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英国/チャールズ国王をも魅了する『ラフロイグ』

■アイラ島のキルダルトン3兄弟

アイラ島・南岸のラフロイグ(1815年創業)・ラガヴーリン(1816年創業)・アードベッグ(1815年創業)は、それが立地する教区の名前から「キルダルトン3兄弟」と呼ばれる人気銘柄です。

このキルダルトン3兄弟は、強烈なスモーキーフレーバー、それも磯の香りのする独特なフレーバーが、ウイスキー愛好家を魅了して止みません。

今回はその中でも

You either love it or hate it.
好きになるか、嫌いになるのかどちらか。

のキャッチコピーで有名なラフロイグのお話です。


■ラフロイグ蒸溜所のはじまり

ラフロイグ蒸溜所は、牛を飼いつつ小作農として働いていたドナルドとアレクサンダーのジョンストン兄弟が、余剰となった大麦から「ウイスキー」をつくりはじめたことに始まります。
1810年頃のお話です。

このあたりは、日本で米農家が余剰となった米から「どぶろく」をつくりはじめた流れと一緒ですね。

ジョンストン兄弟は、牛のエサとして大麦をつくっていたのです。でも、

副業ではじめた
ウイスキーの方が儲かるんじゃね!?

という話になり、1815年からウイスキー専業へと仕事を切り替えました。
この1815年がラフロイグ蒸溜所の創業年となります。

1836年には、2人の共同経営からドナルドの単独経営となります。
そのため創業者であるドナルドの名前は、今もラフロイグのラベルに「D(Donald). Johnston」として記されています。


■中興の祖イアン・ハンター

その後、一族内で何度か経営者が変わり、1908年にイアン・ハンターが経営を引き継ぎます。

当時、少し勢いを失っていたラフロイグ蒸溜所は、隣りのラガヴーリン蒸溜所のピーター・マッキー(ブレンディッド・スコッチのホワイトホースの生みの親)と、ラフロイグの販売代理店契約を結んでいました。

しかし、イアン・ハンターが経営に参画するとその契約を解消して、再び自社での販売ルートに戻します。

これには、ピーター・マッキーが激怒りして、

・ラフロイグ蒸溜所の水路を岩でふさいでみたり

・ラガヴーリン蒸溜所内にモルトミル蒸溜所という、ラフロイグ蒸溜所の完コピ蒸溜所をつくって、スタッフをラフロイグ蒸溜所から引き抜いて、ラフロイグを潰してやろうしたり

無茶苦茶したことは、以前に記事にしています。

ピーターさん、それはNGです! 《ピーター・マッキー:後編》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

一方で販売権を取り戻したイアン・ハンターさんは、アメリカ禁酒法の時代に

このラフロイグってウイスキーは、
正露丸っぱくムチャクチャ臭いでしょ?

もはやウイスキーというより
なんですよー!

と、禁酒法下のアメリカへラフロイグ輸出を成功させるやり手でした。

これも以前に記事にしています。
アーリータイムズ 発売から禁酒法まで《アーリー②》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)


■スコッチ業界初の女性経営者ベッシー・ウィリアムソン

中興の祖イアン・ハンターさんからラフロイグの経営を引き継いだのは、スコッチ業界初の女性経営者ベッシー・ウィリアムソンです。
(ベッシーさんについては、いつか別途で記事化したいと思います)

ベッシーさんに経営が移った時点で、創業家一族から経営権が離れたことになります。
そして、ベッシーさんはラフロイグ蒸溜所の将来を考え、いわゆる大手メーカーに株式を売却し、ラフロイグもついに大手メーカーの傘下に入ることになりました。

その後、大手メーカーの再編の中で、ラフロイグ蒸溜所の親会社もコロコロ変わり、2005年にジムビームが買収。
そのジムビームを、2014年にサントリーが買収したことで、現在はサントリーグループが所有する蒸溜所となっています。

以上のラフロイグ蒸溜所の沿革はこちらに詳しいです ↓
稲富博士のスコッチノート 第123章 アイラ島蒸溜所総巡り−7.ラフロイグ蒸溜所 (ballantines.ne.jp)


■ラフロイグ凄いぞポイント①

アイラ島のシングルモルトで販売量1位!

ラフロイグはこれだけ正露丸クサいのに、アイラ島のシングルモルトとして、売上No.1を誇ります。
また、ポットスチルの数は7基とアイラ島の蒸溜所で最多です。

ただ、モルトウイスキーの生産量としては、ポットスチル6基のカリラ蒸溜所がアイラ島最大(年間650万L)となります。(ラフロイグの生産量は2位ですが、そのラフロイグのおよそ倍の生産量です)

カリラはシングルモルトとしても販売されますがその数量は全体としてはごく僅かで、世界No.1売上ブレンディッド・ウイスキー「ジョニー・ウォーカー」の原酒などに使われています。


■ラフロイグ凄いぞポイント②

今もフロア・モルティングを行っている!

フロア・モルティングとは、製麦する時の発芽工程において、湿った大麦を、人力で木のシャベルを使って「鋤き返す」という古来の製法です。

この作業は人力ではムチャクチャ大変なので、現在の製麦作業では、ほとんどが人力でない方法(例えばドラム式)に置き換わっています。

ただ人力で行うことで、「セレンディピティ的」に秀逸な麦芽ができあがったりすることもあるので、今一度、フロア・モルティングにチャレンジする蒸溜所が増えています。

ちょっと前までは、スコットランドでは5蒸溜所くらいしかフロア・モルティングをしている蒸溜所は残っていませんでしたが、ラフロイグはその中の1つです。


■ラフロイグ凄いぞポイント③

シングルモルトウイスキーとして初にして唯一の
王室御用達許可証(ロイヤルワラント)を、
当時のチャールズ皇太子からもらっている!

ラフロイグのキャッピコピー「好きになるか、嫌いになるのかどちらか。」で、好きになってしまった人のひとりが英国のチャールズ国王です。

チャールズ国王は皇太子時代に、ラフロイグ蒸溜所へ「1994年/2008年/2015年」の3回にわたって訪問しています。
その最初の1994年訪問時に王室御用達許可証(ロイヤルワラント)を下賜されているのです!

そのため、ラフロイグのラベルや、ラフロイグ蒸溜所の壁には、チャールズ皇太子の紋章=「プリンス・オブ・ウェールズの紋章」が掲げられています。(ダチョウの羽を3本あしらった紋章で、別名“平和の楯”とも呼ばれます)

下記のラフロイグHPから引用

ラフロイグ蒸溜所 ラフロイグ サントリー (suntory.co.jp)

皇太子時代には、チャールズ国王自らラフロイグ蒸溜所に買い付け行き、ボトルを1,000本もオーダーされたことがあるそうです!(飲み過ぎ?)

またラフロイグに新商品ができると、必ずご試飲いただくことが慣例となっていたそうです。(羨ましい!)


■サントリー・チーフブレンダーも魅了したラフロイグ

サントリーの前チーフブレンダー輿水精一さんは、NHKのプロフェッショナルで特集されてこともありますので、ご存じの方も多いと思います。

輿水さんがBARに行き、1杯目にオーダーするのが、「ラフロイグのソーダ割り=ハイボール」なのだそうです!

チャールズ国王や、一流ブレンダーの輿水さん、そして世界のウイスキー愛好家を魅了するラフロイグ。

書いていたら無性に飲みたくなって来たので、私も今夜はラフロイグのハイボールを楽しみたいと思います!


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