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介護現場IT化でどう変わる?メリットデメリット・活用事例を紹介!

介護業界での人手不足が問題になっています。そんな介護業界の変革につながると期待されているのが、業務のIT化による業務効率化とリソースの確保です。

介護現場の人手不足については、行政も処遇改善手当を上積みするなど対策を講じてはいるものの、抜本的な解決策とはなっていないようです。その原因は、介護職を取り巻く問題が従業員の待遇改善だけでは解決できないからです。

介護を仕事に選ぶ人の多くはやりがいを求めて入職しますが、現実には雑務に追われ、利用者とのコミュニケーションに充分な時間を割けず不満に感じているようです。引いては、利用者の満足度低下にも繋がりかねません。

そこで介護業務の効率化が期待できるIT化について、システム導入のメリット・デメリット、IT機器の開発・導入事例を紹介します。

ITシステムを導入し、業務効率化と改善を考える上でのヒントになれば幸いです。

他業界に遅れを取る介護現場のIT化

介護業界は、あらゆる職種・業界のなかで最もアナログといわれています。その原因は、生身の利用者を相手にしている仕事だからだけでなく、従業員がITに苦手意識を持っていることにもあります。

しかし身体介護以外は、デジタル化が可能な業務もあるはずです。

ようやく利用者記録(ケース記録)を電子化する事業所も増えてきたとはいえ、まだまだ書類のやり取りが紙ベースだったり、連絡手段もメールよりも電話が主であるなど、他業種と較べれば前近代的な手順を踏んでいると言わざるを得ません。

利用者たちだけでなく、介護に携わる職員の環境改善のためにも、職務のIT化による業務改善が急務といえそうです。

介護にITを導入するメリット

介護現場にIT機器を導入すると、どのような場面でどのようなメリットがあるのかを挙げていきます。

① 介護記録の負担が軽減される

介護記録ソフトを導入すれば、ケース記録と日誌・伝票が連動するので、記録の負担が軽減されます。

まず記録を参照しながら日誌を書く必要がなくなり、さらにモバイル端末を連動させれば、体温・血圧等の記録も測定時の入力だけで済み、台帳に転記する必要がありません。これにより、リーダー業務で日誌にまとめるための時間が大幅に削減できます。

このように、煩雑な日勤帯での業務負担が軽減されれば、離職率低下も期待できます。

② 利用者記録の管理スペースが削減できる

介護記録の管理をデジタルデータ化することにより、利用者記録の保管場所が削減できます。

従来の介護記録の保存・保管は紙ベースであるため、管理するための膨大なスペースが必要でした。またファイリングにも手間がかかり、アセスメントのたびに職員が書類を挟み込む作業が発生してしまいます。

特にトータル利用者数の多いデイサービスでは、ファイリングのために送迎後延々と残業するという職場も少なくないでしょう。

このように、利用者記録をスマートに管理することで、事業所の手間とスペースのゆとりに繋がると考えられます。

③ データの推移を可視化できる

利用者記録をデジタル化するもう一つのメリットは、利用者の過去と現在のデータの推移を可視化できることです。

紙ベースのバイタル表は通常、日時別に記録され、数値の推移を見るためには別途折れ線グラフを書く必要がありました。

しかし、バイタル測定と記録をシステムで連動させれば、ひとつの端末で入力を行いながら推移も確認できます。

利用者の身体状況の推移がわかれば、看護師・介護士にも客観的で正確な状態把握の共有ができるため、ケアの質の向上が望めます。

④ 他職種・他機関への情報伝達が高速・正確になる

施設から医療機関などへの情報伝達も、デジタルデータの送信なら、伝達時の間違いや漏れが減り、高速・正確になります。

事業所単位の業務で言えば、国保連への請求などがスマート化できるでしょう。また施設・事業所内でもデータのやり取りで他職種との連携、情報交換がスムーズになると考えられます。

さらには、利用者処遇を決めるために多職種が話し合うアセスメントでも、あらかじめデータ共有し、場合によってはオンライン会議に置き換えるなどすれば、無駄な移動を省き、業務の時短化も期待できそうです。

