がわかるのですが、現地にはどこにも記載されていないので、ぱっと見て名前がわからない橋でした。別所地区の尾根上には比較的沢山の集合住宅があり、そこから駅に向かう人たちが行き交う橋ですが、地元の人たちも恐らく橋の名前を知らずに通っているのではないでしょうか。ということで、その橋の魅力を再認識すべく、ここに紹介したいと思います。

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南大沢駅側から別所地区を見ます。こうして見ると、沢山のマンションが建ち並んでいます。この地区にたどりつくには、大きな谷を越えなければなりませんが、この橋を渡れば、谷の中腹をショートカットできるので、アップダウンが少なくて済むのです。谷底にも、比較的交通量の多い道路と住宅が建ち並んでいます。

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反対側の別所側から駅を望んだところ。大きなマンションの敷地も公開空地のようになっており、全体が公園のような場所です。いつも子供たちの歓声が絶えません。

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谷の下から眺めてみると、コンクリートの桁や、橋脚の端部に丸みを持たせたりしていて、意匠的に非常に凝ったつくりです。途中で道路下に降りる階段があり、複雑な交差部がありますが、こちらもかなり面白い形状をしています。

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交差部の収まり。橋脚に模様をつけ、交差する場所もずんぐりした形でなく、軽快な印象をうけるつくりになっています。

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どこから見てもユニークな形をしています。橋脚の模様もイチョウの葉の形のように見えます。

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交差する階段の柱は、らせん状に模様がついていて、非常にユニークです。コンクリートを打設するときの型枠をらせん状の鋼板を使って施工したのでしょうか。非常に趣向を凝らしたつくりになっており、印象的です。

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橋の上から。左右のイチョウのような形をした部分に、なぜか橋の名前が記載されていません。見落としたのかもしれませんが・・。地元の人たちにも知ってもらえるように、少しアピールしたほうがよいのではないでしょうか。

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【概要】
 ・名称 南大沢であい橋
(以下 銘板に記載内容)
 ・歩道橋 1994年10月
 ・住宅・都市整備公団
 ・上部工 道路橋示方書 Ⅰ・Ⅲ 1990年3月
  下部工 道路橋示方書 Ⅳ・Ⅴ 1990年3月
 ・5径間連続PCラーメン中空床版橋
 ・上部工 コンクリート σ'ck=400kgf/cm2 鉄筋SD295A
  下部工 コンクリート σ'ck=240kgf/cm2 鉄筋SD345
 ・製作 戸田建設株式会社

【技術的解説】
1)設計基準について
道路橋示方書とは、日本道路協会が発刊している、道路の橋を作るときの設計マニュアルのようなもので、これに基づけば、国土交通省の定める橋梁の技術基準を満足できる設計が可能となります。この示方書は、
 Ⅰ 共通編
 Ⅱ 鋼橋編
 Ⅲ コンクリート橋編
 Ⅳ 下部構造編
 Ⅴ 耐震設計編
に分かれています。年を追うごとに設計の考え方が変わってきているので、銘板に何年版かを記載することは、とても重要な記録です。ちなみにこの橋は1990年の基準に基づいていますが、1995年に阪神・淡路大震災が発生し、多数の橋が損壊したため、設計基準がその後見直されています。その後もあたらしい設計手法が順次導入されています。それで、この橋が現在の設計基準を満足しているかをチェックすると、耐震基準を満足しない橋がでてきます。そういった場合、耐震補強工事が行われることがあるのです。全国の高速道路などを中心に行われている耐震補強工事は、こういった古い耐震基準で設計された橋を最新の基準に満足できるように補強するという作業になります。

2)5径間連続PCラーメン中空床版橋とは?
「5径間連続」というのは、この橋にある途中の4か所の橋脚のところで、上部の橋げたの構造が途切れ途切れになっていないで、連続しているということ。「単純けた」という、橋脚と橋脚の間に一つの桁で構造が途切れたほうが構造計算が簡単ですが、連続させることで、橋桁をスリム化させることができます。
「PC」とは、プレストレストコンクリートの略で、コンクリートの中に鋼棒を入れ、それに緊張力を与えることで、コンクリートに圧縮力を与え、壊れにくくする工法です。PCにすることで、コンクリートの橋でも長いスパンを飛ばした橋が架けることができます。
「ラーメン」とは、橋桁と橋脚が別々ではなく、一つの構造としてくっついた構造で、よく鉄道の高架橋などに見られます。こうすることで、剛性を高めて強い橋を作ることができます。
「中空床版橋」とは、橋桁の中に空洞がある橋で、比較的規模の大きな橋桁を効率的に作ることができる構造です。

3)コンクリート強度
コンクリートの強度は、高いと強い構造物が作れますが、強度の高いコンクリートを現場で打ち込むことは非常に難しく、通常現場では18~30N/mm2(現在はSI単位系で記載しますが、銘板の記載されたころは180~300kgf/cm2と表記していました。)のコンクリートが使われます。下部工はそんなにスリムにしなくても設計上問題ないため、経済性を考慮して通常のコンクリートを用い、上部工はスリムにしたいために、40N/mm2(400kgf/cm2)の高強度コンクリートを用いたといえます。

このように、銘板に情報が残っていると、設計的な背景や設計で工夫したことなどが連想することができ、非常に楽しい構造物めぐりになると思います。この橋には、意匠的にだけでなく、構造的にもスリムに、経済的に、強く構造物をつくる工夫が多数詰まっており、土木屋さんにとってとても勉強になるものと思います。橋を眺める際には、たまに銘板を探して情報を見てみるのも楽しいと思います。

【アクセス】 南大沢駅から徒歩約10分









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