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序章

初めまして、皆さん。

私は誰かって?

都会の郊外に住む

売れない作家です。

いや、「かつては売れっ子だった」が

正しいかもしれませんね。

言い訳っぽく聞こえるかもしれませんが…。

おかげで、出版社と

契約出来たのは良いのですが

「先生、作品はまだですか?」と

夏の夜に飛び回る蚊の如く

うるさく聞いてくる

出版社の社員が今日もいらしています。

これでは描ける作品も描けません。

とは言え、彼には強く言えません。

何故なら、この作品が売れなければ

契約が切れてしまうからです。

貧乏に拍車が掛かってしまいます。

何せ、浪費家の私は

初めてベストセラーになった作品の印税を

すっからかんと使い切ってしまい

今では売れる前と何ら変わらない

無一文同然の生活をしております。

契約が切れてしまえば

出版社から借りたこのオンボロ一軒家も

追い出される事でしょう。

あぁ、何てこった。

「…先生、…作品は…?」

出版社の彼がまだ執拗に聞いてきたので

「悪いけど、まだ出来ていないので

また後日いらしてください」

私は彼にそう言って追い返しました。

もう夕暮れ時です。

私はベランダから沈みゆく夕日を眺め

防災無線から流れる「夕焼け小焼け」を

耳にしながら黄昏ていましたら

ふと、あの頃を思い出しました。

あれは12歳、小学6年の夏でした…

つづく

次回「小学6年の夏」


#小説

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