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私の妻は元風俗嬢⑪

 筆者、久しぶりに復帰作を書いていて思った。noteに人が増えすぎである。ぎちぎちに人がつまっていて、もはや一億総クリエイターになったのではないかと錯覚するくらいである。そもそもクリエイターというのは人の言うことを聞かない。だから、もしクリエイターばかりになってしまったら、各々言いたいことを言いまくる。

 すると、どうなるだろうか? クリエイターと化した子どもたちは自らの趣味趣向を押しつけるので、まずお母さんが作る晩ご飯もなかなか決まらなくなる。すると、お母さんのストレスがたまる。仕事から帰ってきたお父さんに当たり散らす。そして、夫婦仲が険悪になりセックスレスになり少子化に歯止めがきかなくなる。経済はどんどん弱っていき、街には失業者があふれる。略奪や暴力がはびこるバビロンシティーと化した日本。そんな折り、天から一筋の光が降り注ぎ神が降臨し、人々を救済する。その施しによって新たな人類が誕生するのであろう。

noteはカルト。

第11話 過去を塗り替える。半ば無理にでも。

 世の中、おかしなことばかりである。そもそもエロマッサージ屋には社会保障というものがない。新型コロナウイルスの持続化給付金の議論で広く知られることになったが、性風俗店の従業員はすべて受託契約によってなりたっているので個人事業主である。つまり、事実上の雇用主がその従業員の保護の責務を負わないことになっている。だから、妻が「仕事を辞める」というのは契約を取り消すという作業になる。契約を一方的に破棄する場合は違約金などが求められる。ただ、慣習として性風俗に違約金が発生するのはなじまない。もとい、筆者が知り合いのデリヘルの経営者に聞いた時に最も苦労するのは「女の子の管理」だということを聞いたことがある。

 「ガンジャあげるから辞めないでって言われた」

 まさか、大麻が契約を維持するための交渉材料になるとは思っていなかっただろう。筆者はとてつもなく思慮深いので、自宅に違法薬物(あえてそう表現するが)があることをよしとしなかった。筆者は当時、シュレッダーのゴミを片付けたり、上司のいうことを聞く振りしているだけで700万円以上の収入を得ていた。もちろん、得た収入は全て韓国および北朝鮮に送金する指名を帯びていたので、銀の玉が穴に吸い込まれていく様を見届けるというミッションがあった。なので、手元には一銭も残っていなかったのだが。

 それにしても、仮に大麻が自宅にあったらどうだろう。まず、新聞やテレビで「エリート会社員が大麻所持」と報道される。それにより、ニュースは世界中に拡散していく。すると北朝鮮のエラい人が「今月のお金が入ってこないじゃないか!」と怒る。すると、エライ人のシュレッダーを片付けている筆者と同じような立場の人間に「殺してしまえ!」と言われる。筆者は頑強な体の持ち主で、小学校3年生からグリーンベレーで特待生として活躍していたので返り討ちにしてしまう。すると、我が国の国際問題に発展することは必至であった。これには大変に困った。

 「まぁでも余裕でしょ」

 何が余裕なのかは筆者には図りかねたが、妻がそう言うのであれば「余裕」なのだろう。妻はそのまま、勤め先の事務所や関係者の電話番号を着信拒否にした。こうして、伝説のハンドフィニッシャーは業界から姿を消した。インターネット掲示板では「あいつ辞めたらしいよ」「マジかよ」という匿名の会話が繰り広げられていたが、それもわずか数日で収まった。その場にいると、もうどうしようもないくらい、しがらみにとらわれたような気分になるが、抜けてみたらそこには何も無かった。ただ、借金まみれのエリート会社員と無職の刺青女がいただけである。

 さて、筆者には考える事がたくさんあった。交際が始まったとはいえ、彼女は仕事をするべきであった。筆者には彼女を愛する義務はあっても、扶養する義務はない。彼女との将来を考えるのであれば、ある程度の自立が求められた。将来、子どもが生まれたときには(※現在、筆者と妻の間にはバナナ〈過去コラム参照のこと〉がいる)「ママはね、伝説のハンドフィニッシャーだったんだよ」と説明するわけにはいかない。過去は塗り替えられる。人生のバンクシー計画。

 ところで、妻はめっぽう仕事が続かないことでおなじみであった。実は高校を卒業してから地元の企業に就職していたが、そこを上司と揉めて辞めた過去をもっている。その後もアパレルなどに就職したがことごとく辞めていたという。共通の知人によると「すべて妻に責任がある」とのこと。出勤する3時間前まで酒を飲んでいたりするのだから当然である。

 筆者は妻におそるおそる尋ねてみた。「なんか仕事しないの?」
 妻はこう切り返す。「するよ」
 「なんか当てあるの?」「ない。けど余裕っしょ。面接得意だし」

 人手不足の中、非正規雇用があふれる世の中。一部の富裕層に搾取される人間が多く、不平がはびこる国内において、妻の言葉はたくましかった。もはや、経済的に自由になるということは金を持つということと金を持たないということが同義であると思い知らされた。こうなると、もはや金をエライ人から搾り取っているという意味で、どちらが搾取しているか分からないくらいの雄大さを感じさせてくれた。

 そして、この時、筆者は知らなかった。ハンドフィニッシャーが持つ、ゴッドハンドの神髄を。


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