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読書記録42『人類の未来』

ノームチョムスキーほか、
吉成真由美(インタビュー,編)
『人類の未来』
(NHK出版新書 2017年)

捉えようによっては予言書のよう…笑


言語学者ノームチョムスキーという人物名に惹かれて購入。
この「人類の未来」という書籍は、なぜもっと早く読まなかったのかと思うほど熱量の高いものだった。

現在は2024年。出版が2017年なので、取材等の期間も含めれば10年ほどのタイムラグがある。
(つまりこの数年でのトランプ政権出現から崩壊、ウクライナ情勢、パレスチナ情勢やコロナ感染症の流行と収束。いくつかは予言のように言い当てていることもあった。)


5人それぞれの学問領域、専門、思想、宗教観…。ほぼほぼ異なっているが、だいたい同じようなこと(疑問であり提言。アドバイスでもあってユーモアに富んだ発言)を投げかけている。

ノームチョムスキー;数学者→言語学者、政治学者。「普遍文法」理論で現代言語学に革命をもたらした人物。

レイカーツワイル;発明家、思想家、未来学者。人工知能研究の世界的権威。

マーティンウルフ;最も影響力のある経済ジャーナリスト。ダボス会議のフェローを務める。

ビャルケインゲルス;建築家。ビャルケインゲルスグループの立ち上げ。「マウンテン住宅」「8ハウス」などが有名

フリーマンダイソン;数学者、理論物理学者、宇宙物理学者。量子電磁力学の完成に貢献。国防、宇宙局、原子力発電にも関わる。SFにも多大な影響を与えた人物。


5人はすべて同じようなことを思考しているわけではない。ベクトルも同じということは一切ないのに、一貫している印象をうけた。

不安定な情勢。政治には興味や期待がもてる状況下にない中で、現在「都市伝説」のようなものが流行しているが、受け取り方によってはこの本の内容は「都市伝説のネタ」だと思ってしまう。
(まあ、都市伝説はいろいろ考えさせられるが半分くらいSFとしてとらえるくらいが丁度よい。楽しむくらいで…。月刊ムーを読むように。)

ゆくゆくテクノロジー的には人間の限界(知能、身体、生命=死…)を超える存在(=ポストヒューマン)にはなっていくだろうが、テクノロジーだけの進化ではそうすべてがうまくはいかない。
(資源やエネルギー問題もやがて解決するだろうとの楽観的な予測もある。)

ダイソン氏は、
「人間は真実が何かを探ること(サイエンスの方法)より、物語やファンタジーを求める傾向がある」
という。

自分自身、理系の人たちに対して数値だけをみて判断する冷酷さをもっているのでは?などという偏見をもっていたがそれは崩れた笑
(良い悪いを「0or1」で判断する人たちを結構周りでみかけてきたから…。すいません理系のみなさん。)

ダイソン氏は「世界を見る1つの窓がサイエンスで、もう1つの窓が宗教である。物事のメカニズムはサイエンスの問題であり、物事の意味は宗教の問題である」といい、
インタビュアーの吉成さんは、「人間が作ったものが宗教。「物事の意味」に関しても脳の研究によって説明できるのではないか?」と質問するが、

ダイソン氏は、
「これからの問題であって脳を理解するのにははるかなる道のり。表層を掻いているだけ。そして、倫理感覚や美しさへの感覚・言語や音楽への愛・美醜の区別・善悪の区別といった意識からわれわれが獲得した叡智は、サイエンスの外。枠を超えたところにあって、未だ私たちの存在の基本となっている。説明できるようになるかもしれないが、そうならないといい」
などと笑顔で答えている。
(キリスト教の付き合いのある人たちは優しく。そのゆるいコミュニティが好きと言ったり、利己的でない生き方が自分自身を幸せにするなんていう言葉…。何回も書くが理系のイメージと違う‼︎笑)

人間はわけのわからない行動をおこす不確実性がある。5人はその人間に関して鋭く、真っ直ぐに理解しようとしている。

人間は群れる生き物で、集団になればいじめてしまうし間違いだっておこす。そんなあたりまえなことを言い続けている人たちのインタビューだった。

一貫しているなと思った理由がわかった。
5人(いや、インタビュアーの吉成さんも含め6人ですね)が、「事の本質を見極めようとする姿勢=とてつもない熱量がある」を貫いていることだ。

不透明でどうなってもおかしくない社会情勢だったり、国内情勢。楽観まではいかないまでも悲観的ではない現実を見ている捉えている人の話は面白かった。

10年ほど経った今だから、答え合わせをしよう。

以下は、インタビュアーの吉成さんも含めた6人の発言で気になった事。
(長い。とても長い。メモではない。もはやレジュメである。)

