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『勝手』の必要性

この度、本をつくりました。

言い出しっぺは、岩手県遠野在住の富川くんです。富川くんは、遠野で地域の幅広いクリエイティブ案件に携わったり、地域の文化の発掘・発信をしたり、観光関連の事業をやったり、人材育成をしたりと頑張っています。


富川くんは、元々、東京・赤坂のデジタルエージェンシーに勤務していて、ぼくと大手食品メーカーの案件でタッグを組んでいました。その頃は、経験が浅く、世間知らずで、なんのスキルもない、愛想笑いと不器用な謝罪だけが取り柄のような若手会社員でしたが、地方に移住し、その土地の文化に惚れ込み、『遠野物語』というチャーミングなモチーフと出会ったことで、一気に化けました。遠野で化けた“お化け”です。

柳田国男が36歳の時に自費出版した『遠野物語』。文語体で書かれたこの物語は、本邦民俗学の起点とも言われますが、遠野の方でも読んでいない方が多数いる様子です。そんな状況をもったいないと嘆く富川くんから、「『遠野物語』を誰もが読みたくなる“踏み台”のような存在になる本をつくりたい」と相談がありました。奇しくも、富川くんは36歳。『遠野物語』と同じ6月14日に発刊したいという依頼でした。

制作、印刷や製本・発送のスケジュールを加味すると、正味の制作期間は1.5ヶ月。その間、ぼくは引っ越しもある。ただ外装のデザインするだけではなく、全96ページにデザインを加えないといけない構成だったので、「間に合わないし来年でよくね?」と何度も依頼をいなそうとしましたが、「どうしても36歳に発刊したい」と頑なだったので、渋々了承しました。

この話の何がひどいかというと、ぼくに声をかけるときにまともなギャランティの準備がないってことです。売れたらなんとかしますという有様で。普通なら説教ものですが、遠野に送り出したのはぼく自身だったし、何しろ必死にお願いされるもんだから「まぁ、ぼくも一冊入魂の本をつくってみたかったしこの機会を活かすか」と、自分のメリットと重ねることでモチベーションを生み出すことに成功しました。

遠隔で作業するため『Miro』で管理された台割り
はじめての読者を振り落とさないために、n=1マーケティング?を駆使。

ここで本題。

ものをつくるのに一番必要なものは何かということです。ぼくは、本をつくる技術をまんべんなく有しています(クオリティはさておき)。企画、編集、執筆、アートワーク、撮影、デザイン、印刷知識、金勘定。でも、これまで1冊も本をつくってこなかった。本をつくりたいと思っているにも関わらず。

今回、スケジュール通りに本が完成したのは、紛れもなく富川くんの『6月14日までに本をつくりたい!』という強固な思いのたまものです。ぼくの都合(お金のことも、スケジュールのことも)なんて二の次に、自分の勝手を押し通したからこそ本は完成しました。これは、他人の顔色をうかがっていたら生まれなかった本です。結果、この本の制作に携われてよかったし、ぼく自身の糧にもなりました。この制作に関わったメンバーみんなも、富川くんのバイタリティに“結果的に”感謝していて、「次は台湾語バージョンをつくって台湾に行こう」なんて展開にもなっています。

もちろん、今回の、富川くんの作法を美談にしてはいけない部分はありますが、この熱狂的な「つくりたい!」という意欲の重要性を改めて感じました。ぼくよりもよっぽど富川くんの方が“クリエーター”ということです。宮大工・西岡常一さんの「ものづくりで一番大事なのは執念だ」という言葉を思い出しました。ぼくには執念が圧倒的に足りていない。反省すべきことです。

とにかく、苦労の甲斐もあって熱のこもったいい本ができたと思っています。ぼくのギャランティはこの本の売り上げに依存しています。興味のある方はぜひ手に取っていただけると幸いです。

余談。
“つくる”に必要な情熱をどう生み出すかという大事な部分については結論めいた仮説があります。それは〆切りの存在。かの宮崎駿さんも「〆切りがあるからつくるんだ」と言ってました。ということで、ぼくはまず、〆切りをつくります。それがクリエイトの第一歩のはず。

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