映画『i ─新聞記者ドキュメント─』
※2020年1月9日にCharlieInTheFogで公開した記事(元リンク)を転載したものです。
東京新聞記者・望月衣塑子の著書に着想を得た、河村光庸企画作。藤井道人監督『新聞記者』も河村の企画であり、フィクションとドキュメンタリー両方を作る構想がもともとあったという。フィクションも森が撮るつもりだったが、諸事情で降板しドキュメンタリーを撮ることになったという。
で、それでいうとフィクションのほうは本当に駄作だった。リアリティーの全き欠如、「プライベートを犠牲にして巨悪に立ち向かう」という陳腐な構図で、時代錯誤的ジェンダー観も随所にみられるだけでなく、サスペンスエンタメとしても支離滅裂というものだった。
ドキュメンタリーのほうはさすがに監督は森達也だし面白く出来上がるだろう、と思ったが期待外れだった。そりゃ散々な出来のフィクションに比べればマシだが、印象に残ったのは取材中、つまんなそうにしている森本人であった。
海外メディアの日本特派員らと望月が意見を交わす場面。森も加わるのだが、「なぜ望月さんを撮っているのか分からなくなる」と漏らす。疑問に思ったことを直接尋ねるという記者として当然の行為をしているだけの望月が、なぜ注目されるのか、社会のほうがおかしいんじゃないか、という趣旨での発言だったが、私にとっては、なぜ今、森が望月を題材にドキュメンタリーを作る理由が分からないことをも象徴する発言のように聴こえた。
望月は既に、ある層から絶対的な支持を受けた正義の人である。実際映画の中でも、取材に訪ねた沖縄や国会前のデモ参加者から歓声を浴びる様子が出てくる。確かに劇中では望月への英雄視を揶揄するシーンもなくはないが、ごく一部だった。スター記者を今更撮って、英雄的に扱うことを森がしなければならなかったのだろうか、僕には最後まで分からなかった。