見出し画像

オートバイのある風景14 新婚と新車のゼファー750


大学4年に上がる直前に事故で大怪我を負ったりしたものの、彼女の協力で無事に卒業した僕は地元の印刷会社に就職した。入社式の前、卒業と同時に彼女と入籍したので、就職早々扶養家族が増えた申告をするという、ちょっと変わった新入社員ではあったけれど。

そして社会人2年目の春、いよいよ初めての新車を購入する決意をした。
候補は前年に発表されたCB750(RC42)、ゼファー1100、そして発売から2年経過したゼファー750だった。
ゼファー1100は発表されてすぐに幼馴染みが買ったので借りて乗ってみたが、何かしっくり来ない。体格的にもナナハンかな、という事もありCBとゼファーのナナハン2台に絞って検討する事になった。

CBは車格こそ堂々としているものの全体に地味な印象で、ステップやブレーキ周りなど各パーツの仕上げも言い方は悪いが実用車的な感じがして、見た目にもパッとしなかった。
そこへ行くとゼファー750は車格こそコンパクトで市場の人気は今ひとつだったが、メリハリの効いたデザインで各部の質感も高く感じたのだった。

そして何より、エンジンの性能曲線を比較したときにその差は歴然だった。CBはホンダらしくきれいなカーブを描いてパワー、トルクが立ち上がっていくのだが、ゼファーの方はトルクカーブにふたつの山があり、一粒で二度美味しい的なエンジンに思えた。
同じザッパー系のGPZに乗っていた事もあり、エンジンのフィーリングはおおよそ見当が付いてはいたのだが、ピークパワーがGPZより抑えられていたので、その分中速域の盛り上がりが厚いのではという期待も出来た。

これは乗ったら面白そうだぞ

当時はバイクの試乗車は殆ど無かったので、こうして検討するのが普通だったのである。こうして初の新車はゼファー750に決まったのだった。

いつものバイク屋さんで意気揚々と新車の注文をした僕だったが、タイミングが良いのか悪いのか、前年のモデルではあったが希望と同じワインレッドの在庫がたまたま1台残っていて値引きしてもらうことが出来た。
新車の完成検査が既に切れていたので、陸運局に車体を持ち込んでの検査、登録ということで新古車でもないけれどピカピカの新車でもない、何だか中途半端な納車ではあった。
新卒なのに新婚で同期の中では最年長という、ピカピカの新入社員ではなかった僕にお似合いと言えばお似合いだったのかもしれない。

このゼファー750とは本当に相性が良かったように思う。
カミさんが出産を控えていた時期だったので納車からしばらくはロングツーリングこそ行けなかったが、箱根や日本平などの峠道でもよく走ってくれたし、御前崎まで海岸線を流しても気持ちよく走る事が出来た。
バイク人生で初めてラジアルタイヤを履いたのもこのバイクで、あまりに良く走るようになったものだから調子に乗って、富士スピードウェイでの走行会にも二度参加した。

FISCOのパドックにて

たまに通勤で会社に乗って行くと、女子社員から
「茶袋さんのバイク、カッコいいですね」
なんて言われたりして…。

そういえば当時僕がいた営業部のアシスタントの女の子が、急にバイクに乗ると言い出して免許を取ったのがこの頃だった。買ったバイクは僕のゼファーと同じくワインレッドのスズキボルティー。
僕の草野球を見に来た事もあったし、飲み会でもよく隣に座ってたなぁ。
ふむ。
彼女もしかして僕の事…。
いやいや、そんな事はない。
うん、無い。
妻子持ちが何を考えているのだ。

思い出の中のバイク達、CBX400Fは今や200万円超だし、ゼファー750だって軽く100万円オーバーの今日この頃。
「今持ってればなぁ」というのと「あの時もしかして…」というのは似たようなものなのかも知れない。
男はつくづく単純でおバカで幸せな生き物だなぁと思うのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?