A、ノームチョムスキー
・自分たちよりも弱い立場にいる人たちを攻撃し、政府へのやり方への不満を彼らのせいにする、これはデマゴーグ(民衆を扇動する政治家)たちが取る常套手段(p36)
・ウクライナに関してプーチンの行動を正当化はしないが、背景を理解することは重要。歴史的に独立していた時がずっと少ない国。東部はロシア語を使い、ロシアと通商しロシア文化の影響も大きい。西部はポーランドやドイツなどと繋がりが深い。(p58-59)
・集団的自衛という言い訳…核兵器時代になっても世界が存在しているのは奇跡的な事。日本の平和憲法は完璧ではないが見習うべきもの。崩されていくのをみると残念。NATOと共に集団的自衛を行使するということはイラク、中東の国を破壊することアメリカのテロ行為に加担することである。(p61-63)
・イスラエル政策をとっていたレーガン時代に18回も拒否権を発動。1982年だけで6回。(p65)
・東京裁判当時のアメリカの検察側の弁護士テルフォードテイラー「戦争犯罪とは自分達が犯さず、相手側が犯した罪のことである」と皮肉。これが「勝者側の正義」とよばれる常識(p69)
・レイカーツワイルのシンギュラリティに向かい進んでいくこと→反対の立場=何の証拠もない。クォンタムコンピュータ(=量子コンピュータ)が出てくる。量的拡大はもたらしても、知能や創造性の本質についての洞察をもたらすという兆候もない。人間の進化、シンギュラリティの話になると途端に非理性的になるのはなぜ?(p72-74)
・「人新世」=すなわち人間が地球環境に大きな影響を及ぼす時代に生きている。=人類が地球を滅ぼす力を選択して備えた時代。(p76)

B、レイカーツワイル
・指数関数的成長の力…ヒトゲノム計画は7年経過して1%の解析が終了。科学者や批評家は100%=700年かかるとした。カーツワイルは「1%終わり=もうほとんど終わりに近づいている(7年で終わる)」との考え。→解析終了後も解析に10億円かかっていたのが10万円になっている。シュミレート、研究、変形と研究が発展し続けている。情報テクノロジーは指数関数的に上がっていて過去100年このように進展している(p89-90)
・2029年にコンピューターが全ての分野において人間がすることを超えるようになる年(p93)
・デバイスを使わずに脳がクラウドに直接アクセスできるようになる。思考の規模を拡大できる(p97)
・知性のエッセンスは情報の取捨選択=人もコンピューターも同じ。物忘れ=三億個の新皮質モジュールに記憶の限界があるから。子供が言語取得できるのもそのため。コンピューターも無限ではない。入ってくるすべてを覚えようとしないこと。残っている記憶の断片から、新たにその状況を再構成している=これが記憶のエッセンス。後で重要なエッセンスを残して、他を破棄していくことが必要になる。(p118-119)
・すべての情報を入力することが適切な判断と直結するものではないが、それらの情報をもっていることは、適切な選択をする上で必要になる。=これが今のAIの問題。十分な情報を提供されている場合にしか働かないということ。これからは「少ない情報から多くを学ぶ」がAIの課題となる。(p120-121)
・人類は危険を乗り越えてサバイブしていけるだろう…。シンギュラリティの本質は自らを改良していけるような十分に知能の高いテクノロジーを生み出すこと。AIが急速に事故改良を繰り返すということもシンギュラリティの1つの定義である。(p134)
・新皮質に層を重ねることで高次の機能が備わるようになってきた=慈愛のような深い感情の機微が備わった。音楽は人間の最高の表現。その表現のためには抽象化することができる新皮質の層が加わる必要がある。(p137)
・実践することで学ぶというのは教育の正しいあり方。従来の教育モデルは破綻している。大人にも教育しなければならないのは、入手できる情報を駆使して問題を解決するかという問題解決能力。学校は不要とは言えず、社会性を育む場(=他者と遊ぶ。出会う。作業を行うなど)となる。(p138-140)
・テクノロジーはいつの時代も諸刃の剣(ポジ、ネガどちらの結果ももたらす)楽観主義ではないが、人類の生活を格段に改善したことは疑問の余地がない。→これからもポジを伸ばし、ネガを制御していくことが課題になる。さまざまなレベルにおける「希望の拡大と危機の縮小」が大きな課題。(p141-143)
・「政治や経済は中央集権的(例;世界政府、世界警察、世界経済)」になるのでは?→一人一人が意思決定できる。分散型=民主化されるといってもいい。民主主義は完全ではないが、全体としては良い方向にむかっている(145-146)

