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スコッチ業界の盟主によるリブランディング 『ベンローマック蒸溜所』

■ベンローマック蒸溜所のある場所は?

ウイスキーの聖地スコットランドでも、特に蒸溜所が密集するスペイサイドという地域にある蒸溜所です。

スペイサイドは、マッカランやグレンフィディックに代表されるような「華やかな酒質」であることが多いです。(もちろん例外もありますが)

ちなみに、スペイサイドとは「スペイ川のほとり」という意味です。

かつてウイスキーへの課税を逃れるため、人里離れた山あいの渓谷の中のスペイ川のほとりで、ウイスキーを密造したことがはじまりと言われています。

・山あいなので徴税官が来ても逃げやすい!

・綺麗な水が豊富になって、美味しいウイスキーとつくることができた! (密造ウイスキーではありますが)

こういった理由から、ここに蒸溜所が集中するようになり、「スペイサイド」という一つの生産地区分となりました。

そしてこのスペイサイドという生産地も、通常は8つの地区に分けて語られることが多いです。

この8つの地区では、「ダフタウン地区=グレンフィディックがある」、「リベット地区=グレンシベットがある」あたりがとても有名です。

その8つの中で、ベンローマック蒸溜所は、スペイサイド地区の西端の「フォレス地区」にあります。


■フォレス地区

フォレスは、歴史的にも古くから「街」として存在していて、2000年前にローマ人がつくったブリテン島の地図にも載っているそうです。 
すごい歴史!

現在、フォレス地区で稼働しているのは「ベンローマック蒸溜所のみ」となります。

ただ、建屋が残っている閉鎖蒸溜所で、ダラスドゥー蒸溜所があり、そこは今、蒸溜所博物館になっています。

なかなか見ごたえがあるそうなので、是非とも行ってみたいものです!

自由気ままに見学できる蒸留所【ダラスデュー/DALLASDHU】へ#60①|ヒデイシ/ Don’t tell Mama (note.com)


■ベンローマック蒸溜所を経営するのは、あの有名な・・・

ベンローマック蒸溜所は、19世紀のスコッチウイスキーの全盛期である、1898年に創設されました。
この1898年から1899年にかけて、スコッチウイスキー業界を数十年に及ぶ大不況に陥れた「パティソン事件」が起こります。

パティソン事件については、以前に記事化しています。

【ついにバブル崩壊】パティソン兄弟の2つの過ち《パティソン事件:③》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

この19世紀のスコッチ不況を受けて、ベンローマック蒸溜所の経営者は幾度となく交代しました。
その後、20世紀のスコッチ不況が到来した1983年に、当時のオーナーだったDCL(今の世界最大手スピリッツメーカーであるディアジオ社の前身)が閉鎖を決定しました。

そして、閉鎖の10年後の1993年にそのベンローマック蒸溜所を購入する企業が現れます!

スコッチウイスキー業界で、絶大なる力と歴史を持つ、ゴードン&マクファイル社(GM社)です!!

GM社について説明しだすと、それだけで10話でも足りなくなるので、要点だけを超短くご説明します。


■ゴードン&マクファイル社とは?

◇ゴードン&マクファイル社

1895年にスペイサイドのエルギンで創業した高級食料品店をスタートとする、スコッチウイスキーの超有名ボトラー

このリリー・フランキーの動画を見ると、GM社の雰囲気というか凄さというかがわかりますよ ↓

『PILGRIMS 行きたかったあの場所へ リリー・フランキー、スペイサイド編』撮影日記 DAY4 | GQ JAPAN


ボトラーとは、自分でウイスキー原酒を蒸溜するのではなく、蒸溜所から原酒を買いつけて、独自に熟成・ブレンド・瓶詰して販売する業者のことです。

スコッチウイスキーが「農民が余剰穀物からつくったお酒」から、「専門蒸溜業者が蒸溜するお酒」になり、それが市場経済に流通する過程で、蒸溜業者だけでは資金力や販路開拓が弱いため、なかなかウイスキー原酒を現金化できませんでした。

そこで、街の食料雑貨店に端を発する『ボトラー』という「専門蒸溜業者から原酒を買いつける役割の会社」が、自然と誕生したのです。

そのボトラーにおいて、歴史と、圧倒的な各蒸溜所とのコネクションを持っているのが、ゴードン&マクファイル社なのです。

そして、そのGM社が、ついに自社でのウイスキーづくりに参入したのです!!


■GM社の買収後

GM社は、1993年に蒸溜所を買収すると、5年の歳月をかけて丁寧にリニューアル。

1898年創業したベンローマック蒸溜所は、そのちょうど100年後の1998年にGM社のもとで生産を再開しました。

もともとGM社は、原酒づくりこそしていないものの、原酒を買いつけて、熟成・ブレンド。
秀逸なコンセプトのもと、素晴らしい商品を世に送り出していました。

そういう意味では、極めてマーケットイン思考の強い会社と言えるかも知れません。

シングルモルトウイスキーを
流行らせたのはGM社だ!

という人もいます。

このGM社が率いるベンローマック蒸溜所が、面白い商品を世に送り出さないわけがないですよね?


■やっと本題

で、やっと本題です。
このベンローマックのシングルモルトは、近年、ボトルデザインを一新しました。

◇旧デザイン(ベンローマック10年)

手書き風の文字が、カジュアルさを感じさせますね!?

◇新デザイン(ベンローマック10年)

写真は、以下の「ウイスキーを知る」にサイトから引用しています。
ベンロマックの種類や味わい・おすすめの飲み方などを徹底解説 | ウイスキーを知る (whisky-shiru.com)

見た目=イメージが、大きく変わりましたよね?

BARのバックバーにあっても、知らなきゃ同じ中身のボトルとは気がつかないことでしょう。

旧デザイン = カジュアル。現代風。
新デザイン = オーセンティック。古風。

このベンローマックですが、世界的なウイスキーブームということもありますが、新デザインになってからの方が、目にする機会が増えた気がします。

そのため(販売数量まで調べられていませんが)、基本的にはこのブランドイメージの変更は成功しているのだと、思っています。

このデザイン変更については、以下のような戦略なのかな?と思っています。

まずは、
ウイスキー業界の革命児として、オーセンティックなデザインとは一線を画したカジュアルなデザインで新規参入!

その後、
ある程度の認知が得られたところで、逆に「本物感」「歴史ある風格」を演出し、長く続くブランドとするため、敢えて古風なデザインへ変更する。

ゴードン&マクファイル社、さすがです!


■引き続き

次回もウイスキー業界のリブランディングの事例をご紹介したいと思います!

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