君のことを考えると、心が温かくなる
消えない悲しみも喜びとあなたといれば
「それでよかったね」と笑えるのが
どんなに嬉しいか
目の前の全てがぼやけては溶けていくような
奇跡で溢れて足りないや
『アイネクライネ』の歌詞。
9月の初めの金曜日、仕事終わりに彼氏とふたりで川越へ行った。
川越に行くにはTJライナーというものに乗らねばならなかった。全席指定制だった。
毎朝、通勤電車で横並び7列シートに座り地下ばかり潜っているせいか、二列シートに座り都外に向かって駆け抜けてく車窓をみていると気持ちが高揚した。
途中で大きな急停車があった。人身事故だった。初めて遭遇した。
彼は、金曜の夜なのに珍しいな、と言った。
きっと金曜の夜だったから。それまで必死につなぎ止めた糸が、平日の終わりに切れちゃったのかもしれない。もう、生きてくためのHPがなくなっちゃったのかもしれない。
と、上司曰く共感能力が凄まじいらしい私は、1人で勝手に暗くなってしまった。
実は最近、4月に入社してから絶好調だった私の中の何かが、プツリと途切れてしまっていた。
7月から2ヶ月間、笑ってしまうくらいずっと、なにかしらの具合が悪い。
川越での旅行中にパニックで過呼吸になってしまった。運勢の周期があるとするなら、7月から悪い方に突入しちゃったのかもしれない。
いい事があれば、その分反動で良くないことが起きる。私にはそれが天罰みたいに思えてしまう。幸せになることを許されていない気持ちになる。
彼にそう話した。
すると彼は私に、
いつか君に、自分は幸せでいていいんだと思って欲しい。そのために頑張るね、自分も自分らしく大人になろうと思う
と言った。
川越で引いた大吉のおみくじには
太陽が頭上に輝いているような盛運
とあった。そう信じたい。
川越での小旅行の翌日、縁のあった教会に彼氏が一緒にきてくれた。
私、無宗教だけど、心の拠り所としている特別な教会があるの
と彼に話すと、
一緒に行ってもいい?
と聞いてきた。
イギリスの高校に通ってたとき、週3で教会に行ってたらしい。(チャペルでは1番前の席でずっと爆睡してたらしい)
日本でのタブー観的に、宗教がらみのことを話すと身構えられるかなと思ったけど、すんなり行きたいと言ってきたことに驚いた。
田舎の県立高校で育まれてしまった私の偏見と、グローバルな環境で育まれてきた彼の価値観の差を痛感することになった。
この教会には、ボロボロになっていた私を見かねた父親の勧めで去年1年間だけ通っていた。
閑静な住宅地にあり、礼拝に来ているのはお年寄りばかり。オルガンが響く、坂の上の白い教会。
半年ぶりにお会いした牧師さんは、オルガンの音を聴いてしくしく泣いたせいで泣き腫らし顔の私と、その隣に立っている彼氏を見て、「ボーイフレンド?」と微笑みながら優しく尋ねてきた。
去年、この場所に来たときは、決まって泣いていた。
今回も相変わらず泣いてしまってはいたけど、私のことを気にかけてくれていた牧師さんに、大切な彼のことを紹介できてよかった。嬉しかった。
あるタイミングで、彼が
正確に言葉にするのは難しいけど、君のことを考えてると心が温かくなる
と言ってくれたことがあった。
どんなに彼が好きでも、私を苦しめる心の中の重たいものとは、結局は1人で向き合っていかなきゃいけないということに、たまに絶望もするけれど。
でも、彼といると、目の前の全てがぼやけては溶けてくような、温かい時間が流れていく。
私は私のことを、運がいい人間だと思うことができる。
もうすぐ10月。太陽が頭上に輝くような、おみくじ通りの秋を迎えたい。
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