⑤ 連絡や書類提出の利便性が向上する

職員連絡網やシフト作成、福利厚生関係の手続きなどがデジタル化できれば、事務手続きの簡素化が図れ、利便性が向上します。

最近では職員の連絡網に電話でなくLINEなどのチャットツールを使う職場も増えているようです。ただせっかくWeb連絡網を使うのであれば、文字だけでなくファイルも共有し、書面のやりとりができるとさらによいでしょう。

例えば、皆が書き込めるExcelファイルでシフトの希望を取り、勤務表にそのまま反映できれば、シフト作成者の手間も省けます。

提出期限のあるアンケートや研修報告書なども、入力フォームかファイル添付で提出可能になれば、項目ごとに専門の用紙を用意せずに済みます。

さらに、全社で福利厚生の届け出をすべてWeb化できれば、職員にとっての利便性は格段に向上します。厚生関係の書類をWebで提出できれば、自宅で落ち着いて記入できるため、記入漏れやミスも減るでしょう。

このように、利用者情報だけでなく、職員管理に関わる書類もデジタル化することで、さまざまな手続きがスムーズになります。

介護にITを導入するデメリット

介護の業務IT化には、メリットだけでなくデメリットもあります。

ここからはIT機器・システム導入における課題と、予測できるデメリットについて挙げていきます。システムの導入を考える際には、メリット・デメリットの両面からご検討ください。

① 導入・維持コストがかかる

介護現場のIT化には、当然大きなコストが必要です。

IT機器導入やインターネット環境の整備のほかに、システム料・メンテナンス料などの維持コストも発生するでしょう。

また思い切ってシステムを導入しても、職員たちが馴染むまでには混乱も覚悟しなくてはなりません。そういった事情もあり、なかなか導入に踏み切れない事業者も多いのではないでしょうか。

システムの導入による業務効率化で、ゆくゆくは収支が好転するとはいえ、システム運用が軌道に乗り費用を回収できるまでには、時間が必要かもしれません。

② 職員のIT教育が難しい

IT機器やシステムを導入するにあたり、職員への教育が大きな課題になりそうです。

ただ、介護職員のITリテラシーにはバラつきがあり、他職種と比べても全体に低い傾向にあるようです。それでなくても、もともと勤務体系や年齢・バックグラウンドの異なる職員へ、均一なOJTを行うこと自体が難しいことは、業界特有の課題でもあります。

とりわけITとは無縁の環境で長年就業してきたベテラン職員は、IT機器に抵抗があり、敬遠してしまうかもしれません。既存職員にIT化によってもたらされるメリットを感じさせられるかどうかも、導入のポイントです。

一方近年では、ITに詳しい職員がいる場合も多いようです。システムが浸透するまでの間は、得意な職員にだけ負担が集中する可能性もあります。その場合、介護業界で一部職員にIT化の推進をしてもらうのであれば、別途役職・手当を付けるなどの対応も一考すべきかもしれません。

これらの事情から、システム導入初期には職員教育を、誰が・どのように行うかを、体系的に決めておく必要があります。

③ 個人情報の漏洩リスクがある

個々の介護情報をWebでやり取りする際に、個人情報漏洩のリスクは避けて通れない問題です。

これまでの紙ベースの利用者情報は、鍵付きの棚に入れて持ち出し禁止にするなど、厳重に管理されてきました。

しかしIT化が進むと、オンラインで個人情報を扱うことも増えてきます。現場の全職員が常時、利用者情報にアクセスすることについては、個人情報保護の観点から疑問の声が挙がるでしょう。とはいえ、特定の権限でしか情報にアクセスできなければ、IT化による合理化・時短の効果が発揮できないともいえます。

