ラピスラズリ。青い石を買った
ある夜急に青い石を好きになって、小さな石のネックレスを買ったのはある夏の終わり。
青い石を持ったことというよりは、青い石を持とうとしたことそのものが私にとっての転換点だった。
ターコイズがわりと好きで、グリーンよりもブルーのものが好きだけれど、ラピスラズリの青はそれどころじゃない。深い青。深いけれどネイビーとは少し違う鮮やかさがあって、どことなくアジアっぽい華やかさ。(実際にイスラム圏が産地のようだし、日本名は「瑠璃」だ。)わかりやすく美しいとは思うが、まさか自分が、そういう青を好きになるとは思わなかった。
きっかけは天啓のようだった。
ショッピングサイトだったかインスタグラムだったか、もう忘れてしまった。忘れてしまったけれど、急にその青い石が目に飛び込んできて、目が離せなくなった。手あたり次第にページを手繰って、何かひとつ欲しい。手に入れたい、身に着けたい。そんな気持ちを抑えられなくなった。
そうして約1週間後、小さな青い石のネックレスを買った。
それが自分の誕生日の夜だったこと。後から知ったことだけれど、その青い石ラピスラズリが、9月の誕生石(の、ひとつ)でもあったこと。驚いたけれどなんとなく腑に落ちた感じもあった。
まさか自分が、そんなふうに何かを好きになるとは思わなかった。そして、思ってはいなかったけれど、必然な気もする。そんな感じ。
これまで宝石を身に着ける習慣はなかったけれど、なんとなくお守りのような気持ちで毎日着けていた。仕事場ではあまり見えないように、長めのアジャスタ・チェーンも買った。それを付けると、真冬は首元の詰まった服を着る時にもちょうど良い長さになって素敵だと思った。
私は単純なので、お守りのような気持ちで身に着けているうちに、お守りを身に着けている気分になった。身に着けていて良いことがあった、ということもない。身に着けていないと不安、というほどではないけれど、なんとなく胸元がすうすうと寂しく感じた。
そして寒さもそろそろ綻びかけてきたある日、私の不注意でそのアジャスタを切ってしまった。ぱちんと弾けて、青い石が今年気に入りのセーターの胸に落ちた。
幸い切れたのはアジャスタのみで、本体はまったく無事だったのだけれど、なんとなくそれから身に着ける日が減ってしまった。
振り返ればその頃なのだ。私に新しい「好き」が出来たのは。
少し寂しいけれど、レンアイではない。一般的には「推し」と呼ばれる類のものだと認識しているが、私はあまりその呼び方を好まない。好きなのだ。ただただ好き。好きで好きで、どうしようもない。好きのために衝動的にお金を使ってしまうし、好きのためには衝動的に走ってしまう。比喩のようで比喩でなく。
その衝動やエネルギーについてはまた別で書こうと思うのだけれど、ともあれ、暫くぶりに私に「好き」が出来たのだ。
今も私の青い石は素敵だ。
見に着ける頻度は減ったけれど毎日持ち歩いている。そして今日は、という日・・・例えば、好きな人に会いに行く日には胸に飾る。
私のネックレスに嵌められた青い石はだいぶ小粒だけれど、とても綺麗で、誇らしい。
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