吉奈

海外在住。 小麦粉からできる食べ物が好き。

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    私の好きな本の紹介です。

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    私の日常の些細な考えを薄く煮詰めました。

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【短編小説】 隠されぬ恋 4

   残された女性に目をやると、机に両肘をついて力なく下を向いていた。仕事を抜けてきたって言っていたけれど、もし本当にこれから仕事に戻らなければならないなら、とても仕事なんてできる状態ではないだろう。彼女の前に置かれている二枚の千円札が私には忌々しいものに見えてしまう。私だったら、バカにしているのかとお金を出されたことに怒っていただろう。でも彼女はそうはしなかった。  割れたカップとほうきと塵取りを片付けたようすのマスターが戻ってきた。 「ごめんね、ありがとう」 「あ、はい

    • 【短編小説】 隠されぬ恋 3

       カウンターキッチンに戻り客たちから背を向けて棚を整理整頓するフリをする。身体の中にあるモヤモヤしたものを消化したくて、ふーっと息を吐いてみても、口の中にある空気だけがただ出ていった。ため息ひとつまともにつけない。視線を感じ私は横を向く。すると薄い唇をきゅっと固く閉ざして二回ほど小さくマスターが頷いた。これは励ましてくれている可能性もあるけれど、そんな接客じゃダメだと言われているようにしか今の私には見えない。  いつの間にか一段と店内は静かになっていた。あの怪しい儲け話しを

      • 【短編小説】 隠されぬ恋 2

        コーヒーを持っていくとそのテーブルだけ軽快なジャズの音楽は失われ、まるでエアポケットの中にいるようだった。  話始めるきっかけを、何かを、彼女たちは待っているのかもしれない。  各テーブルのグラスの水の量を確認するために、ウォーターポットを持ち私は店内を周る。  主婦四人組のテーブルのグラスに水を足していると、「あんた自分が何言ってるかわかってんの!?」と堰を切った大声が店内に響き渡った。  私は声のする方へ反射的に注意を払う。トゲトゲしい雰囲気から声を張り上げた主があの小

        • 【短編小説】 隠されぬ恋 1

           こじんまりした店内には有線放送のジャズが流れている。そのジャズ特有なリズムを無視するように、客達のささやく声と食器を重ねる音があちこちで放たれる。 「失礼します。コーヒーお持ちいたしました。ごゆっくりどうぞ」  男性はコーヒーがきたくらいで集中を妨げられたくないのか、イヤホンをしているせいで私の声が聞こえなかったのか、微動だにせずパソコンの画面を睨み続ける。たとえ理由があったとしても、もし気がついているなら認識しているサインくらいは出して欲しいと、こういうことをされるといつ

        【短編小説】 隠されぬ恋 4

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        • 誰とでも親密な関係になれる36の質問
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          【短編小説】 karma 3

           それからしばらく僕はSNSを見ることはなかった。急に全てが恥ずかしかしくなってしまった。僕は正しいことをすれば思った通りに物事が進むと思い込んでいた。でも、そんなことはありえなかった。僕の考えも起こした行動も全てが高慢さからきたもの。僕はなんて世間知らずな大馬鹿なんだ。    大学の構内を身を小さくして歩いていると、「よう」と声をかけられた。声の主は白衣を着た常田だった。常田にちょっと話さないかと誘われ、僕は常田と研究室へ向かった。 「今日も寒いよね。そろそろ暖かくなってい

          【短編小説】 karma 3

          【短編小説】 karma 2

           karma ウイルスを流して二週間ほど経つと、karma の効果が顕著に現れ始めた。karma の効果は抜群だったようで、SNSではあまりの民度の低さを嘆いている人をよく見かけるようになった。僕は嘆くのではなく反省をして善い行動をしてほしいと思っているのに。このままでは、近いうちにSNSは地獄の一歩手前のような状態になるだろう。    それから数日経った授業の空き時間、学食で推しのSNSのコメント欄をチェックしてみると誹謗中傷の量は以前の倍に達しようとしていた。疑心が僕の中

          【短編小説】 karma 2

          【短編小説】 karma 1

           大学の授業と長時間の肉体労働のアルバイトを終え、狭いアパートに帰宅し時計を見ると、深夜一時を過ぎようとしていた。もうこんな時間か。帰宅途中のコンビニで買ったコーラを一気に半分までゴクゴク飲むと、冬の夜風に熱を奪われた身体がさらに冷やされて大きく震えながらも、糖を歓迎しているのがわかる。コーラと一緒に買った惣菜パンは狭いキッチンスペースへ袋ごと放り投げた。  身体に残った僅かな気力だけでシャワーを浴びたあと、ベットにうつ伏せで倒れ込む。もうなにもしたくない。惣菜パンの存在を思

          【短編小説】 karma 1

          【短編小説】 ラッキーフード

           今日のおうし座のラッキーフードはおはぎ。  今日の占いをアプリで確認すると、スマホから視線を外しアイライナーを握ったまましばらく思案する。  困ったな、おはぎってどこで買えるんだろう。スマホでおはぎを検索すると、コンビニで買えることがわかり安堵する。今日は午後から会議があるから絶対に食べておきたい。    昨日のラッキーフードはチョコレート。チョコレートを食べたからクレームを上手く乗り切れた。  一昨日のラッキーフードはいなり寿司。いなり寿司を食べたから課長に怒られなかった

