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懐かしい人から手紙があった。35年の時を経ても色あせないスベりの逸材から……

旧友からショートメールがあった。

小学校の同級生だ。

どうしたことか。
ボクと電話をしたいらしい。

しかも女子。
青天の霹靂へきれきやぶから棒。

なんとなくではあるが、
ダークな世界へ引き込まれるような、そんな不安にも似た期待に胸が高鳴った。

…え?それにしても誰だっけこの人。
あ、でも名前の覚えはある。完全に記憶にある。けどまったく思い出せない。
まっっっっったく思い出せない。

もしかして、いまさら……

え?

告白?

いやいやいや。

さすがにそういう気持ちであれば、
ボクの携帯番号を教えたれから
‘’結婚子持ち情報‘’ 
くらいは聞いているはず。

同窓会か?
いや、それはない。絶対に違う。
あいにくボクは参加できなかったが、40歳のときに実家に案内状が届いていた。

じゃ、マルチ商法系?
いや、最大手が業務停止を命じられたこのタイミングだ。警戒されていると分かった上で、そんなマヌケな勧誘はないだろう。

じゃ、なんだ。

え?やっべ、ぜんぜん分からん。

気にはなるが、仕事中で電話ができない。
名前は薄っすらと覚えている。
けど、ボクの小学校時代はオトコ同士でスポーツに明け暮れていたので、女っ気なんてのはまったくなかったし、

連絡をしてきた彼女と絡んだ記憶は、
まったくない。

やっっべ。マジでわからん。

まてよ。

ショートメールに返信するにしても、これ、敬語かタメ語のどっちだ?同級生だからタメ語でいい。
にしても、くだけた感じでいくのか、それとも丁重ていちょうにいくのか。まったく話したこともない相手という距離感が、この状況になってなお、関係をややこしくさせた。

久々の再会には、ファーストコンタクトがきもである。それによって、その後の二人の距離感はガラリと変わる。
たかだか同級生からのショートメールに、ボクは尋常ではないほどにソワソワした。

本来、同級生だから“久しぶり!” で良いが、話した記憶すらない旧友、それも異性に対して、いきなりそれでいった場合
‘’え、そんな感じ?‘’
と引かれるリスクを背負う。

そんなしょうもないこだわりを
ああでもない、こうでもないとさんざん迷った挙げ句、

“お久しぶりっす”にした。

‘’お久しぶりです‘’にすると、同級生なのにどことなくよそよそしい。
‘’っす‘’
を少しだけ挿入し、丁寧さと、フレンドリーさを垣間かいま見せる特殊な戦術を組み入れるようにしたのだ。

そしてその後も
どうにかくだけさせようと知恵をふりしぼった結果、

‘’しまっす‘’
という日本語としては明らかにヤベェ謎のセンテンスを挿入してしまい、「これだけは絶対に違うだろ」と自分に壮大なツッコミを入れるハメになった。

完全にスルーだった。

一呼吸置いて、夕食後に電話をかけた

トゥルゥ…

ガチャ

(美保ちゃん)
‘’あ、もしもしぃ‘’

電話を待ってくれていたのであろう。
1コールも待たずに出てくれた。

(ゆづお)
「お、お、おお〜!!ひ、久しぶりい〜!!…………っす」

余りの不意打ちに、
気持ち悪い感じになり、あろうことかあわてふためいてしまった。

無駄にハイテンションのトーンで
「久しぶり」と叫び散らかし、その後に蚊の鳴くような声で「っす」を少しだけ挿入することで、「っす」が入ってるのかどうか分からなくさせる秘技を使ったのだ。

‘’あ、いや。ごめんね、突然‘’

お、おぅ。普通やないかい。
あれだけ「っす」にこだわったのに、相手からは躊躇ちゅうちょなくタメ語で話しかけられた。あぁ、こんな感じでいけるのか。

しかし相手をナンて呼べばいいのか、という命題がなお残っている。当時は小学生。
異性を呼ぶときは、名字の呼び捨てであった。

でもアラフォーになった今、
当時のように呼び捨てにしてもいいものなのか。かと言って当時、呼んだこともないのに、美保ちゃん、は違うだろう。
大学生のノリはダメ。絶対にダメ。
それくらいの常識はある。

ここは○○(名字)さんと言うべきであろうか。

どうしようかと迷ったが、
二人の微妙な距離感であるがゆえに、きっと相手も同じことを考え、悩んでいた。

序盤に何を話したのかまでは覚えていないが、ボクの名前すら呼んでくれなかった。
‘’そっちは?‘’とか、
ところどころでわざとらしく
‘’あなたさまは?‘’なんて呼んでくる。

そんなこんなで呼び名も定まらない中、
興奮したりテンパったりしながらも
互いの近況の自分語りを一通り終えた。

その頃には、多少正気を取り戻し、相手との最低限のコミュニケーションが成立するようになってきて、

空気が温まったところで
小学校時代の思い出話になった。

‘’あれ、覚えてるぅ?‘’
彼女はボクとの思い出をツラツラと語り始めた。彼女が口にすること。たしかに薄っすらと記憶には残っていた。
が、その思い出を語れるほどに明確な記憶はない。そのときの映像が頭に出てこない。

