映画『愛なのに』
※2022年3月7日にCharlieInTheFogで公開した記事(元リンク)を転載したものです。
城定秀夫と今泉力哉が脚本と監督を入れ替えてR15+の恋愛映画を作るプログラムピクチャーシリーズ「L/R15」の1作目。監督は城定秀夫、脚本は今泉力哉がメインで一応、城定秀夫との共同クレジットとなっている。
古本屋で働く主人公の多田(瀬戸康史)と、多田に求婚する女子高校生の岬(河合優実)という設定は『街の上で』のセルフオマージュのようで、まさに今泉力哉ワールドだが、城定秀夫の演出によって映画は全体的に小気味よいテンポで進んでいくのが不思議な感じがする。素晴らしいマリアージュになっている。
『街の上で』の荒川青、『愛がなんだ』の仲原は、心優しい青年ではあったが、他者から向けられる欲望を避けている印象がある。どこか、自分の世界と他人の世界とは別であって、別であることを維持しようとする向きがあった。だから彼らは自分をイノセンスな状態に保ちながら、相手もイノセンスに漂白してしまう。相手を、欲望ある人間としては受け入れていない感じがするのだ。
その点、本作の多田は、一花(さとうほなみ)の異常な依頼に、自らの真摯な矜持を守るか守らないかのギリギリの線上を歩きながら応えている。荒川、仲原と共通する雰囲気をまとわせながらにして、彼らとの決定的な違いもまた見せる多田という役を、瀬戸康史が演じ切っているのが見事だ。
そしてやはり本作で推したいのは、亮介役の中島歩である。『偶然と想像』の名演が記憶に新しいが、本作では人間としての嫌らしさとチャーミングさが絶妙なバランスで表現されており、コメディーリリーフとして光っていた。
また濡れ場の描き分けはさすがピンク映画を多数手掛けてきた城定秀夫、お手の物である。亮介と美樹(向里祐香)のそれは、見ていてもどうも欲情に欠けるのに対して、多田と一花のそれはきっちり魅力的である。しかし普通はその違いの理由を愛情の有無とかで説明する物語が多いのに対して、本作はあまりに身も蓋もないのが、面白くもあり悲しくもあって本作を素晴らしくしている。
後半、少し中だるみする部分もあり、多田宅へのある訪問者のシーンは蛇足では…?とも思ったが、総合的には楽しくて面白い作品だった。
ちなみにパンフレットが高めの1,200円だが、森直人司会の城定・今泉対談、首藤凛のレビュー、大橋裕之の漫画、シナリオ採録と、中身が充実しているので買う値打ちは十分あるだろう。
(2022年3月6日、テアトル梅田で鑑賞)