こういった問題への対処法を探るために、先にIT活用をしている他の事業所などから、データ運用管理のノウハウを学ぶことが重要です。

④ 時間外労働が生じる

書類作成と通信とをデジタル化することで、勤務時間外に業務が発生する懸念があります。

これまで介護職員は、手書き書類や利用者へのプレゼント、装飾品の創作作業などを、時間外や自宅で行うのは当たり前という認識がありました。この認識のまま書類の電子化が行われれば、無給の時間外労働がさらに増える可能性もあります。

リモート勤務や直行直帰が可能な職種とは違い、元々打刻による勤務時間管理しか経験していない介護業界では、就労時間の定義がIT化で曖昧になってしまいます。

介護支援専門員(ケアマネージャー)に関して言えば、仮に24時間通信可能となった場合に起こり得る、利用者さんからの過剰な要求にどう対処するのか、といった課題もあります。※

IT化の主目的は現場負担の軽減ですが、導入前に入念な仕組みづくりを行わないと、利便性を優先するあまり却って業務が増え、さらに新たなカスタマーハラスメントを生んでしまう恐れがあります。

※補足追記:この記事では施設サービスについて記載していますが、居宅介護支援事業所においては「特定事業所加算」を受け、24時間体制で利用者対応をしている事業所が既にあります。

⑤ 利用者側の世帯によりIT化が遅れている

介護事業所がせっかくIT機器を導入しても、利用者とその家族がIT化についてゆけず、連絡時にIT 機器が使用できない場合があります。

利用者の家族構成が、子供世代と同居せず、老老介護でキーパーソンも高齢というケースが増えています。この場合、IT化の波に取り残されている家庭・ご家族も多く、電話でしかそのご家庭とは連絡が取れないことも考えられるでしょう。

高齢者を対象に事業を行う以上、高齢者世帯にもIT機器と最低限のリテラシーが浸透するまでは、ある程度アナログの通信手段にも頼らざるを得ないのかもしれません。

介護IT化の新技術を実例で紹介

ここで介護にITの新技術が実用化されている実例を2つ紹介します。

いずれの技術も、まだ汎用化されてはいませんが、もし普及すれば介護の現場業務での負担を、大幅に減らしてくれると考えられるシステムです。

順番に見ていきましょう。

利用者見守りシステム

1つ目は、利用者の身体状態をセンサーで感知・把握する機器とシステムです。

このシステムでは、睡眠状態・呼吸・心拍などの計測を行うセンサーを装着することで、利用者の身体状態をモニターで観察ができます。これにより、夜間の巡視負担の軽減が期待できます。

施設の入浴日の朝には、夜勤者だけで1人1人体温・血圧測定を行う施設も多く、これが職員の大きな負担となっていました。センサーで計測できるようになったことで負担が減り、利用者さん全体への見守り・ケアが可能になります。

排泄予測システム

2つ目は、排泄を予測できる機器とシステムです。

この機器は、すでに一部の施設や病院で試験的に導入されています。

排泄ケアは、介護現場で最も対応が難しいケアのひとつです。しかし排泄予測機器を導入することで、これまでオムツを使用していた方でもオムツなしで排泄できるようになり、介護負担が軽減できます。

さらには利用者の尊厳維持と高い個別ケア目標の達成、そして当然、オムツコストの削減にも貢献します。

介護に関わるテクノロジーは現在も進歩を続けており、ここで紹介しきれなかった機器やシステムがまだまだあります。

将来的には、例えば介護ロボットなどの機器を、利用者個人が持参する可能性も、あるかもしれません。

介護業務にもITを導入し、効率的な事業運営を


介護業界の業務をIT化した場合のメリットには、業務効率化による時間短縮や、情報伝達の高速化・正確化があります。

一方、デメリットとして、コストが掛かることと、職員教育や個人情報の取り扱いの課題があります。

ただトータルで見れば、業務のIT化により職員にゆとりが生まれ、同時に利用者のQOL向上が図れるといえます。システム運用が軌道に乗れば、初期投資を回収できるだけの成果を挙げられることは、先に導入している事業所を見ても明らかです。

このように介護のIT化には、人的リソースの最大化をもたらす可能性があります。システムの導入も、視野に入れて検討してみてはいかがでしょうか。



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