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鳴かないはずの生き物も

前回、亀鳴く、という春の季語について書きました。

亀には声帯が鳴く、声を出すことはないそうですが、前回の記事のコメント欄で、tuwabukiさん中之さんが、亀は音を発することを教えてくださいました。身近に亀と接している人ならではのコメントです。

実際はどうあれ、鳴かないと思われている生き物が「鳴く」季語は、他にもありました。

蚯蚓(みみず)鳴く
蓑虫鳴く
田螺(たにし)鳴く
地虫鳴く

地虫は、昆虫の幼虫など地中に住む虫のことです。

これらの生き物の共通点がないかと思い、調べてみたところ、どうやら皆、冬眠する生き物たちのようです。

亀とたにしは春の季語。水がぬるむと冬眠から目覚めます。
蓑虫、みみず、地虫は秋の季語。寒風の中、凍てつく大地の下で眠って春を待ちます。
地味な印象の生き物たちの気配に耳を傾けたくなるのは、確かにこういう季節でしょう。つくづく季語と季節の組み合わせは見事だなと思います。

亀の話に戻ります。

新潟県柏崎市の山間の村、女谷(おなだに)に伝わる綾子舞の演目一つに「亀の舞」があります。この中で亀が甲羅干しをするシーンが出てきます。観客席に背中を向けて甲羅を干すしぐさがユーモラスです。

春の日の暖気に うんざりもんざりはい出して
甲をしゃんと干したりな

この亀、「さて蓬莱に行こうか」と思い立ち、行きしなに一首詠みます。歌の中で友達を呼ぶのですが、さてそれは誰でしょうか。

蓬莱いのや 蓬莱行きしなに
穴の口に構えて 歌一首 にやった

祝いめでたの鶴亀なれど 祝いめでたの鶴亀なれど
松にくじくの くのへの さて 松にくじくの友欲しや

松に巣くう友達の鶴を呼ぶ歌です。一人で蓬莱に旅立ちたくなかったのでしょうか。寂しがりやで雄弁な亀の姿です。

おまけの話

季語の世界に触れたくなり、亀鳴く、の季語を教えてくださった根雨さんにご紹介いただき、歳時記を注文しました。

今朝投稿されていた以下の記事にも季語の話が出てきます。
鳴く。滴る。笑う。
動詞が含まれる季語は、今と昔とで意味の違いが際立つ気がして、楽しいです。歳時記が手元に届いたら、そういう季語拾い読みしてみようかと、楽しみにしているところです。

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