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スクラムは方法論?それともプラクティス?

こんにちは、河口です。
atama plusというAI×教育のスタートアップでスクラムマスターをしています。今回は「スクラムは方法論?それともプラクティス?」について書きたいと思います。ちなみに私が何者かは過去のnoteを御覧ください。

そもそもatama plusってどんな会社?

atama plusは「教育に、人に、社会に、次の可能性を。」をMissionに掲げ、一人ひとりの学習を最適化するAI先生「atama+」を全国の塾・予備校に提供している会社です。
「3分でわかるatama plus」というスライドがあるのでご覧ください。

書こうと思ったきっかけ

以前Odd-eの認定スクラムマスター研修を受講をしました。講師はご存じの方も多いと思いますが、日本人唯一の認定スクラムトレーナーである「えばっきー」こと江端一将さんです。3日間のトレーニングで今でも非常に印象に残っているのが「方法論」「プラクティス」の違いについての話。

「スクラムは組織論と集団心理学に基づく方法論でありプラクティスではない。」

ということをかなり強くおっしゃっていたことを覚えています。
当時、その定義を頭では理解できましたが、それが意味するところはよくわかっておらず、「スクラムのほうがすごいんだぜ!」という程度の主張なのかなと思っていました。


その後、atama plusでスクラムを実践し、また社外の人とスクラムやアジャイルについて話をしているときある違和感に気づきました。
内容のほとんどがスクラムの方法論についてではなく、「リファインメントのテクニック」「コラボレーションの仕方」などプラクティスの話で占められているなと。


そんなことを感じながら日々過ごしていたのですが、スクラムを実践していく中で、その方法論である部分とプラクティスである部分、そして江端さんが伝えたかったことってこういうことなのかもしれない、と個人的に感じたことがあったので、今回のnoteで言語化してみることにしました。
私自身もまだまだ修行中の身のため、間違ったことを書いている可能性もありますが、このnoteをきっかけにたくさんの方のご意見を伺えれば嬉しいです。

そもそも方法論とプラクティスとは?

みなさん、この2つの違いを説明できますか?
「方法論」「プラクティス」はそれぞれ、下記のような違いがあるそうです。(認定スクラムマスター研修で私自身も初めて知りました。)

方法論
・学術的に有効性が証明されているやり方
プラクティス
・経験則としてある前提条件がそろうと上手くいくとされているやり方

つまり、方法論であるスクラムのフレームワーク、ルールは学術的にその有用性が証明されているということです。


スクラムガイドによると、スクラムとは「現状を把握するためのフレームワーク」であり、スクラムのルールを守り、実践を通していく中で経験主義により「現状を把握する」ことができるようになっていきます。


またスクラムの提唱者であるジェフ・サザーランド著の「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」の中でもスクラムの元になっている様々な学術論文、実験が示されています。下記は一例です。

経験学習
 ・知識創造理論
チーム
 ・ジョージ・ミラーの実験
 ・パトナムのチームサイズの研究
 ・ブルックスの法則
 ・コプリエンの実験
集団心理学
 ・根本的な帰属の誤り
 ・ミルグラムの実験
マルチタスクの弊害
 ・デヴィッド・サンボンマツのマルチタスクの実験
仕掛り作業の制限
 ・トヨタ生産方式
計画
 ・不確実性コーン
見積もり
 ・ハロー効果
 ・情報カスケード
 ・バンドワゴン効果
優先順位
 ・パレートの法則
プロダクトオーナー
 ・ボイド理論
 ・OODAループ


私自身がそれぞれの論文をすべて読み、深く理解したわけではないのですが、上述の本を読むだけでもたくさんの実験をもとにスクラムのフレームワークが設計されていることが理解できました。

スクラムというフレームワークの妙

「スクラムってそもそも実行するのに無理があるように設計されているよね。その無理なことをがんばって実行することで学びが得られるフレームワークだよね」

ある日、チームメンバーからこんなことを言われ、私はハッとしました。
日々スクラムを実践していく中で感じたことは、「スクラムを実践しようとすること自体に学びがある」ように設計されているということでした。

スクラムは、実践していく中で「プロダクト」「チーム」について「透明性」「検査」「適応」が回るよう、回さないといけないように設計されています。つまり、スクラムガイドのルールを守ることでその「力学」が発生するような仕組みになっており、そこにスクラムのフレームワークの妙があると感じたのです。

