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『きみの鳥はうたえる』in 出町座「三宅唱監督特集2023」

※2023年5月14日にCharlieInTheFogで公開した記事(元リンク)を転載したものです。


 平日の夜、仕事終わりにU-NEXTでなんとなく飲みながら見始めて大当たりで、あまりに素晴らしくて散歩しに出たほど好きな作品です。これをスクリーンで見たい!という願望がすぐ叶ってしまいました。ゴールデンウィークに、京都・出町座の「三宅唱監督特集2023」で上映がありました(本作の上映は終了。特集は5月25日まで開催)。

 男女の三角関係だけども、妬み嫉みは表出されず、ただ自らが当事者であるということ自体をどこか受け入れきっていない「僕」(柄本佑)と静雄(染谷将太)。「遊んだり飲んだりして何が悪いの?」と世捨て人のようなことを言う割には、人と人との関係にはちゃんと区切りをつけて当事者たらんとする佐知子(石橋静河)。

 相矛盾する3人が、モラトリアムの中では同じ場所に心地よく居続けられるのに、そんな時間は続いてはくれません。その終焉を、佐藤泰志の原作小説では極めて厳しい事件によって引き起こすところ、映画では(厳しいことには違いないものの)決定的な悲劇による発生を避けます。

 この作劇上の変更は、人によっては拒否感を持つかもしれませんが、私は両方好きです。あえて言えば、ある種の不可抗力によって「僕」が“3人でのモラトリアム”を終了させられてしまうのではない終わり方を選んだ映画上の結末が、特集の他の作品を見るに連れて「三宅唱らしいなあ」と感じました。『やくたたず』にせよ『ケイコ』にせよ『Playback』にせよ、結末の爽やかさが、主人公の選択の結果として生まれているところに、監督の個性があるように感じるのです。

 さて、最も好きなシーンは、原作にはないカラオケのシーンです。佐知子が歌う傍らの静雄に映る人工的な光の演出は、言うまでもなく抜き差しならない時間の始まりを示唆します。このシーンは映画館のスクリーンで見るべきもの! これ目当てで出町座に通ったようなものです。

(2018年/106分)

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