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008街の匂いを嗅ぐという話

匂いは深く人の記憶と結びつき、心を揺り動かす効果があるらしい。

先日、緊急事態宣言もあけ、久々に仕事で街に出た。私も含め、人々は皆マスクをつけ、言葉少なに歩いている。
マスクの種類も様々で、市販のもの、手作りのもの、生地の違うもの、色の違うもの様々だ。ただ一つ同じことは、みんな少し息苦しそうに、窮屈そうにしているということだ。

野外で、他の人と離れている場合はマスクを外しても問題ないそうなのだが、やはりみんな不安で、お守りのようにつけている。私もそうだ。

だけどたまに息苦しくなって、外したくなってしまう。私は人が完全に周囲からいなくなったのを確認し、そっとマスクを外した。
思い切り空気を吸い込むと、梅雨時特有の雨をしっとり含んだようなアスファルトの匂いがした。マスクをしていると、街の匂いが全くしてこないことに気づく。

夕方の雨上がりの街の匂い、むせ返るような純白のクチナシの匂い。こんなにも様々な匂いで彩られていた街。嬉しいような、懐かしいような、キュンとする匂いだ。
季節が変わっていたことさえ、マスクをしていて気づかなかった。

久々に出た街の匂いを堪能していると、どこからか煮魚の匂いがした、しばらく歩くと、味噌汁、肉を焼く匂い、お風呂の匂い……様々な家庭の匂いがする。家だけでなく店からも、ニンニク、唐揚げ、タレの匂い、人々の生活する匂いが街に溢れている。

小学生の頃、友人たちと夕方まで思い切り遊んで、気づけばあたりは紺色で夜になりかけていた、慌てて家路につくと、道すがら色々な家からご飯の匂いがして少し寂しくなった。急に心もとない気持ちになって、もし帰って家がなくなっていたらどうしよう、ご飯がなかったらどうしようと、ありえない不安が心に広がり、形のない妖怪のようなものに追われるようで、怖くて我が家に急いだ。
家の玄関を開けると暖かい空気と、ご飯の匂い、お母さんの怒鳴り声がしてほっとしたのを覚えている。

そんなことを思い出していると、前から人が歩いてきた、私は大きく息を吸い込むと急いでマスクをつけた。遮断されたように、また街の匂いは静かになってしまった。とぼとぼとした気持ちになる。

家に帰り、ただいまと玄関を開ける。今日の我が家はカレーだ。

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地域や食にまつわる授業やその他地域でのワークショップなど地域のあれこれをだんどりするのが得意なファシリテーターです。食や農・地域・暮らしについて、私が日々思う様々なことを適当に書きます。合同会社流域共創研究所だんどり(http://dan-dori.jp)のスタッフです。
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