見出し画像

ウイスキー/アイルランド起源説 『蒸溜技術』と『ビール』の起源《歴史の授業②》

■ウイスキーの発祥を探る旅

前回からの続きです!

◇ウイスキー:スコットランド発祥説
 《2つの根拠》

①大麦の蒸溜酒製造について、最古の『文献記録』が残っている。

②琥珀色へ『木樽熟成』させる工程を発見したのはスコッチの密造者。

◇ウイスキー:アイルランド発祥説
 《2つの根拠》

①1172年前後のイングランド兵の「アクアヴィタ(ラテン語:蒸溜酒)」と「オスケバウ(ゲール語:蒸溜酒)」が飲まれていましたよ!の報告
 《疑念1》原典が不明
 《疑念2》蒸溜酒の原材料が不明

②歴史の変遷や、文化の伝播を考えた時に、
スコットランドよりも、アイルランドの方が、
大麦麦芽を蒸溜して飲んでいたのは、早いんじゃね!?

このアイルランド発祥説の解説の1回目が前回でした。

《前回のあらすじ》

ヨーロッパではワインがイケているお酒だったけど、寒い地方では葡萄ができないからビールがその役割を担った。
こうして、アイルランドやスコットランドでビール(的なもの)が飲まれるようになった。

で、どこかのタイミングで、「アイルランドやスコットランドのビール(的なもの)」と「蒸溜技術」と出会って、「ウイスキーが誕生したのではないか?」。

「蒸溜技術とビールとの出会い」を推測するには、そもそも『蒸溜技術』と『ビール』が、どこで誕生して、どのタイミングで、「アイルランドやスコットランドに伝わったのか?」ということを調べなくてはなりません。

まずは『蒸溜技術』『ビール』の起源について確認してみたいと思います!


■蒸溜技術はアラビアから!

蒸溜器は、今のところアラビアで発明されたと言われています。

これは、今から約5500年前のメソポタミア北部の遺跡から発掘された「二重構造の土器」が、おそらく「香水用の蒸溜器」だと推定されているからです。

【前編】蒸留器の歴史を知る! |起源はメソポタミア – クラフトスピリッツを再発見するWEBマガジン (shochu-next.com)

この「香水用蒸溜器」が、今のところ「最古の蒸溜器」と言われています。
(歴史は塗り替えられるものなので、いつかもっと古い蒸溜器が発見されるかも知れませんが。)

ただ、アルコールというフレーズ自体が、アラビア語が語源ですから、蒸溜技術にアラビア人が大きく関与したことが伺えます!

そしてこの蒸溜技術は、紀元前4世紀頃にはエジプトのアレキサンドリアに伝わり、学問として体系化されて行きます。


■エジプトと蒸溜技術

古代エジプトのアレキサンドリアは、ギリシャの哲学者:アリストテレスを師とするマケドニアのアクサンドロス大王が、紀元前332年に建設した都市です。
そこにはギリシャの知識階級の人も住んでいて、文化・学問・技術の最先端CITYでした。

ちなみに文献に蒸溜が登場するのは紀元前4世紀のことで、そのアリストテレスさんが、

「海水を蒸溜すると、真水に変わるんだよ!」

と記しています。

この頃、蒸溜技術は『錬金術』と結びついた形で、研究・進歩していきます。

◇錬金術とは
錬金術 - Wikipedia

そのため、この時は「飲料用アルコールをつくるため」に蒸溜技術が用いられていたわけではありまません。

学問的研究として、一部ではワインやビールを蒸溜してみたりはしていたようですが、「飲用を目的とした蒸溜酒」が誕生するのは、もっと後の時代で、この頃ではないのです。


■エジプトとビール

ビールの歴史は5000年というのが通説です。

紀元前3000年頃、メソポタミア(またもメソポタミア!)のシュメール人が、ビール醸造についてくさび形文字で粘土板に残していて、これが「最古のビール醸造の記録」とされているからです。

その後、ビール醸造技術もエジプトに伝わります。ちなみに、紀元前2700~2100年頃の古王朝時代の墓の壁画に、ビール醸造の一コマが描かれています。※

※ 参照:日本ビール検定公式テキスト[2022年5月改定版] 監修:一般財団法人日本ビール文化研究会 発行:マイナビ出版


■ビールと蒸溜技術

このように「ビールと蒸溜技術」は紀元前に、メソポタアやエジプトで出会っていたと思われます。

しかし、そこでは「麦(≒ビール)を原料とする蒸溜酒」は誕生しませんでした。

「嗜好品として飲むためのお酒」に、蒸溜技術が応用されることはなかったのです。

これは、おそらく

・地中海世界で、イケているお酒(飲料用アルコール)は「ワイン」であり、「ビール」の地位が低かった点。

・保存性を高めなくても、農作物(ブドウ・麦)に恵まれていて醸造酒(ワイン・ビール)が比較的手に入りやすかったので、蒸溜酒を必要としなかった点。

・そもそも、「錬金術として金をつくりだすため」や、「賢者の石※をつくりだすため」に蒸溜技術に磨きをかけていたので、「飲料用のお酒」にその技術を使おうとは思わなかった点。

※    賢者の石とは?(ドラクエに出てくるアレです)
賢者の石 - Wikipedia

などが原因として考えられます。

これについては、こちら↓の書籍に超詳しく書いてあります!

『ウイスキー起源への旅』 
著者:三鍋昌春 発行:新潮選書

いずれにせよ、紀元前のエピプト・アレクサンドリアでは、ビールは日常的に飲まれている一方で、蒸溜技術は(ビールとは出会わずに)学問的な体系化が進みました。


■「ビール」と「蒸溜技術」の伝播

次回へ続きます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?