【デイリースクラムを15分以内でやること】を例にとって考えてみましょう。

どのチームもはじめはデイリースクラムを15分以内で終わらせられません。それはなぜかというと、もともと15分以内にやること自体が難しく設計されているからなのです。しかし、そこで「こんなの15分以内にできっこないよ。スクラムなんてやめだやめだ。」となってしまってはもったいない。
「どうすれば15分以内に終わらせられるか?」を考えることでスクラムを理解する力学が初めて発生します。


デイリースクラムという15分間のタイムボックスをセットすることで、時間を意識する習慣が身につき、その場で話す内容の優先順位付けがされ、チームの本当の障害がなんなのかを議論することが大切であることに気づきます。したがって、時間が足りず上手くいかないからデイリースクラムを30分やっても良いということではなく、15分以内にやろうとすること自体に意味があると思いました。


「アジャイル開発をしたくてスクラムを導入したけどうまくいきません。」というお話をたくさん聞きますが、それはある種当たり前なのです。フレームワークを導入するだけではうまくいきません。そのフレームワークを理解して活用することが重要です。「スクラムに終わりがない」というのはこういうことだと思います。


スクラムガイドには、スクラムの特徴について下記のように記載されています。

・軽量
・理解が容易
・習得は困難


まさに、「言うは易く行うは難し」なのです。ただ、「実践する中に学びがある」こと自体を理解するのがスクラムを理解する第一歩だと思います。

プラクティスとは

一方、プラクティスについてです。プラクティスは、ある前提条件が揃えば上手くいく可能性が高い方法であるため、試してみて上手くいかなければやめれば良い、と個人的に思っています。

例えば、リファインメントの際に使うプランニングポーカーはプラクティスであって、スクラムの一部ではありません。やり方が合わないのであれば、Tシャツのサイズで見積もっても良いでしょう。

スクラムにおいて大事なことは、見積もったり分割したりすることでプロダクトバックログを学び、メンテナンスを行い着手可能な状態を作ることです。それ自体が結構難しいのですが。。。


プラクティスを採用する際、その実行環境が正しいのかを見極めて採用を決めないといけません。前提条件が揃えば上手くいくこともあるし、失敗することもあるため、様々なプラクティスを試してみることが大切だと考えています。

実践の中でスクラムマスターがすべきこと

上述の通り、スクラム開発を実践するときは、スクラムのフレームワークが持つ力学を理解し実践しようとすることで学びを得ることが大切です。ただし、スクラムのフレームワークが持つ力学を理解するためには実践するしかありません。理論を理解しただけではそのフレームワークが持つ実践の難しさ、パワーを感じることはできないのです。


その中で、スクラムマスターは何をするのでしょうか。

ずばり、スクラムマスターはスクラムの中で、フレームワークの持つ「力学」に注目することが大切だと思います。スクラムが上手くいかない話を聞いていると、プラクティスの改善をしようとしているケースが多く、課題を深ぼっていくとスクラムの力学が上手くワークするような組織設計メンバーの理解ができていないことがそもそもの課題であるように感じることがあります。


スクラムマスターはスクラムのフレームワークが持つ力学を考え続けることで、最終的に「組織論」「集団心理学」に行き着く、つまり江端さんがスクラムマスター候補の私達に伝えたかったことは「スクラムのフレームワークが持つ力学の重要性」だったのではないのかと今では思います。


私自身もまだまだ修行中の身ではありますが、もっともっとスクラムのフレームワークの力学を理解していきたいと思っています。もちろん、それを実践するためには様々なプラクティスの引き出しが必要です。方法論とプラクティスを分けて考え、組み合わせて、実験しながらatama plusにもっとも適したスタイルを確立していきたいです。

まとめ

最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回はスクラムの方法論とアジャイルのプラクティスの違いについて自分なりに言語化してみました。アジャイル開発をするためのプラクティスはたくさんありますが、プラクティスだけでなく、チームがより成長していくための組織内の「力学」に目を向けてみませんか?

atama plusでは、ミッション実現の大事な手段としてアジャイル開発がカルチャーになっています。ミッション実現のために一緒にトライしませんか?


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