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筆者、海賊王になる。

 久しぶりの更新である。筆者は異常な仕事をこなしていた。ほぼ1か月休みなく働き、その間に妻が子育てに耐えられなくなり、テレビリモコンを顔面で受け止めたりしていた。その間に、日本人は100メートルの最速タイムをさらに縮め、泣きバナナ(愛娘。上の歯が生えてきた)はハイハイを習得した。noteを開くと皆さんが元気に更新していることに驚く。「#毎日note」などの狂ったタグをつけている人々をみると戦慄を覚える。

 そして筆者はつぶやきという機能を駆使して皆様に忘れられないように必死であった。noteは自己顕示欲を満たし続けてくれる最適なツールであった。筆者は更新をこまめに続けてきたおかげで1か月で150人ほどのフォロワーを得た。この計算によると、1年で1000人以上。10年続ければ1万人以上のフォロワーを得る計算だった。そうすると筆者は40手前でインフルエンサーになれるのであった。65歳までに2000万円貯めなければならなかったので、筆者はnoteで皆様にわすれられるわけにはいかないのだ。

 先日、筆者は仕事をひと段落させた。仕事がひと段落したら、ボスと中ボスが成果物に対して手厳しく批判を浴びせたが、ギャングの洗礼のようなもので筆者にいろんな話をしてくれるようになった。ギャングはリンチを受けて仲間に認められるが、筆者は多忙を極めて仲間として認められたのであった。これからは筆者のことはエル・アマツブと呼んでいただきたい。

 当然、仕事がひと段落したら感謝を述べなければならない人がいる。妻だ。そこで、筆者は考えた。妻と泣きバナナをつれてディズニーランドに行くことにした。ディズニーランドは、ウォルトディズニー社が版権を握り、オリエンタルランドという日本の企業が運営しているテーマパークである。そこで働く社員は労働力を搾取されており、先日訴訟が起きた。筆者はお金持ちなので、終わらない労働を強いられている従業員からチケットを購入してパークに入園した。

 月齢8か月の泣きバナナが乗れるアトラクションは限られていた。筆者たちはイッツァスモールワールドに乗った。このアトラクションは「世界は一つ」と連呼する童謡を各国の言葉で歌い分けるアトラクションであった。泣きバナナはベンチの上にちょこんと座ると、あたりをウロウロ見渡し、「うあー」と雄たけびを上げた。どうやらご満悦のようだった。

 一方、妻は妻とて園内のオヤツを食べたがった。ご存知の方も多いかもしれないがパークの中には競争の原理が全く働いていない。異常にインフレした商品を労働力を搾取されて続けている従業員が売っている。妻は、ポップコーン、ピザ、チュロスを食べたがったので、それらすべてを購入して食べさせた。別の味を食べたいというので筆者が「いいかげんにしないさい」と怒ると妻は右ストレートを筆者の右わき腹に打ち込んだ。妻はインファイターなので、アウトボクシングの申し子である筆者は肩を組んで歩いていることを後悔した。懐をやすやすと許してしまったからだ。

 その後、筆者はカリブの海賊に乗った。カリブの海賊は、海賊同士が骨肉の争いを繰り広げるさまを見届けるアトラクションであった。筆者はこのアトラクションが好きだった。ほとんど並ばないのに非常に雰囲気のあるアトラクションだからであった。

 しかし、カリブの海賊は序盤で急流を下るところがある。泣きバナナは最近になってお座りを習得したので少し難しいかもしれないと思った。案の定、ベビーカー置き場にベビーカーを置いていたら、従業員が血相を変えて飛んできた。「こちらのアトラクションは一人で座れる方が対象です。お子さんは大丈夫ですか?」と聞いてきた。言外に「ここは海賊の海だ。女子供が入っていい場所じゃねぇ。けえりな」と言ってきたのであった。筆者は高校時代、グランドラインに行ったことがあったので少しムっとしながら「大丈夫です」と一言いうと、「それでは船に乗り込みましたら別のキャストが確認させていただきます」と挑戦的な態度を見せた。泣きバナナは少しムっとして鼻から息をフーッと吐き出した。

 そして船に乗り込むと、泣きバナナはちょこんとベンチに腰を掛けて「フン」と鼻息を鳴らした。その様は海の女そのものだった。堂々たる貫禄、その姿に従業員も恐れをなして「行ってらっしゃい」というのが精いっぱいだった。泣きバナナは紅葉のような手を掲げて従業員に出航の合図を送っていた。筆者は泣きバナナの雄姿を横で見ていて誇らしげだった。きっとこの子ならどんな社会の荒波も乗りこなせるはずだった。

 そして、急流を下る時がきた。泣きバナナはかすかに微笑みをたたえて小さな手をベンチに添えていた。「あーうー」と船出の合図を上げると一気にボートは荒波へと繰り出した。上下左右に揺れるボート。激しい波は容赦なく甲板を揺らし、遠くには戦火が燃えていた。さて、泣きバナナの様子はどうか。

 両目から大粒の涙を流していた。



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