C、マーティンウルフ
・歴史的に見るとグローバリゼーションへの強い反動というのは、政治的反動と結びついて戦争と不況に帰結する(p155)
・主権国家の場合、国家を規制する法律がありませんから、交渉に頼ることとなる。国家が破綻したかどうかを決めるのが難しいのは、国家は支払い「不能」ではなく支払いに「同意しない」ということ(p174)
・日本の本質的な問題はGDPにおける可処分所得の割合が低すぎること。戦後の日本経済がどのように構築されたか?に関係する。日本企業は資本を多く必要とする資本集約型でコーポレートガバナンスが弱く株主に注意を払わない。企業は利益をあげるがそれをただ積み上げていくだけ。結果、個人の可処分所得が増えない(p180-181)
・イギリスがECに加入した頃、ヨーロッパ大陸は成功。イギリスは失敗しているという感覚。ヨーロッパに入りたいという欲求があったが、イギリスがうまくいくようになりその感覚が薄れた(p184-185)
・イギリスの視点かもしれないが、EUは正しかったのかもしれないが国家間の繁栄と協力を求める段階において現実的なプラグマティックなやり方が必要だった。特にお金と移民問題がヨーロッパの結束を妨げ、ヨーロッパ全体を弱くした。過剰な自信と行き過ぎた楽観主義と無理強いがもたらした結果(p198)
・小国が成功する条件…①世界市場へのアクセスがあること。グローバリゼーションの崩壊=被害(国外市場に頼っているため)の大きさとなる。②完全保障の問題=大国の庇護が必要(p200)
・ツキジデスは、民主主義は脆弱で特に経済が弱っているときには扇動的な文言に左右されがちになりデマゴーグの台頭を許してしまう(p203)
・ウルフの政治的視点…「良い人生にとって何が最も必要なのか?」良い人生とは「自分の人生を自分で選べること。自分の政府に対してものが自由にいえること。臣民でなく市民であること」→アメリカの民主主義が崩壊して中国の共産党独裁主義のシステムが生き延びることがないように賭ける(p203-204)
・「ローカル」は曖昧。言葉の上での概念であって客観的現実ではない。あたたかくフレンドリーな感じがするが2000年かけて構築したものと調和しない。結果のコストを背負わなくていい人が世界経済の分散化のようなことを言う。ローカルのパンを買えるということも豊かになったからこそ言える、できるようになったこと(p205-208)
・負債契約は我々の金融システムの一部。→負債が脆さを生む。金融パニックの背景にあるもの。負債を法律違反としてしまえば安定するがダイナミズムは失われる(p213)
・規制がなかったら何をつかまされるかわからない。そうならないために規制があるし、違反した場合も処罰ができるのは国家しかない(p216)
・社会がせめて機能していくためにはわれわれにとってもっとも不自然な行為「よく考えること」「しっかりとした証拠をもってわれわれの行動を検証していく」が必要(p219)
・理性的であっても理想主義的ではあってはならない…過剰にならなぬよう(ギリシャ語;ミーデン・アガン。仏教;中庸)。理性が感情に取って代われは無理。両者の均衡を保とうということ(p220-221)

D、ビャルケインゲルス
・基本的に建築はわれわれの社会の表現型である=社会のニーズ、理想、不安、負担などを現実にの世界に具現化する。単にきれいな外見、高価な彫刻としてのビルをデザインするのではない(p249)

E、フリーマンダイソン
・「私は異端者であることを誇りに思っている。世界は通説に挑戦する異端者を常に必要としている」(p258)
・ウィリアムハバー教授は気候モデルに対して「ゴミを入力してゴミを出力する」と厳しく批判→経済モデルと同様、気候モデルは実際に無力であるということ。全体を把握する唯一の方法は現実世界を研究すること(p266)
・自然に対する人類の立場→①「ナチュラリスト」=自然の破壊者が人類。人類を自然の一部とは思わない。活動を抑え、人類が出現する前の自然状態を維持すべく努力をしていく。②「ヒューマニスト」=人類を自然の一部と考える。どのように調和していくか?に対して努力をしていくこと。自然を愛すること、変えていくこと、自然の力を借りて豊かになっていくことも許容される。(p270)
・人生の目的はわからないが、我々は非常に社交的な動物であることは確か。互いに助け合うことで善をなす。利己的でない生き方。その生き方が自分自身幸せになれる生き方→これは単なる偶然ではないと思う。(p275-276)
・現在学校は政府の管理下に置かれる傾向にある。憂うべきこと。教育をそんなに厳密に考え内容がうまくいくのでは?→重要なことは生徒たちを世の中に押し出し、責任をもって役に立つことをさせること(p297)
・いじめの本質はグループになると、個人をさいなむことに喜びを見出すようになるという点。大人も同じことが言えるが、大人と子供を一緒にいるようにして面白いことをすること。(p298-299)

F、吉成真由美
・何が本音かわからない不確実性によって人々を不安状態に起き、社会を不安定にたもって権力を維持する(トランプのやり口)→それよりも危険なのは嘘に慣れてしまうと言う現象かも。「ああ、またか」と思っているうちにあらゆることに不信感がつのる…、やる気を失った国民は統治者の意のままになってしまう。「社会全体が誰も何も信用していないという鬱状態」に。(p313)

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