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《容器戦争》 ビール業界の本末転倒な競争

■中身品質が重要なのはもちろん

前回まで数話に渡って、「酒類と容器」についてご紹介しました。

その中で、

・中身品質の追求
・商品が売れるためのマーケティング
 → その一つの手法が容器開発

この2つのバランスが重要であるとお話ししました。

そして、そのマーケティングの手段としての容器開発の革命的な事例として、以下を挙げました。

・ティーチャーズの開発したコルクキャップ
・ホワイトホースの開発したスクリューキャップ
・大関の開発したワンカップ大関

【ウイスキー】 今に繋がる容器進化の事例!|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

容器革命を巻き起こしたワンカップ大関|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

今回は、ビール会社の容器開発のお話です。


■すでに定番!? アサヒ・ジョッキ缶

直近では、アサヒビールから発売された「ジョッキ缶」が、身近な容器革命の事例だと思います。

なぜ売れた? “スーパードライ生ジョッキ缶”誕生秘話に学ぶインサイトの見つけ方 | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2022 Summer | Web担当者Forum (impress.co.jp)

で、話は逸れますが、先日、新聞でこんなのを見かけました。

◇缶ビールの上蓋をパカッと開けるオープナー

DAVI HPより引用

DAVI Can Opener

これ凄い! すべての缶飲料がジョッキ缶状態!!
アイデアマンっているものですね~。

ただ、アサヒ・ジョッキ缶の方は、ただ上蓋を開ける(フルオープンにする)だけでなく、缶の工夫によって開栓時に「独特の泡が発生」することで、より「ジョッキで飲むビール感」に近づけている点が、一歩進んでいます。

「上蓋を開ける」という機能的価値でなく、「居酒屋で飲んでいる」ような情緒的価値が、顧客満足に繋がり評価されていると思いますので、

このオープナーを買えば、ジョッキ缶要らず!

とはならないのではないでしょうか?

でもあのフルオープンできるオープナー、ビール以外にも何か需要がありそうな気がしますね。
今後の活躍に期待です!


■《ビール業界》1970年代・・・

当時は、キリンラガーでビール業界の過半のシェアを獲得したキリンビールが、ビール業界において独走状態!

1987年に、アサヒ・スーパードライが発売されるまで、なかなかこの勢いを止めることはできませんでした。

もちろん、ビール各社はあの手この手で、王者キリンへ挑みました。

代表的なもので言うと「熱処理されたキリンラガービール」に対抗するため、他3社は「熱処理されていない生ビール」という切り口で戦いを挑みます。

1967年 サントリー純生 発売
1968年 アサヒ本生 発売
1977年 サッポロびん生(今の黒ラベル)発売

「ラガー」という土俵ではなく、戦いの土俵を「生ビール」へと変え、

『ラガー vs 生』で戦う戦法

でしたが、当時のキリンラガーの勢いを止めるまでで至りませんでした。

(ただ、現在、日本で流通するビールのほとんどは、熱処理されていない生ビールなので、根本的な戦略としては間違っていなかったのだとは思いますが。)


一方でこのころ、缶ビールも流通量が増え、

ビール=瓶ビール

の概念が変わりつつありました。
(当時から、樽詰のビールもありましたが、瓶ビールの飲用シーンがまだまだ多かった時代です。)

そして、「瓶ビールに代わる新しい容器」が開発・投入されるようになります。

この新しい容器は、その「真新しさ」「物珍しさ」から、一時的に売上を上げることができました。

そうなると、ビール各社が容器の「奇抜さ」「かわいらしさ※1」を競うようになり、ビールの中身品質とは違う次元の「容器開発合戦」がはじまったのです。

これを『容器戦争』と呼びます。

※1 現在は、適正飲酒・20歳未満の飲食禁止の観点から「子供も喜ぶようなかわいらしさ」をお酒で演出することはNGとなっています。


■ビール「容器戦争」の事例

(以下の写真は、以下の日本ビアジャーナリスト協会HP [コラム]2021.3.26 より引用しています。)

泡の出る缶ビールが登場。第二次容器戦争は勃発するのか!? | 日本ビアジャーナリスト協会 (jbja.jp)

アサヒビール:生ちょうちん


キリンビール:ビヤシャトル


サッポロビール:(左)竹取物語、
(右)√1/2(ルート2分の1)


サッポロビール:生ロボ

なんとなーく、スターウォーズにでてくるロボットに似ているような・・・


サントリー:(左)こまる、
(中央)にっこり、(右)まる生

当時、松田聖子がさんがCMソング※2を歌って、ヒットしたこのペンギンマークのビールは、「子供からもかわいいと思えてしまう」デザインですから、今では完全にNGですね。。

※2 松田聖子が歌っているCMのYouTube
https://youtu.be/-4ZpyTfhfKY


この容器戦争は
新しい付加価値(便利とか)を与える
とか、
普遍的な情緒的価値に訴えた
わけでなく、ただ『奇をてらった容器の新規投入』だったので、世論からの本末転倒の批判を受けて、やがて沈静化します。

そりゃそうですね。


■中身品質とマーケティングの両立

その後、ビールメーカー各社は、「中身品質とマーケティングのバランス」において、本来の「中身品質の追求」のウエイトを大きくして、今へと繋がる画期的な商品が開発されていくこととなります。

・アサヒ スーパードライ
・キリン 一番搾り
・サントリー ホップス(発泡酒の第1号)
・サントリー ザ・プレミアムモルツ
・サッポロ ドラフトワン(新ジャンルの第1号)
  などなど

このように、もはや『執念』とも呼ぶことのできる「中身品質への飽くなき追求」が、画期的な商品を生み出したのだと思います!


■奇をてらったものは長続きしない一方で

ロケットや、竹や、ロボットや、ペンギンなど、「奇をてらった商品」は、長続きしなかったのですが、リブランド(ブランドの再構築)によって、商品や企業の根本的な価値観を変えることで成功している事例があります。

そのリブランドの事例を、ウイスキー業界から紹介したいと思います。
次回は、やっとウイスキーのお話に戻ります!!

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