返答に迷った挙げ句、

「あはは。懐かしいなああ」
とボヤいてみせた。

「あの頃、楽しかったなああ」
とボヤきをかぶせた。

懐かしいね、
楽しかったね、
ではない。

どのように懐かしいのか、どこが楽しかったのかというディテールは伏せ、あくまで抽象的に漫然まんぜんたる感想を連呼する。

このどこか遠い場所を見つめながら独り言を言うかのようなこの謎のボヤき形式なら、具体的なことを思い出せなくても
‘’どの辺が?‘’とツッコまれることもない。

主導権を握られることなく、あくまで自分のペースで、自分のタイミングで、試合を進めることができる。

無敵のボヤキ

土壇場で思い付いた、まさに火事場の馬鹿力が生みだした伝説の対処法だった。

電話は核心部に入った

‘’あ、本題に入るけどね、実はタイムカプセルが……………それで、………が、………とか、………も残ってるから、送りたくて。住所教えてほしいの‘’

あ、そうか。

完全に忘れていたが、
小学一年生のころ、「大人になった自分に手紙を書こう」という企画があったらしい。担任の教師がしっかりと保管していたらしく、美保ちゃんが全員分を担任から預かり、責任をもって皆に送り届けているとのことだった。

いまどきショートメールで住所を聞くなんてオレオレ詐欺的な疑いをもたれる可能性もあるから、信用してもらうために全員と電話しているとのことであった。

なるほど。
それで思い出話をしてきたのか。
ボクとの記憶なんて、思い出すのにすごく苦労しただろうな。

とても手間をかけたな。

わるいな。ありがたいな。

連絡をくれたことへの感謝と、住所をショートメールで送る約束をして、呼び名は最後まで互いに言えないままではあったが電話を切った。

気づけば21時をまわっており、
30分も電話していた。

なんだかんだで旧友との話が楽しかったのだろう。ボクにしては近年まれにみる長電話だった。

2日後に仕事から帰ると封筒がダイニングテーブルに置かれてあった

封筒を手にした瞬間、
なんとなく興奮していた。それは喜びによる興奮というよりも、うぎゃあやめろ的興奮である。

妻や子どもがいる前で、
小学生の頃の自分が書いた手紙を見るなど罰ゲームに等しい。

ワクワクする家族を前にして
覚悟をきめて封筒を開けた。

手紙の冒頭。
宛名の時点でスベりたおした。

大人になったボクチンへ

‘’え?ボクチンってなに?男の子だからチンチンのこと?‘’

長女がニヤけもせず、真顔でツッコんだ。
あなたと同じ年齢のとき。
もはや現世では同じ年代の人にも伝わらない渾身こんしんの悪ノリ。

子どもの前で心が折れそうになった。

まさか宛名の時点でスベってるとは思わないから。35年の時をへて、子どもを前にして宛名でスベる。
ようやく分かった。今、スベり倒しても図太い神経でデンッ、といられるのは、この頃からすでにそんな素養そようがあってきたえぬかれていたからだ。

仕方なく内容も読んだ。
今と変わらず内輪うちわのノリが大好きだったんだろう。

「か」がつく人と結婚してね

面白さ以前に、
何十年も時を経た自分に読まれることを想定できていないアホな子どもである。当時の自分が好きだった女子を想定して書いているようだが、まったく「か」の心当たりがない。ましてや「か」のつかない現妻とこれを一緒に見る可能性があるとは、

小学校一年生のボクは
さすがに想定していなかったであろう。

それで薄っすら思い出したのは、
当時、「たとえ将来の自分が相手でも、好きな女性を伝えるのは恥ずかしい」というマセガキながらの葛藤かっとうがあったことだった。

アホか、と思う。
未来の自分にまで好きな女子を隠すな。おまえのくだらない自意識のせいで、まったく当時の思い出話にもならないし、子どもの前で笑いにも変えられない。

ボクが当時好きだった記憶が残っている子の
名前には「か」がついていない。
きっと、これを書いた瞬間限定で好きに思った人のことを書いたのであろう。

35年後のおまえも、空気の読めなさという点においては、やっぱり変わらない。
そう、当時のキミがその土台をつくったのだ。

人はなかなか変われない、
三つ子の魂百まで、
というとても大切な教訓を学んだ。

ぼくは、コックさんになりたい

そこはやな、
ボクはコックさんになりたい「っす」にしておけよ、おまえ。

それで、この記事がビシッと
しまってたんやで。

でも、ちゃんと一言だけキミに返信しておこうか。

「か」がつく人と結婚できなかったけど、
キミの人生の歩みのおかげでさ。

ボクは世界一大切と思える家族と巡り会えたよ。

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