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なぜ日本「だけ」が高校生の性行為を禁止しているのか

「高校生にみだらな行為 ◯◯歳の~~(職業)を逮捕」

こういった見出しのネットニュースは、日本では数日に一度程度は見られるニュースです。実は、このような逮捕は全国47都道府県の青少年健全育成条例違反という理由で行われています(厳密には児童福祉法違反もみだらな行為として報道されることがありますが、青少年健全育成条例違反と比べると件数は少ないです)。
令和5年版の犯罪白書によると令和4年の青少年健全育成条例違反の件数は1,917件となっています。
この件数は、全国で年間15万件以上検挙されている窃盗や2万件以上検挙されている暴行と比較すれば、遥かに少ない検挙件数ですが、1日に5件程度は検挙が発生しているわけで、決して少ない件数とはいえません。

「みだらな行為」と言うと、被害者の意思を無視して行われた非常に悪質な行為を意味しているように聞こえるかもしれないが、それは全くの誤解です。
確かに昭和60年の判例によると、「淫行(みだらな行為)」とは「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為」のことであるとされています。淫行を広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでないともされていますが、それは建前であり、そうでない性行為であると認められることはほとんどありません
なぜなら有罪とすることに反対していた3人の最高裁判所裁判官の1人である谷口正孝裁判官が言う通り、淫らな性行為と淫らでない性行為を類別することは不可能だからです。実際、先述の判例では「被害者」からデートに誘い、継続的な関係(20回以上関係を持っている)で、被告人は結婚を考えていると主張していても、「真摯な交際」ではなく、「みだらな行為」であるという判断が行われています。
婚約中、またはそれに準ずる真摯な交際関係にあたる性行為はなぜか含まれないとしていますが、それ以外のほぼすべての性行為が含まれると考えて差し支えありません。日本の刑事裁判における有罪率はほぼ100%なので、真摯な交際関係にあたると認められることは難しく、認められたとしても、それは長い裁判の後のことです
判決が出るまでの過程で、学業や就業に大きなダメージを受ける可能性は高いですし、弁護士費用も私選で依頼した場合大きな負担となります。また、逮捕時に実名報道がされていれば、その情報がネット上から消えることはありません。

同意なき性行為や被害者が性的同意年齢(16歳)未満であれば
不同意性交等罪、職権を利用した性行為であれば児童福祉法、16歳~17歳への買春行為であれば児童買春・児童ポルノ禁止法というより量刑が重い法が適用され、青少年健全育成条例違反では処断されません。これは条例違反とこれらの法律の違反が観念的競合となる為です。
俗に未成年淫行のことを児ポと呼んでいるのを見ることがあるが、別の法律であり構成要件は全く異なります。
青少年健全育成条例違反で処罰されるのは、同意の上で、職権も濫用せず、売買春でもない性行為に限られます。つまり、ごく一般的な恋愛関係によって行われる性行為が対象であるということである。
もちろん性暴力・性加害は悪であり、司法により取り締まられるべきだと私も考えています。しかし、私は条例違反に該当する状況が性加害であるとは全く思えません。
初体験の平均年齢平均初婚年齢の乖離からも明らかなように、日本も他の先進国同様に婚前交渉が一般化しているので、条例が若者の恋愛を妨害しています。ここでいう若者というのは、条例の保護対象にあたる16~17歳はもちろんその年代と恋愛関係になりやすい18~20代前半くらいの若者も含みます。

尚、18歳未満同士の性行為であれば条例上問題がないというわけでは決してありません。補導は(場合によっては逮捕も)十分可能であり、保護処分の対象になるからです。
実際に、2023年10月には富山県で17歳の少年が18歳未満の女性と性行為をした容疑で逮捕されています。条例違反として報道されるのは、ごく一部の事例なので実際にはもっと多くの未成年が補導・逮捕されているであろうと推定できます。
保護処分は、刑罰とは違い前科にこそなりませんが、少年院や児童自立支援施設等への送致は可能ですし、保護処分にならなくとも補導や逮捕されれば、学校や勤務先に伝わることで退学処分や解雇になるなど将来に多大な影響が出る可能性は高いです。
2024年7月には月白のカルラというアイドルグループのメンバーが、保護処分期間中であったことを理由に脱退処分となっているように、保護処分というものが就業に影響を与えることがわかります。
日本は、同級生や先輩・後輩と恋愛をしているだけでも高校を退学になる危険がある国であるということです。

日本以外の先進国には、このような奇妙で異常な法令は存在しません。日本「だけ」が高校生(正確には、性的同意年齢以上の未成年)の性行為を道徳上の理由で禁止・処罰しています。
このような意味のわからない規制が設けられている国は世界中探しても日本しかありません。
強いて言えば、パキスタン、サウジアラビア、イラン、リビアなどイスラームに基づいた政治を行っている国は年令を問わず婚前交渉が違法なので、それらの国々の規制に近いです。

政教分離を掲げているはずの日本で、貞操観念という極めて宗教的な概念を理由とした条例制定が行われているのは全く意味がわかりません

もちろん日本以外の国にも性的同意年齢(Age of consent)という概念は存在します。
ほとんどの先進国では14歳~16歳を性的同意年齢としており、日本も刑法上の性的同意年齢は16歳です。

主な先進国の性的同意年齢(日本は条例で規制されている年齢)

しかし、青少年健全育成条例による規制は「性行為に同意する能力があるか否か(性的同意年齢の定義)」ではなく、「青少年が健全に育成する為に不適切である」という主観的な価値観の押し付けで設けられており、性的同意年齢による規制とは本質的に異なるものです。

このような世界的に見ても異常な条例は、若者の自由恋愛を阻害し、日本社会全体に負の影響をもたらしていると言えます。
次回以降は、この恋愛禁止条例がどのような悪影響をもたらしているのかについての記事を公開予定です。

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