          【短編小説】 ラッキーフード

          【短編小説】 『跡形も無くしっかり除菌ウエットティッシュ』

          「そんなのさー、自己責任じゃん?何で私が迷惑被らなきゃいけないの?無能ってマジで迷惑。……っあー、もう!ソース手に付いた!何でサラダラップをこんな巻き方にするかな。これじゃソース垂れるに決まってるじゃん。どいつもこいつもバカばっか」 「まあまあ」  私は鞄に入っていた『跡形も無くしっかり除菌ウエットティッシュ』を開けて恭子へ差し出した。  午前の仕事が平穏無事に終わり、お昼はサバの味噌煮定食を食べようと社食へ向かっていたところ、恭子に「サラダラップが食べたい」と捕まってしまっ

          【短編小説】 『跡形も無くしっかり除菌ウエットティッシュ』

          【超短編小説】 あの子

           あの子、また可愛くなった。  ほんの最近まで顔文字みたいな印象だったのに、マンガのヒロインぐらい魅力的になった。  好きな人ができたらしい。    今度は髪型を変えたみたい。艶やかなストレートの黒髪が、ぱつっと肩のあたりで切り揃えられていた。あの子は、クラスのみんなの注目を浴びて控えめに「ありがとう」と、乙女椿のような色をした唇ではにかんでいる。そんな姿を私は鼻で笑う。   「うわー、どんどんかわいくなるね。あの子」  私の隣で真美が眠そうに頬杖をついてそう呟いた。気に入ら

          【超短編小説】 あの子

          【エッセイ】日本って物で溢れている

          先日、約5年ぶりに日本へ帰国した。 今回は、その時私が感じたとこを書いていきたいと思う。 日本に帰って改めて感心したことがある。それは、物の多さだった。 私の実家はどこへ行くにも車が必要で、隣近所の動向を逐一気にするような田舎。そんな田舎にドラックストアが等間隔にできていた。 そんな所にドラッグストアが乱立する理由を考えてみるが、やはり超高齢化社会だから薬を売る場所がこんなにも必要なかも、なんてしょうもない考えしか出てこない。 ドラックストアなんてどこに行っても代り映えしな

          【エッセイ】日本って物で溢れている

          【超短編小説】 電車

           ダイヤ改正によって役目を終える電車に、小さな子供が「カッコイイ!」と大きくめいっぱい手を振った。嬉しくて、得意げになった電車は、一駅通過してしまった。

          【超短編小説】 電車

          【超短編小説】 孤独

           六畳一間で独り、冷め切ったおでんを食べる以上の孤独が、この世にあるだろうか。  こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった。誰かに必要とされるはずだった。誰かが認めてくれるはずだった。誰かの不幸を願う奴になりたくなかった。誰かの不幸で喜ぶ奴になりたくなかった。  こんなはずじゃなかった。  見下してきた奴を見下すはずだった。笑った奴を鼻で笑うはずだった。どこで間違えた?いや、ずっと間違えていた。本当はわかっていた。でも、向き合えなかった。認める勇気がなかった。もう戻れな

          【超短編小説】 孤独

          【超短編小説】 一人暮らし

           夢だった一人暮らしを始めた。  ネットで調べた人気のお酒を何種類も買った。できれば瓶に入ったお酒がいい。  渋い和柄のお猪口を三つとロックグラスを四つ、ホームセンターで手に入れた。  家に帰ってよく洗い、食器棚へ並べた。考えもしなかったがかなり邪魔だ。  届いたお酒を片っ端から開けて飲む。  匂いが苦手でもう二度と飲まないであろうお酒は、シンクへ半分だけ流した。  それらの瓶を、綺麗に、且つ無造作に床に並べた。うん、これでいい。  そして家に、唯一の友達を初めて呼んだ。

          【超短編小説】 一人暮らし

          幸せサプリメント

           『幸せサプリメント』これを一粒飲むだけで、幸福を感じることができる。政府から国民に、一瓶六十粒入ったものが支給された。生涯で受け取れるのはこの一瓶だけのようだ。  私にはあと二十粒しか残されてない。私はあと何年生きるのだろう?そんなことを考えると未来に押し潰されそうになり、サプリに頼りたくなる。  ある一人の女が、このサプリを全て人に分け与えてしまった話を聞いた。それでも彼女は幸せそうだった。みんなに慕われ愛されて。彼女の周りには常に人がいた。  私も彼女と同じようにして

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          お年玉ゲーム 2023

          「あや、お年玉ゲームをしよう」  ヨレヨレのジャージを着た親戚のおじさんが、わたしの目の前にドスんと胡座をかいて座った。悪戯な顔をして笑うおじさんが、わたしは前から少し苦手だ。  「ゲーム?」わたしは反射的にのけ反ってしまった。 「あやももう十歳だろう?このくらいのゲームは理解できるはずだ。でも、お母さんには内緒だぞ」  おじさんはニヤっと笑い、わたしの前に赤いポチ袋と白いポチ袋を並べた。 「ここにあやへのお年玉が入っている。どちらか好きな方を選ぶといい。ただし、どちらかには

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