7番「森」(晴・曇平日夜)

 夜。

 フェリシーは平日の夜の10時まで営業をしている。

 メイドさんによっては、昼から夜まで働きづめで10時になる頃にはおなかを空かせているメイドさんもいるくらいだ。

 施術と施術の間には15分~30分ほどの休憩を加味して構成が組まれるシステムとなっている。

 しかし、その日のメイドの人数によっては次の施術までの間に、お部屋の片づけから準備に至るまでをその時間内でこなす必要があるため大忙しになることも多々ある。

 メイドのお店とはいえ、曲がりなりにも施術を第一に据えているお店であるゆえ、一人一人のメイドさんにも責任はつきまとうし、それゆえに苦労や疲労も大きい。

アカリ「ふぅ、今日は大忙しだった。疲れた。。先輩たちと話す余裕もなかったし。」

 閉店後のフェリシーは洗濯機を回したり、次の日に備えた準備をしたりと、お店が閉店したからといってヒマになるわけでもない。

 そんなこんなであっという間に日をまたぐ時間を迎える。

 私ことアカリは2か月半前のあの日、メイド長に拾われた。

 その時に住まう家を紹介された。

 家の場所はフェリシーからは電車で10分、15分の近さであり、ありがたいと思う反面、こうして夜遅くまで働く必要もある。

 他の先輩たちは終電があるため、もっと早めに帰る。

 夜の静寂な夜道を一人とぼとぼ歩く。

 寂しい。

 いくらお店が忙しかったとはいえ、お客様との楽しい会話や先輩たちメイドのいる空間は何だかんだ言って心地いいものであるからだ。

アカリ「ただいまー」

 私は誰もいないその部屋に電気をつける。

 シャワーもあびないまま、ベッドにつっぷす。

アカリ「つかれた。。目をとじたらすぐに寝ちゃいそう。。」

 ふと携帯でTwitterを開く。先輩たちはTwitterにフェリシーに来てくれた人たちへの感謝の言葉と自撮りの写真をあげている。

アカリ「私よりも先輩たちの方が圧倒的に忙しいのに。。」

 私は先輩たちの凄さに圧巻されるばかりだ。帰宅後もメイドとしての誇りを忘れることなくお客様に尽くせる心には尊敬の念がたえない。

 慣れてくるということもあるだろう。

 しかしながら、私なんかで何か尽くせることはあるのだろうか。

 現に、疲れ切ってもう動けない。

 私は目をつむる。少しだけ少しだけ眠るだけだから、と。

・・・ちゅんちゅん

 あれ?

 ここは?

 辺りを見回すと、私は森にひとりきりでいた。

 サァー

 そよ風がわたしの長い髪をふわっとさらす。

 心地いい

 私はここには来たのは初めてではない?

 そんな気がした。

 心地いい風。なんだろう、心が洗われていくような感覚を感じる。

アルパカ「とりさんとりさん」

インコ「アルパカさん、私はインコです」

アルパカ「もふもふ♪」

インコ「今日も可愛い」

アルパカ「今日は女の子がきているもふね」

インコ「あ、例の子だね。せっかくだし話しかけにいこうか」

アルパカ「もふ♪」

 わたしは木々の木洩れ日から日の差す森を歩いていた。

 だれかいないのかな。私ひとりなのかな

 でも、さみしくない。 

 そよぐ風の心地よさと、暖かな日差しはわたしに元気を与えてくれる。

 そんな時、

 バサッバサッ

 なにか鳥の羽のはばたく音がすぐ耳のそばで聞こえた

アカリ「え?」

 きがつくと私の肩に鳥さんが爪をひっかけてのっていた。

アカリ「ひゃぁ!?」

 わたしはとっさに肩を手で払ってしまった

 鳥さんはすぐさま私の肩からとびたつ。

インコ「まったくもうひどいなー」

 鳥さんはわたしの視界の前に姿を現す。

 え?

 しゃべった?

インコ「なに、ひょんな顔しているの? 私の羽になにかついてるの?」

 インコが喋った。

アカリ「え? え? あ、あの」

インコ「前にもあったよね」

アカリ「え、その、はい?」

 わたしは動揺を隠せない。

 だって動物が喋るなんて

インコ「あ、まだ驚いてる? これでも私は君を助けにきたのに」

アカリ「え。助けに?」

インコ「そうだよ。君はまだそこに囚われているのかい?」

アカリ「囚われ・・・? 囚われもなにも記憶がないから」

インコ「この世界にきたショックで記憶を失っているのか」

アカリ「え、えと、」

選択肢
・アナタは何?
・ここはドコ?
・私のことを知っているの?

<アナタは何?>
アカリ「アナタは何?」

インコ「なにとは失礼な。私はトリパカの一人のインコさ。あっちにいるアルパカの愛人だよ」

アカリ「あ、愛人!?」

インコ「うん、そ。私たちは愛しあっているからね」

 遠くに目をこらすと白い羽毛がふさふさなアルパカが木の陰からこちらを見ているのが分かる。

インコ「アルパカさんは恥ずかしがり屋さんだからね。でも、そういうところが可愛くて好きだ」

 私は目の前のことが信じられない。

 たしかにインコは人間の言葉を話すとはどこかのテレビか何かで聞いたことはあったけれど、こんなに喋るんだ。

インコ「ほかに何か聞きたいことがあるんじゃないの?」

<ここはドコ?>
アカリ「ここはドコ?」

インコ「ここはあなたの夢の中」

アカリ「・・・っ。そうじゃなくて」

インコ「君は夢を見ている。私たちは君を助けにきた」

アカリ「助けなんて何も。私は毎日を生きるのに忙しいの。それに助けてもらった恩もあるの。インコさんに構ってる余裕なんて」

インコ「それはひどい言い方もされたものだなぁ」

アカリ「とにかく私は、私には、助けなんて別に」

インコ「そっかそっか。でも、また君はここにくる」

アカリ「何の根拠があって」

インコ「うんううん。そういう運命だからね。」

アカリ「うんめい」

インコ「うん。他に聞きたいことはあるかい」

<私のことを知っているの?>
アカリ「私のことを知っているの?」

インコ「知っているとも。というか、君が私たちを創ったからね」

アカリ「創った? 私が?」

インコ「そうそう。私たちがこうして愛をささやきあえるのも君のおかげだ。もっとも”今”の君ではないのかもしれないけれど」

アカリ「よく分からない」

インコ「私たちは君以上に君のことを知っている。ただそれだけさ」

アカリ「私って一体」

インコ「そんなに考え込まなくてもいいよ。いずれ分かる。今はただ目の前の生活を満喫してごらん。どこかの世界では君を必要としてくれる、そんな世界もあるかもしれない」

アカリ「言っていることの意味が分からない」

インコ「今は気にしなくても良い。他に聞きたいことはあるかい」

インコ「ちょっと話しすぎたね。もう空間が空間を保っていられないみたいだ。またね」

アカリ「あ、ちょっ」

 目が覚めた。

 朝だ。

 どうやら昨日はベッドに入ったまま、そのまま寝落ちしてしまったらしい。

 記憶をさぐる。

 なぜだろう。インコとアルパカが頭によぎる。なにこれ

 なにか鳥さんにピーチクパーチク言われた気がするが、あいにく夢は夢だ。夢の中で言われたことを思いだせるはずもなく。

 何だったのだろうか。とりあえずシャワーをあびよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?