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6.1 tue サウナとマインドフルネス

「ととのえ…ととのえが大事なんだよ!」
 出社後デスクにつくなり、上司が目をキラキラさせながら言った。
「何のことですか…」
「サウナの本読んでアツくなっちゃった」
 最近サウナブームが再燃しているらしい。これを書いている間に町の情報誌がうちへ届いたんですが、その表紙にも「サウナで『ととのえ』」と書いてあった。ととのえというのは、神経や精神的休養を指すらしい。「や、筋肉だけじゃなくてメンタルにもいいらしいんだよサウナ」という師の言葉そことおりのことが情報誌にも書いてある。ふむ。これがサ道か。
 朝の会話に戻ります。サウナに入って10分、水風呂に2分、身体を外気で冷まして20分、そのセットを数回繰り返すのがいいらしい、と矢継ぎ早に説明される。大雑把に言えば、マインドフルネスになるという話だった。それが冒頭の「整え」というわけだ。
「いわば強制瞑想だね。ま俺もやったことないけど」
「やっぱり!」
「でも病気にも効くらしいし、サウナで薬なしの生活になれば最高じゃん」
 話を続けていて分かったけど、上司の言う病気とは私の持病のことだった。完治はなく寛解を目指すものなので薬なしにはならないんだけど、すこし気を配ってくれての話だったんだろう。年明けから安定していかれている私の調子は、振る舞いもろもろでバレている。彼の認識にズレはあれど、なーんだ優しいじゃん!?と普通に喜んでしまった。

 そうそう。躁鬱持ちなんですよね。ありがたいことに職場の人も知ってくれていて、わりとフランクに調子の話をしたりもする。これは小さくて付き合いの密な職場の特権かもしれない。上司は漠然と「鬱なのかあ」と思っているみたいで、度々違うっすよーとは言うものの、詳細に説明はしていない。なんかそういうところがある人だと認識してくれていればいい。自分の性質に関しては、私はそう思っている。サウナの話はさておきである。
 私の性質ゆえかそうでないかは分からないが、その上司とはメンタルヘルスの話をすることが多い。上司自身、気を落ち着けることに意欲的な人だし、私がてんやわんやなので気を落ち着けなさいとよく言われる。心が保てないなら何か仕事を捨てなさいとか、食事はおいしいものだと知りなさいとか。気の持ちようを変えればいい、ではなく、自分が幸福でいられるための環境を作りなさいと再三言われてきた。とてもありがたいことだと思う。そういう話をされるときは大体気分がどん詰まりなので(できるならやっとるわと思ってしまう)渋い顔をしてしまうのだが、マジのありがたいことに違いはないのである。
「豊かにならなきゃと思うのはやめるべきだ」
 自身の幸福に対するプレッシャーを感じている、そんな話をしたときにそう言われた。なきゃなきゃ思想は身を滅ぼすぞ。言う通りだと思う。頑張ることを自分のアイデンティティとしてはならない。ぐったりしているときは頑張らないと何もできないじゃないですか、と子供じみた反論をするけど、ひとしきりぐったりしてから生活を立て直せば「しなきゃ」とはおさらばできるのかもしれない。少し元気が出るとそう思う。

 かくして私は、朝から「銭湯行かなきゃ」ということで頭がいっぱいである。よくやく踏ん切りがつきそうなので、出かけてきます。

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