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素材と遊ぶを実践する 「ゼロからトースターを作ってみた」読書連想文

表紙には一見何かわからない白めのドロドロ。その内側には錆び色の塊が写し取られた写真がある。著者のThomas Thwaitesが言うにはこれは「トースター/The Toaster」らしい。トースター(彼にとってはポップアップ式の)が彼にとっては現代資本主義の象徴らしく、それをじぶんの手で作る、その挑戦と記録がこの本である。


最高の本です

村井理子さんの軽快な訳もあって、一度本を開いたら、ページを捲る手を止めるのが難しい。彼が自作のトースターを作るのにかけたお金は1187.54ポンド。これは彼が制作の元にした製品(3.94ポンド)が301個も購入できる金額である。その殆どは、素材となる銅や鉄、ニッケル、プラスチックを得るために向かう「現地」への移動費である。鉄を求めクリアーウェル鉱山に行き、マイカ(絶縁体や断熱材に使われる)を求め山に登り、銅を求めて洞窟を探索する。だから、この本はある意味で旅行記とも言えるかもしれないし、所々に出てくる地図や“旅行先”の彼の写真も合わさって、深夜特急に乗って旅に出たくなる。

プラスチックを生成するための石油の取得が個人では無理だと分かった彼は、大学教授に連絡を取ったり、じゃがいもを茹でてバイオプラスチックを生成しようとする。それでも難しくて、読者からは禁じ手のような方法でトースターの外郭のプラスチックケースを作り上げる。表紙の白いドロドロは、彼が禁じ手を用いて作り上げたトースターのケースである。

「人間は鉄器時代から鉄を作って来ましたが、プラスチックについてはまだ100年に満たない歴史しかありません(というより、一般的にプラスチックが生産されるようになったのはここ60年ぐらいなのです)。鉄器時代からプラスチック製造まで人類が費やした時間の長さは、複雑さの違いを示していると私は考えています」

本文109ページ

どうにかして彼はトースター作りのための素材を手に入れることで、「値札には現れないコスト」に気が付き、公害、労働者の人権、自然環境と経済活動のクラッシュ、消費の倫理にも触れる。基本的には、彼のユーモアが貫かれていて、読んでいて、決して退屈しない。

読後、金属として思い浮かんだ風景は、リビングやキッチン。そこには沢山の種類の金属が使われていはずだけど、ぼくには鉄も、銅も、アルミも、見分けがつかない。ニッケルもなにも分からない。その特性や、特徴を知りたい。卵焼き機にはいくつか銅とかアルミとかいくつかの種類があって、それはそのまま調理に影響するから、つまり、金属について知れば料理が上手くなる。包丁だって金属で、貝印の包丁解説講座をこの前YouTubeで眺めていたら、うっすい2種類の金属を合わせて包丁を作ったりしてものもあるらしい。

【製品の分解】

著者はトースターを作る時に、既存のトースターを分解を分解することから始めた。何によってトースターが構成されているかを知るために。だから、日常生活において何かを捨てる時、ぼくはその製品というか、ものの成り立ちを知るために、分解、分別をしたくなった。その素材が何なのか?ということも気になるし、廃棄業者の負担のためにも(本当に負担軽減になるのか?とか思うと、日本の処理施設のことも知りたい)、分解、分別をしたい。


【自分でやれる範囲を増やす】

トースターでさえ、その生産は他者に頼り切っている。今のぼくには作れない(作ったことがない)のだから、せめて自分もなにか作りたい。やれる範囲を増やしたい、と思った。ナリワイを増やしたい。

例えば、自給自足の食料生産という形で野菜を育てるでも(最近、大根に水をあげてる。ちょっとすつ葉っぱが増えてて可愛い笑)、食材を乾燥させて、別の形に変化させるでもいい。食料品店では乾燥食材は生鮮とは別物で扱われていて、干すことで食材に立派な化学変化が起きている。

他にはなんだろう。最近実践したことでいえば、衣服のほつれを直した、友人のタコのぬいぐるみを修理したとか?かな。作るのはハードルが高くても、直したりだとか、調節したりだとか、それくらいは自分でやりたい(できることなら、その為の道具も作りたい)。

【タンドール窯という自作の調理器具】

そういえば最近、タンドール窯という、調理器具を自分たちで作った。この本を読んだあとでは、材料のちょっとした加工、そして、それらを組み立てた、と言う方が適切かもしれないけど。タンドール窯というのは、ナンとかタンドールチキンを焼く釜のことで、炭火焼バーベーキューとオーブンで焼くのの、2つのいいとこ取りが出来る素晴らしい調理器具。記念すべき1つ目はペール缶でつくり、改良点が多々あるので、今度はもっと大きなドラム缶サイズのを作る予定(!)。

タンドール豚、クレソンがアクセントです
ムガル帝国に思いを馳せて焼いた豚の塊肉
壺の中に炭、その周りを保温するバーミキュライトと、ペール缶

できる範囲を増やす、そういう意味では薪も、川沿いの枝とか拾ってきたりしたい。昔はボーイスカウトをしてたし、大学の頃にグリーンビレッジというマンションの空きスペースでバーベーキューするときは、近所の森で枝を拾ってきてた。それも含めて楽しかったな。マッチとかライターとかも、自作してみたい。

そういえば、知り合いの山田さんから「縄文人兄弟」みたいなYouTubeを教えてもらった。まだ見てないけど、住居とか、なにやら、作ってるらしい。作るための道具も作ってるらしく、たとえば石を削ってナイフ状のものとか、植物を撚り合わせて紐とか。紐は凄いよな〜と、最近、庭師の仕事で知ったので、紐、作ってみたいな。笑

「地球が終わったあとに文明を作り直す」みたいな書籍も読んでみたいし、漫画「Dr.ストーン」はバチバチに面白かった。作る、というか、素材についての理解を含めて、目的達成のための手段を自分で構築するってことをやりたい。既存の娯楽で楽しむのもいいけど、その娯楽を分解して、自分でやってみたい。


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