【超短編小説】 あの子

 あの子、また可愛くなった。
 ほんの最近まで顔文字みたいな印象だったのに、マンガのヒロインぐらい魅力的になった。
 好きな人ができたらしい。
 
 今度は髪型を変えたみたい。艶やかなストレートの黒髪が、ぱつっと肩のあたりで切り揃えられていた。あの子は、クラスのみんなの注目を浴びて控えめに「ありがとう」と、乙女椿のような色をした唇ではにかんでいる。そんな姿を私は鼻で笑う。
 
「うわー、どんどんかわいくなるね。あの子」
 私の隣で真美が眠そうに頬杖をついてそう呟いた。気に入らない。
 あの子が照れくさそうにこちらへ向かってきた。わざわざ。
「おはよう」
「おはよう。髪、イイ感じじゃん」
 真美が頬杖をやめて素直に褒めた。
「ありがとう。真美ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」
 真美に褒められて耳まで乙女椿のようになっている。私は最低限の礼儀でニコニコする。
 あの子は何か言いだけに私を見てすぐに俯いた。またこれだ。本当、気に食わない。

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