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【読売教育賞】優秀賞を頂きました。

 実践の要点を以下にまとめました。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

テーマ「ゲーミフィケーションを導入した植生フィールドワーク」

背景

 生態系保全などの理解のためには、生産者たる植物に関する理解が必要不可欠であると考えられるが、静的な植物に対する興味・関心は非常に引き出しにくく、ただ単に植物名を暗記する活動になりがちであった。これを脱するために様々な以下のような手法が実践されているが、いくつか問題点あると感じていた。

従来法

○教員が学校敷地内の植物や近辺の植生をガイドして回る手法の問題点
・少人数であれば成り立つが、1クラス40人となると、後方の生徒は話を聞くことすら難しく、特に植物に対するエンゲージメント(事物や事象等に対してポジティブで充実した心理状態のことを指す)が高まっていない状態では、ただ列についていくだけということになりがちである。
・ガイドの後、各種レポートを課すことが考えられるが、そもそも受動的な態度でフィールドワークに参加しているのであれば、効果的なものとなるとは考えにくい。
・近隣ではなく、白神山地などの森林に出向き、専門的なガイドの下実施するのであれば、非日常感も相まって大きな効果があると考えられる。しかし、コストや負担が大きく、通常の授業の中で取り入れるのは困難である。
〇植物図鑑などを渡し、生徒が主体的に調べ学習をする手法の問題点
・植物に対するエンゲージメントが高まっていない状態では、市販の植物図鑑の内容は、生徒にとっては情報過多であり、場合によっては全ての植物が同じに見えてしまう。
・事前に実際の葉などを準備し、判定基準等を講義することが考えられるが、1クラス分の葉を準備するのは負担が大きく、やはり講義形式では受動的になり、主体的な学びがもたらされているとは言い難い。また、植物図鑑を1クラス分準備するというのも負担が大きい。

実践

〇ゲーミフィケーションの要素を取り入れた授業デザインが、生物及び生物基礎の目標達成に効果的であり、また、従来法の課題点を解決することを明らかにすることが、本教育実践のねらいである。

ゲーミフィケーションとは?

〇元々ゲームではないものを、参加者が自発的に参加し、独自のルールや目標があるものとしてデザインしなおすことがゲーミフィケーションであり、以下のA~Kの事柄についてゲームの特徴を活用することが可能であるとされる。
 A 問題解決を促す
 B 初心者から専門家や熟達者まで興味が持てるようにする
 C 大きな課題を対処可能なSTEPに分解する
 D チームワークを促進する
 E プレーヤーにコントロールの感覚を持たせる
 F 参加者それぞれが個人的な経験をする
 G 独創的な考え方に報いる
 H 革新的な実験を阻む失敗への恐怖を減らす
 I 多様な興味やスキルセットを支援する
 J 自信を持たせる
 K 楽観的な態度

〇本実践では大きく2つの段階に分けてバイオームの単元を取り扱い、ゲーミフィケーションの有効性を検証した。
〇第一次では、学校敷地内の植物を用いて、フィールドワークを実施し、第二次では、Google earthを用いたワークを実施した。各次で特に重視したゲーミフィケーションの要素を以下に記す。

概要

○第一次

 【お菓子が植物達によって封印された!このままでは世界からお菓子が消えてしまう。封印を解こう!】というファンタジー世界を設定し、生徒のエンゲージメントを高めた。
 全体像はいわゆるウォークラリーの形を取っているが、チェックポイントをQRコードどしたことで動画やフォームを用いた展開が可能となり、ゲーム性を取り入れることが容易となった。また、図鑑をデジタル化し、教員が構内の植物を用いて自作することで「必ずこの中にある!」という安心感を与えることができた。

○第二次

 Google earthの機能を用いて世界旅行に行き、【絵葉書(SS機能)】と【土産話】を作るという活動を行った。【典型的なバイオーム】だけでなく【自分のお気に入りの場所】を課すことでオープンエンドなものとなり、個に応じたアウトプットができた。
 また、実際の旅行のオプショナルツアーのような形で【問い】を設定した。【問い】には挑んでも挑まなくても良く、何をしていいかわからない生徒が主体的に行動するための足掛かりとした。

結果

○第一次では、教材に強く惹きつけられる様子が確認でき、何とかして謎を解こうとする姿が各所で確認できた。終了後の振り返りにおいても97%以上の生徒が植物に対する興味・関心を持ったと答えた。

○第二次では、個に応じた様々なアウトプットが確認できた。特に記述内容には、気温や降水量など生育環境との関連を捉えているものもあり、また、人間生活に及ぶものまであった。

○ゲーミフィケーションの要素を取り入れた授業デザインが、少なくともバイオームの分野では大きな成果を挙げることが示された。しかし、「持続可能な社会の創り手」を育成するという最重要課題のスタートラインについたに過ぎない。この実践を契機として、生徒自身が育つような授業を教科全体、学校全体へと波及させていけるよう研鑽を重ねていきたい。

参考文献

井上明人『ゲーミフィケーション―がビ ジネスを変える』NHK 出版、2012
藤川大祐「ゲーミフィケーションを活用した「学びこむ」授業の開発」『千葉大学教育学部研究紀要』第64巻、2016

協力 滋賀県立河瀬高等学校 故・青木善慶 教諭 


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